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サー・サイモン・ラトル指揮ロンドン交響楽団来日!── 10/2川崎公演を聴いて サー・サイモン・ラトル指揮ロンドン交響楽団来日!── 10/2川崎公演を聴いて
ついに来日しました!サー・サイモン・ラトル指揮ロンドン交響楽団(LSO)。
一部の特別な例以外、コロナ禍による入国制限によって海外オーケストラが来日できない中、弊社では2019年秋のロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団以来、オーケストラの招聘公演は約3年ぶりとなりました。
長かったです。
ですから、今度のLSOの来日では、10/2の日曜日、ミューザ川崎シンフォニーホール公演での最初の曲、ワーグナー《トリスタンとイゾルデ》の「前奏曲と愛の死」の一音目が鳴った時、それも大人の成熟と厚みをもったあたたかい音を耳にして、涙がこみあげてきました…と、こうしたことを書くのをお許しください。本当に喜びもひとしおだったのです。
開演前から、客席を埋めた大勢の聴衆の方々のうちに、普段よりもはるかに熱を帯びた期待感がひしひしと感じ取れました。そして思い思いにステージに登場して音を出すメンバーの活気に目を注ぐ眼差しも、いつもより強かった気がします。
この公演での曲は先述のように、ワーグナー《トリスタンとイゾルデ》から「前奏曲と愛の死」、R.シュトラウスのオーボエ協奏曲(ソロは首席奏者のユリアーナ・コッホ)、そしてエルガーの交響曲第2番。
今回のラトル&LSOは、実に13曲!?もの曲を引っ提げての日本ツアーです。その気の入り方は尋常ではないですし、そもそもそれだけの蓄積を惜しげなく出せる、というところに自分たちの能力への自信も伺われるわけですが、この組み合わせでのプログラムは川崎のみ。特にR.シュトラウスに至ってはこの公演のみの1回ですから、聴衆の期待も当然大きかったでしょう。
かくして、どれも絢爛な筆致で貫かれたこれら3曲。
まずワーグナーでの、この楽劇の展開がそのまま感得できるような愛の神秘と激情が濃厚、そして劇的に描かれました。そのストーリー世界にすっぽり包まれるように。ワーグナー・オペラでイメージされる、たとえばミュンヘンやウィーンの歌劇場、またはバイロイトのオーケストラの重厚無比、そして官能性とは少々音色の感じは異なるものの、透明感のある音があたたかくやわらかい厚みをもって、ワーグナーの魔性の響きが滔々と迫るように広がってきます。さすが、これがベルリンやMETでこのオペラを何度か振って評判をとってきたラトルの《トリスタン》。
絢爛、そして官能性で共通するといっても、続くR.シュトラウスのオーボエ協奏曲は編成が小さく、室内楽的で機知に富んでいます。この鮮やかで明朗快活…モーツァルト的といってもいいような協奏曲のソロを吹いたのは、前述したようにLSOの首席オーボエ奏者、ユリアーナ・コッホ。
ソリストにとっては超絶的に難しい、コロラトゥーラ・ソプラノのアリアのようなこの曲を多彩に軽々吹ける首席奏者がいる、というだけでLSOがいかに世界屈指なオーケストラであること、推して知るべし。なんと鮮やか、オーケストラともこんな細かいアンサンブルのやり取りをしていたのか!と本当に気持ちのよい素晴らしさでした。同じ作曲家のオペラ《ナクソス島のアリアドネ》のツェルビネッタの大アリアを聴くような爽快さ。
(ソロ・アンコールのブリテンの曲も見事でした!)
休憩をはさみ、先ほどのシュトラウスなみに豪華なオーケストレーションをまとっているといっても、英国的な質実や気品をもち、内省的でもあるエルガーの交響曲第2番は、さすがこの国を代表する指揮者とオーケストラのコンビ、その誇りと自信に満ちた演奏の歩みはひと味もふた味も違います。私たち聴き手にとってもこの曲をLSOのようなオーケストラで聴く機会はなかなかないわけですから(第1番は何度かやっていますが)、実に貴重。
分厚い響きなのに、どのセクションの音の動きもくっきり聴こえます。特にエルガーだと金管の響きですね、パワフルでありながら突出することなく、決して品性を失わないジェントルさ…これはLSO全体の特性にもいえることですが、久しぶりに感心させられっぱなしでした。スコアの随所に“ノビルメンテ”=高貴に、と書き込むエルガーの演奏として、面目躍如ではなかったかと思います。ブルックナーのアダージョ楽章のような雄大な第2楽章や、牧歌的に始まり、諦念や黄昏の色合いとともにひとすじの希望の光も見えつつ終わるようなフィナーレにはなんともいえない感慨、余韻が。
そのあとのアンコール(ディーリアス「フェニモアとゲルダ」間奏曲)が終わってメンバーがひきあげても、聴衆のほとんどが席を去ることなく、長くスタンディング・オベイションが続きました。
そんな光景にも、また違った感慨にふけりつつ、改めて演奏を振り返ってみると、もちろんLSOの力あってのことですが(どのセクションも極めて優秀なことを、今回改めて痛感)、ラトルの指揮するオーケストラの響き、音楽はとても深化しつつも、基本的には変わらないな、と。昔からどの声部もクリアにより分けて響かせる一方、そこにはヒューマニスティックで血がたぎるような熱さが注入され、近代・現代の曲でも決してクリスタルなだけの無機的なものに陥らないし、またロマン派の曲では感情に溺れて和声の響きが犠牲になることもない。だから今回の3曲でもそれぞれの曲が、それぞれの作曲家の、音楽の個性の違いをつまびらかにしますし、それらの魅力がはっきりと強く伝わるのだな、と思った次第です。
さて、しつこく言ってしまいますが、先述のように今回のツアーでは13曲を披露!
10/5(水)、6(木)のサントリーホール公演では、前者がシベリウスとブルックナー(ラトル曰く、“自然つながり”)、後者はベルリオーズ、ドビュッシー、ラヴェルのフランス音楽に、そこから影響を受けたラトルの盟友でもあった武満徹、そしてまったく違う作風ながら同じ年に作曲されたシベリウス最後の交響曲とバルトーク「中国の不思議な役人」。
これらの曲がラトルとLSOのコンビだからこそ鮮やかに描き分けられるさま、ぜひご期待いただければ、と思います。
(これらの曲は京都と堺の公演で、既にたくさんのお客様が聴かれて大好評!)
(公演情報)
サー・サイモン・ラトル指揮 ロンドン交響楽団 日本ツアー2022 – KAJIMOTO(kajimotomusic.com)