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「ギル・シャハム ヴァイオリン・リサイタル」曲目について、一部ご紹介! 「ギル・シャハム ヴァイオリン・リサイタル」曲目について、一部ご紹介!

©Chris Lee

10月31日(火)に東京オペラシティ コンサートホール、11月3日(金)に大阪の住友生命いずみホールで行われる、現代最高のヴァイオリニストの一人ギル・シャハムのヴァイオリン・リサイタル(ピアノは盟友、江口玲)。

今回のプログラムでは、モーツァルト、そしてフランスのバロック期のルクレール、近代のフォーレはともかくとして、皆さまに馴染みのない曲がいくつかあり、お問合せも多いことから、これらの楽曲について当日配布プログラムに載せる文章を先に公開させていただくことに致しました。

(ちなみに、ドルマン「ヴァイオリン・ソナタ第3番」は過去の来日公演で演奏しております)

シャハムが熟考してセレクトするだけあり、また他ならぬ彼が弾くのですから、決してわかりにくい曲ではありませんし、愉しめることこの上ない…と思っております。

どうぞ楽しみにしていてください。


曲目紹介

ドルマン:ヴァイオリン・ソナタ第3番「ニグニム」

 イスラエル生まれのアヴネル・ドルマン(1975-)は、テルアビブとジュリアード音楽院で作曲を学んだ作曲家。彼のヴァイオリン・ソナタ第3番《ニグニム》は、その題名からも明らかであるように伝統的なユダヤ音楽の基本的な音楽概念「ニグン」を元にした作品で、2011年に作曲された(シャハムが委嘱・初演)。ドルマンは作曲に際し、世界のさまざまな地域におけるユダヤ教の伝統音楽を探求した結果、世界中のユダヤ音楽に共通する音楽的要素を発見したという。全4楽章からなるこのソナタでは、既存のユダヤ旋律こそ見られないが、その共通する音楽的要素に由来する曲の主要なモードと旋律的身振りが使われている。また、第2楽章にはジョージアの民謡のリズムや和声に見られる原理が用いられ、第4楽章はマケドニアの舞曲に着想を得て作曲されており、ユダヤ音楽に限らない世界各地の伝統音楽の要素が融合した響きに耳を傾けたい。

ウィーラー:アイソレーション・ラグ

 スコット・ウィーラー(1952-)は、現在はエマーソン大学で教鞭をとっているワシントンD.C.生まれのアメリカ人作曲家。独奏曲から管弦楽曲まで様々な作品を発表しているが、中でも声楽および劇音楽のジャンルでよく知られている。独奏ヴァイオリンのための《アイソレーション・ラグ》は2020年のコロナ禍でシャハムのために作曲され、彼によって同年5月、オンラインのライブストリーム・フェスティバルで初演された。この小品に散りばめられたメンデルスゾーンやブラームスのヴァイオリン協奏曲からの引用は、ロックダウン中にアンサンブルが出来なかった状況下で、一人の奏者がオーケストラを想う心情を映し出しているかのようである。

ライミ:ヴァイオリン・エチュード「アンガー・マネジメント」

 マックス・ライミ(1956-)は1984年よりシカゴ交響楽団のヴィオラ奏者を務める傍ら、自作の室内楽や管弦楽曲の数々を発表しており、後者はムーティやバレンボイムらによっても演奏もされている作曲家。
 エチュード《アンガー・マネージメント》は、元はヴィオラ用に書いた自作の「3つのエチュード」を後年ヴァイオリン用に編曲した作品である。短い曲ではあるものの、ほぼ全てが16部音符な上に重音も多く、極めてヴィルトゥオーゾ的に書かれている。シャハムは以前シカゴ交響楽団と共演した際、2日間でこの作品の譜読みをしてアンコールに演奏し、作曲者をえらく驚かせたそうだ。

エスメイル:When the Violin

 リーナ・エスメイル(1983-)は、ジュリアード音楽院とイェール音楽院で作曲を学んだインド系アメリカ人の作曲家。現在は、インドと西洋の音楽伝統をつなぐ異文化音楽を推進する非営利団体シャストラの芸術監督も務めている。
 《When the Violin》は14世紀のペルシャの詩人ハーフェズのテキストを題材に書かれ、編成を異にする複数のヴァージョンがある。今回演奏される独奏ヴァイオリンのための作品は2020年に作曲された。東洋風な雰囲気を醸し出すドローンにポルタメントが組み合わされ、終わりも始まりもなく、行き着く先のない揺れ動く和声により生み出される音響が醸し出す極めて独特な雰囲気に身を委ねたい。

文:内藤 眞帆(音楽学)

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