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2017/03/02 | KAJIMOTO音楽日記

●アンドラーシュ・シフ、来日を前に4人の作曲家の晩年を語る Vol.2―― ハイドン


3回シリーズのインタビュー、第2回目はハイドンについて。
今回も楽しみにお読みください。

(インタビュー全文は、公演会場で販売されるプログラムにも掲載致します)



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―― 以前、シューベルトのピアノ・ソナタには誰も手をつけようとはしませんでした。アルトゥール・シュナーベルなどのピアニストのおかげで、今日多くの人々に親しまれるようになりましたが、ハイドンのソナタはそのような幸運に恵まれていません。アマチュアのピアニストが弾く音楽だと思われているのではないでしょうか?

S: なぜだかわかりませんが、シュナーベルはハイドンのソナタを録音していません。アルフレッド・ブレンデルと私は多くのハイドン作品を録音していますが、ハイドンの魅力を世の中に広めるという意味では、あまり貢献しているとは言えないでしょう。
 ハイドンが偉大な作曲家であることは誰もが認めていますが、彼の並外れた創造力、豊かなイマジネーション、ユーモアのセンスを真に理解している人は多くありません。たとえば彼の最後のソナタ(Hob.XVI:52)ですが、変ホ長調の曲なのに、第2楽章はホ長調で書かれ、中間部はホ短調になっています。なんと大胆で奇抜な発想でしょう!
 彼は「パパ・ハイドン」と呼ばれ、温厚な老人というイメージで語られることが多いですが、彼の作曲書法はそのイメージとはまったく違います。彼の楽譜にはまったく無駄がなく、最も少ない音符で実に多くのことを語っています。素敵なピアノ三重奏曲など、彼の作品を弾くたびに、私はこの上もなく幸せな気持ちになり、彼こそがこの世で最も偉大な作曲家なのではないかと思います。この栄誉を私はすでにバッハに捧げているのですが……(笑)


―― 現代の聴衆に彼のユーモアが理解できるでしょうか?

S: 文章や言葉で少し解説する必要があるでしょう。たとえば最後のソナタ(Hob.XVI:52)ですが、変ホ長調とホ長調の間の距離感を聴衆が理解していなければ、ハイドンのユニークな発想、「調を間違えた」と思わせるユーモアに気づくことはできないでしょう。同じように、第3楽章の冒頭のG音の連続は「冗談」……、ただ聴いただけでは、第2楽章の結尾部のホ短調の続きのようですが、左手にE♭音が現れて、騙されていたことに気づき、その後で変ホ長調に戻ります。
 しかし、ハイドンはただユーモアにあふれていただけではありません。この作品は、小さなモティーフで大きな構造物を組み立てるような技法を使っています。第2楽章の主題のメロディーは第1楽章の展開部から生まれ、作品全体が循環し、ハイドンの傑出した才能を感じさせます。それがベートーヴェンに大きな影響を与えたことは間違いありません。


―― ニ長調のソナタ(Hob.XVI:51)の冒頭の部分は、まるでシューベルトの作品のようですよね。

S: そうなんです! 《ピアノ五重奏曲「ます」》の冒頭の部分に似ていますよね。本当に美しく素敵な作品です。でも、演奏する人はあまりいません!

―― あのように滋味にあふれた語り口は、ハンガリーに由来していると思われませんか? あなたはハイドンの音楽の中にハンガリーの要素を感じることはありませんか?

S: お答えするのは難しいですね。エステルハージ家に仕えていた時期に、ハイドンはハンガリーのジプシー音楽をたくさん聴いていたはずで、それが彼の音楽の中に時折現れています。とにかく私に言えるのは、ハンガリーはウィーンより悠久で奥深い影響をハイドンの音楽に与えているということです。
 もうひとつ、ハイドンの音楽に影響を与えているのはイギリスです。イギリスはハイドンを歓迎し、彼の偉大さを褒め称えていました。それがなぜだか、私にはわかるのです。現在イギリスはEU離脱を愚かしく表明していますが、彼らの上質なユーモアの伝統と文化は、ハイドンの音楽の中に息づいていると思います。


(2016年10月 台湾にて)


聞き手・文: 焦元溥(著述家・研究家/音楽ジャーナリスト)
訳: 森岡 葉


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