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来日直前のトリフォノフ、公演プログラムを語る 来日直前のトリフォノフ、公演プログラムを語る

©DG / DARIO ACOSTA

──今回は19世紀までの作品と20世紀の作品を集めた二つのプログラムを用意されています。それぞれのコンセプトは何でしょうか?

 まず、20世紀の音楽に焦点を当てたプログラムは、世紀の初めから終わりにかけて、ピアノの作曲技法がどのように進化してきたかを明らかにしてくれます。この時代はピアノの語法が急速に変化し、10年ごとに新しい画期的なアイディアが生まれ、それが明白に現れる音楽作品として生み出されていきました。
 20世紀は、おそらく音楽言語の発展が最も速かった時代だったと思います。ある言語が別の言語を継承して、前の基礎の上に構築されていく、あるいはまったく異なるものとなって対照的な言語が生まれることもありました。このプログラムは、そんな興味深いピアノ曲の書法の進化を探究するものです。
 もう一つのプログラムでは、ラモー、モーツァルト、メンデルスゾーン、ベートーヴェンの作品を取り上げます。
 はじめに置くのはチェンバロのために書かれた曲ですが、これをピアノで再現するのはとても興味深いことです。現代のピアノは、チェンバロとは全く別の楽器です。だからこそ、音楽を伝えるうえでさまざまなアプローチ、クリエイティヴな可能性があります。
 ピアノがチェンバロと大きく異なるのは、どの楽器も同じようなイディオムを共有しているということ。私たちが現代ピアノの音に慣れすぎていることから、多くの楽器が似た定型の音を追いかけています。
 しかし古い時代のチェンバロや初期のピアノでは、スタンダードとなる基準がほとんどなく、場所によって異なる音が追究されていました。いわば実験の時代であり、その精神はこの時代の作品にも通じているのです。
 今回のプログラムには、私の好きなモーツァルトのソナタからの1曲、そしてメンデルスゾーンの「厳格なる変奏曲」があります。これはベートーヴェンの記念碑の落成にあわせて、ベートーヴェンの音楽から着想を得て書かれた作品です。
 続けて演奏するのは、ベートーヴェンその人による「ハンマークラヴィーア」。シンフォニーのようなスケールに迫る大規模な緩徐楽章、ワイルドなフーガのある終楽章を持つ、彼が書いたピアノ・ソナタの中で、最も多くのことが求められる作品のひとつです。

──ベートーヴェン「ハンマークラヴィーア・ソナタ」の魅力、演奏する喜びや難しさは何でしょうか?

 興味深いのは、この作品が、最初の版では実は2つの別々の曲になる予定だったことです。まず、もともと「序奏とフーガ」と呼ばれていたフィナーレが、別の作品としてまとめらました。残りの楽章は現行とは違う順番で並べられ、第1楽章、次に緩徐楽章として第3楽章、そしてのちに第2楽章となった気まぐれなスケルツォで閉じられていました。その後、ベートーヴェンは4つの楽章を1つの作品として発表することにしており、これはまた挑戦といえるものでした。
 構成の面、ピアニスティックな面の両方で、多くのことに注意を払わなくてはならない作品です。目を見張るような壮観な瞬間、チャレンジングな瞬間も多く、ベートーヴェンにとっていわば制作の途上といえる作品でもあります。作曲家としての一種の苦闘も感じられます。
 この曲は本来、演奏することが目的ではなく、むしろ音楽的な実験のために書かれた作品であり、それがコンサートで演奏されてもすばらしい、というほうが適切なように思います。

──こうした興味深いプログラムは、どのようにして思いつくのですか?

 私は普段から、何か新しいもの、今まで弾いたことのないものを勉強しようと常に心がけています。
 例えば「ハンマークラヴィーア」が入ったプログラムでいうと、これまでラモーの曲は弾いたことがありませんでした。彼の音の世界に憧れもっとよく知りたかったので、ようやく勉強できて嬉しく思っています。今シーズンは、特に関心を持ってきた楽曲ばかりを取り上げているので、数年間演奏するのに十分なプログラムといえます。
 20世紀の音楽のプログラムのほうは、6、7年前に思いつきました。あまり馴染みがなく、まだ個人的な経験がない時代の音楽をもっと探究したかったのです。
 同じ作曲家を取り上げ続けることは避け、シーズンごとに異なることにフォーカスして、新しい音楽を学び続けたいと思っています。

メール・インタビュー / 文:高坂はる香(音楽ライター)

ダニール・トリフォノフ ピアノ・リサイタル 2024 – KAJIMOTO

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