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2016/01/23 | KAJIMOTO音楽日記

●ブーレーズとポリーニ




 1995年、この年に日本のクラシック音楽史上画期的なことがありました。覚えてらっしゃる方には、色褪せない記憶となっているのではないでしょうか。このチラシの画像をご覧ください。そうそうたるアーティストの名前が並んでいます。梶本音楽事務所(現KAJIMOTO)はピエール・ブーレーズ・フェスティバルin東京を主催しました。「現代作品の演奏会が集客面でうまくいかないのは、奏者が音楽を本当の意味で自分のものにしていないから。現代音楽こそ説得力のある演奏をしないと、聴衆を魅了することができない。」というブーレーズの主張のもと、全ての曲が彼の指定する当代最高のアーティストにより演奏されました。(“社運を賭けた”プロジェクトであり、この時の意識改革がKAJIMOTOの現在につながっています(社長メッセージ)。)


 ところで、今年4月「東京・春・音楽祭」で、盟友とも言え、ブーレーズ・フェスティバルに参加した大ピアニスト、マウリツィオ・ポリーニが企画した演奏会において、ブーレーズの作品が演奏されます。

ポリーニ・プロジェクト
ベリオ、ブーレーズ、ベートーヴェン
~ポリーニ・プロデュースによる室内楽 第一夜・第二夜
2016年4月14日 (木) 19:00 開演 (18:30 開場)(公演詳細・チケット
2016年4月15日 (金) 19:00 開演 (18:30 開場)(公演詳細・チケット

詳細はリンク先からご覧ください。日本においてポリーニがプロデュースする彼の名を冠したプロジェクトはこれで4回目になります。もちろんプログラムはずいぶん前に決まっていたものですが、期せずして結果的にブーレーズへのトリビュートのような形になってしまいました。ポリーニも、ぜひこの公演を一人でも多くの方に聞いてほしいと強く思っています。

 ブーレーズ:《弦楽四重奏のための書》を演奏するジャック四重奏団は、ルツェルン・フェスティバルのアカデミーでブーレーズ率いるアンサンブル・アンテルコンタンポランのメンバーと共に学びました。その他の出演者、パスカル・ガロワ(ファゴット)はブーレーズに招かれアンサンブル・アンテルコンタンポランのメンバーになり、アラン・ダミアン(クラリネット)も同様、そしてブーレーズ《二重の影の対話》の初演を担った、超一級奏者です。

 ポリーニはブーレーズのやろうとしたことを受け継ごうとしています。ブーレーズが、ポリーニの誕生日に亡くなったということに、単なる驚きだけでなく、とても強い運命の力を感じずにはいられません。今後ポリーニをはじめ、ブーレーズに影響を受けた多くのアーティストやプロデューサー、マネージメントなどが彼の意志をきっと継いでくれることでしょう。

 最後に、ポリーニのCDライナーノートを長年書くなど、マエストロが信頼を置くイタリアの評論家パオロ・ペタッツィによる、公演の紹介文を引用します。読み応えのあるものです。あらためて、ブーレーズの遺したものと、ポリーニの存在感を感じることができるのではないでしょうか。



 

パオロ・ペタッツィ(訳:高田和文)

(前略)
 ポリーニが、このような選曲をしたのは、ルツェルンでブーレーズの「弦楽四重奏のための書」を聴いたのがきっかけだった。これは彼の唯一の弦楽四重奏曲で、ピアノ・ソナタ第2番の直後の1948年から49年にかけて作曲されたが、めったに演奏されることはなかった。若い時代のブーレーズの他の作品と違って、「書」は初演までに数年を待たなければならなかったのである。1955年に最初の2楽章のみが演奏され、1961年にⅤとⅥ、1962年にⅢが演奏された。Ⅳは、ブーレーズ自身の意向により演奏も出版もされなかった。作曲したものの、彼はいずれこれを改訂しようと考えていたのだ。いくつかの楽章が独立して演奏されるというのは、この曲の着想そのものに由来している。「書」という曲名が付けられているのはけっして偶然ではない。つまり、それぞれの章が一定の独立性を持ち、部分的に読んでゆくこともできる書物という考え方である。(この点で、題名ばかりでなく構成においても詩人マラルメの考え方から影響を受けているように思われる)。

 「弦楽四重奏のための書」は、室内楽の歴史において1つの頂点を極めた作品と言える。4つの弦楽器のために書かれたこの曲の書法は、演奏法の指示も含めて極度に断片的であり、細分化されている。それは非常に複雑な思考から生み出されたものだ。この作品においてブーレーズが主として探求したのは、彼自身が1948年に書いているように「ポリフォニー的なリズムの統合」であった。ここで言うポリフォニーとは、従来のような単純な形式のものではない。ヴェーベルンによってすでに切り拓かれた地平に立って、複雑な音楽的構造を生み出す新たな可能性を示したものである。
 メシアンが行なったリズムに関する探求をさらに推し進めて、ブーレーズは非常に複雑なリズム構造を生み出した(それは聴いているだけでは理解できないほどのものである)。そして、それを出発点として驚くほどの空想性と豊かな詩情を具えた作品を次々に創造した。そこには同時に、芸術創造に対する張り詰めた緊張感と集中力、統一感と純粋さが感じられる。
 「弦楽四重奏のための書」の特徴として、厳格さあるいは硬質さが挙げられる。この点について、セレスタン・ドリエージュに質問されたブーレーズは、次のように述べている。
 「あなたが言う“厳格な”楽章、あるいは硬質な楽章と、反対に軽やかで柔軟性に富んだ楽章との対立構造は確かに存在する。厳格あるいは硬直的とも言える楽節の後に、柔軟な楽節や装飾性の豊かな楽節、あるいは軽いリズム構造の即興演奏にも近い楽節が現れる。このような対立構造は、私の作品の根本的な特徴と言える。」

 全曲の連続演奏を実現することによって初めて、上に挙げた2つの要素の豊かな音楽性が十分に理解されるはずである。全曲通し演奏は数日に分けて行なわれるのが通例だが、今回は2晩で行なわれる。この公演において、「弦楽四重奏のための書」と何を組み合わせたらよいのか。過去の偉大な傑作の中で、すぐに思い浮かぶのはベートーヴェンの晩年の弦楽四重奏曲である。しかも、ベートーヴェンは過去にもこのプロジェクトで何度か演奏されている。
(後略)
 

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