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アンドレ・ワッツの訃報に寄せて アンドレ・ワッツの訃報に寄せて

20世紀後半のピアニストの中でも輝かしい存在であり、日本でも人気のあったアメリカの名ピアニスト、アンドレ・ワッツさんが7月12日に逝去されました。77歳でした。

1946年生まれ。第二次世界大戦中から戦後にかけて1940年代生まれのピアニストには、マルタ・アルゲリッチ、マウリツィオ・ポリーニ、ダニエル・バレンボイム、ネルソン・フレイレ、クリストフ・エッシェンバッハらがいます。何か自然現象を目の当たりにするように続々と出現する、こうした綺羅星のようなピアニストたちの中にワッツさんもいました。
彼はわずか9歳でフィラデルフィア管弦楽団と共演するという神童で、特に脚光を浴びたのは16歳の1963年、急病のグレン・グールドの代役としてレナード・バーンスタイン指揮ニューヨーク・フィルと共演したリストのピアノ協奏曲第1番。ここからワッツさんの広く世界的な活躍が始まりました。アメリカでは先述の2つをはじめ、シカゴ響やボストン響と、ヨーロッパではベルリン・フィルやロイヤル・コンセルトヘボウ管、ロンドン響、イスラエル・フィルなど錚々たる楽団と共演しています。

ワッツさんはバーンスタイン&ニューヨーク・フィルとは、1968年にブラームスのピアノ協奏曲第2番を録音しており、これは当時から名盤と誉れ高いものでした。一般に大家でないと弾けない曲と言われるこの音楽で、ワッツさんは野生動物の美しい敏捷さを思わせるような鮮やかなピアニズムと、対照的に実にナイーヴな深い内省の両方を備えた演奏をし、聴く者を驚かせたものです。
こうした一見対照的な面の両立は、特にその後の彼の重要なレパートリーとなるリストとシューベルトの演奏に反映され、数多い来日公演でこれらの曲を弾いた方々も多いと思います。その最後となった2009年の日本ツアーでも、この2人の作品が披露されました。硬質なタッチで豪壮に弾かれたリストの「ソナタ ロ短調」、そしてあたたかい歌に満ちたシューベルト「さすらい人幻想曲」はワッツさんの最良の姿を示していて忘れ難いものでした。
ワッツさんと国内外で共演の多かった、指揮者の大友直人さんも「音楽的には厳しい人でしたが、本当にあたたかい人格者でした」と語っています。

長きにわたり、素晴らしい音楽を私たちに届けてくれたアンドレ・ワッツさんに改めて深い感謝の念を表すとともに、心からご冥福をお祈りいたします。

KAJIMOTO

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