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小菅優 ピアノ・リサイタル プログラム解説をご紹介します! 小菅優 ピアノ・リサイタル プログラム解説をご紹介します!

©Marco Borggreve

まもなく開催される 小菅優ピアノ・リサイタル。
公演に先駆けて、小菅自身の執筆によるプログラム解説をご紹介します。
コンサートの予習にぜひご覧ください!

Vol.1(全3回)

今回のリサイタルで私は、これまでの2つの大きなプロジェクト、ベートーヴェンのピアノ・ソナタ全曲演奏会と「Four Elements」プロジェクトを顧みつつ、今自分が一番向き合いたい作品を取り上げます。

2010年から2015年まで行ったベートーヴェンのピアノ・ソナタ全曲演奏会は、私にとってそれまでにない大きなプロジェクトで、各時代の貴重なソナタと一つ一つ丁寧に向き合う作業は20代から30代に向かっていた私にとってかけがえのない経験でした。お客様が足を運び、毎回私と共にこの貴重な作品と向き合ってくださったことに感謝しかありません。ベートーヴェンの細かい指示から映しだされる彼の心情、皮肉、哲学を含むあらゆるメッセージを読み取り表現することは、今後も私にとって大切な課題です。

そのあと全く異なる世界をお客様に聴いていただきたく、2017年から4年間かけて行ったプロジェクトが「Four Elements」です。エンペドクレスの四元素理論をもとに、あらゆる時代の作曲家がインスピレーションを受けて着手した4つの元素──水、火、風、大地にまつわる作品を取り上げました。絵画的な描写に限らず、元素がメタファーとしてメッセージや宗教的観念などを表すストーリーに魅せられ、各作曲家の個性や作曲家同士の関連性、歴史的背景を探っていくのは、実りある経験でした。

このような歩みを経て、両方のプロジェクトの要素を含め、今の私の演奏をお客様に聴いていただきたいと思い、このリサイタルの曲目を考えました。

前半はフランス・パリを中心に活躍したフランクとドビュッシー、そして2人を敬愛していた武満徹の作品を演奏します。

フランクはベルギーのリエージュに生まれ、著名な画家の一族の子孫でした。幼いころから優れた教育を受け、14歳のときに熱心な父の意向によりパリに移住、そして15歳でパリのコンセルヴァトワールに合格し、作曲とピアノの勉強に専念します。その類稀な才能に教授たちも度肝を抜かれたと言われています。優れたオルガニストに成長したフランクは、いくつかの教会を転々としたのち、サント・クロチルド聖堂のオルガニストとして活躍しました。同時に教鞭をとり、たくさんの生徒にとって父なる存在として親しまれていました。

当時ロッシーニのオペラ・ブッファなどをはじめ、娯楽を中心とした音楽が大衆の人気を誇っていました。フランクは芸術作品の本来の価値が認められるのが難しかったそうした時代に、J.S.バッハやベートーヴェンの流れを受け継ぎ、古典的な形式を保ちつつ、新しい作風と独自のスタイルを開拓していった作曲家です。そして何よりも芸術を大事にし、誠実で私心のない姿勢で音楽を追求しました。

オラトリオやオペラなど、常に作品はレッスンの合間をぬって書いていたものの、ピアノ作品やピアノ付き室内楽作品は10代後半より書いておらず、晩年になってからピアノ五重奏曲やベルギ─出身の名ヴァイオリニスト、ウジェーヌ・イザイのために作曲し、世界中で演奏されたヴァイオリン・ソナタ、そして本日演奏する「プレリュード、コラールとフーガ」などを残しました。

武満徹は戦後、アメリカ人が音楽を流すラジオのチャンネルを開設したときに、セザール・フランク(1822-1890)「プレリュード、コラールとフーガ」を聴いて激しい感動を覚え、それは「平和の歌、祈りのようなもの、幾多の辛酸をなめたあとの希望のようなもの」だったと語っています。

フランクは、最初J.S.バッハの「平均律クラヴィーア曲集」のようなプレリュードとフーガから成り立つ作品を試みましたが、すぐにコラールでその2つを繋げることにします。コラールのメロディがこの3章を結合していて、そしてフーガのテーマであるため息のようなモチーフも、3章に渡って登場します。

プレリュードは組曲における前奏曲の形式を持ち、流れるような音形でメロディを支え、そのテーマに答えるように、フーガのテーマが嘆きのように現れます。そして徐々に流れは激しくなっていき、頂点に達するとメロディは解決しコラールへと続きます。コラールは3つのパートに分かれ、断固とした定められたものを表すようなテーマは、現れるたびにより堂々と宗教的に歌われます。優れたオルガン奏者だったフランクらしいオルガンの響きを垣間見せながら作品は進んでいきます。短い移行部分のあと、フーガに入ります。徐々に険しい道のりを進むように展開され、クライマックスに達すると、コラールのテーマがプレリュードのモチーフと共に、まるで予言する天使の声のように現れます。声部が段々と密集してくると、それにフーガのテーマも加わり、全てが結合し天国的なロ長調に落ち着くのです。そして最後は希望に溢れる鐘の音が鳴り響き、全曲が締めくくられます。

この鐘の音はコラールのテーマの最初の4つの音を持ち、意識的ではなかったにしろ、ワーグナーの最後のオペラ《パルジファル》の鐘のテーマと同じなのです。フランクは作曲のアイディアが必要なときにガンガンとワーグナー《ニュルンベルクのマイスタージンガー》のテーマをピアノで弾いたと言われていますが、サン=サーンス、ドビュッシーをはじめフランスを代表する作曲家たちがワーグナーと微妙な関係を持っていたのは興味深いところです。その新しいハーモニーや音楽構造に興味をそそられ深く勉強したにもかかわらず、のちに彼らはかなり批判的になって悪評ばかり残すことに…どちらにしても話題になる価値はあったのでしょう。

小菅優 ピアノ・リサイタル
1月21日(金)19:00 開演(18:30 開場)東京オペラシティコンサートホール
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