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2015/02/13 | KAJIMOTO音楽日記

●インタビュー―― アンデルシェフスキと、東京の初夏の午後Vol.3 「レコーディングと新たなレパートリー」




ピョートル・アンデルシェフスキは、ストイックなまでに厳格な姿勢で作品と向き合い、慎重な歩みで表現を彫琢する。コンサートでの毎回の演奏が、そうした弛みない研鑽のプロセスだし、レコーディングではさらに徹底した自己検証が行われることになる。
長い時間をかけてテクストを再構築するように、自分自身の演奏解釈を厳格に築いていくアンデルシェフスキ。レパートリーの選択とCD制作をめぐって、さらに話を続けよう。


《レコーディングと新たなレパートリー》


―― イギリス組曲の諸作にはごく一部を除いて自筆譜が残されていないかわりに、異稿がありますよね。

「ええ。たとえば第1番では、私はクーラントの順序が異なる初期のヴァージョンを使うし、第2クーラントはほぼ初期のもので弾いている」

―― つまり、ある意味、バッハのもっとも初期のヴァージョンを採用したのですね。

「この組曲に関してはそういうことになる。でも、それは非常に主観的な選択であって、私がそこに厳格だったということではない。クーラント2についてはそうしたが、残りはいわゆる後年の、おそらくもっと公的なヴァージョンを用いている。とはいえ、この第1組曲では、自分自身に多くの自由を許した。きみも知って いるとおり、いつもなら私はテクストに非常に厳密だし、テクストというものにいささか執着しすぎているよね。しかし、この組曲については情報が乏しい。だから、私は自身に多くの即興を許したんだ」

―― それは、とても興味深いですね。

「厳しさはぐっと少なくなっているよ」

―― つまり、この作品で、あなたはある種の自由を愉しみ、しかも自由を選択することに痛みを感じていた……。

「ええ……」

―― バッハの他の鍵盤作品と比べて、これらのイギリス組曲に他にも違う自由や難点を感じたことはありましたか。

「ああ…聴衆の前で演奏すること? 自分自身のために弾くという意味で? それとも…」

―― 自分自身として。

「答えるのが難しいな、ふふふ(笑)」

―― では、演奏会で弾くことに関してはどうでしょう?

「第6番は、演奏会で弾くには、とても効果的だ。第1番は、私はまださほど演奏していないし、数日後にシンガポールで弾く予定だけれど、この第1番と第5番についてはコンサートで演奏するのに適したものかどうかまだ確信がない」

―― ということは、いまも自分のフレームを探しているということ?

「うーん。CDのほうが向いてるんじゃないかな、おそらく」

―― アルバムのレコーディングはいつ行われたのでしたっけ?

「昨年、第3番から録り始めて、第1番と第2番をこの春に録音した」

―― とても最近のことですね。

「そう」

―― で、いまが編集のさなか。

「第1番は6月に終えた」

―― 編集作業というものについての考えかたを聞かせてください、一般的な話として。

「ああ、私はエディティングを非常に厳密にするから、あらゆるものを編集することになる。もちろん技術的な事柄は人に任せるけれど、編集作業には細心の注意を払っているよ。いつものことだけど」

―― テイクを選ぶのはとても困難ではないですか?

「イエスでもありノーでもある。つまり、難しくはないけれど、とにかく時間がかかるし(笑)、集中力が求められる。なぜなら、真っ白なキャンバスから始めるわけだよね。ひとつの楽章に10のヴァージョンがあるとして、最初はまだまったくCDにもレコードにもなっていないわけだから、まずはなにかしらから始めなくてはいけないわけだ(笑)。始まりは静寂で、そこからスタートしてこれはなんとか行けるかなというものにOKを出さなくてはいけない。いろいろある他のものではなく、このひとつのヴァージョンからスタートして、そこから続きを追っていくことになる。つまり、基本的にゼロから始める。そう、これは難しいけれど、でも……確かに私が楽しんでいることでもある、とても不健康であるにも関わらずね……」

―― 不健康というのは?

「精神的にも、肉体的にも。一日中、ヘッドフォンをして座っているのだから……」

―― そして、記録された自分自身に向き合うこともだね。

「そう、自分自身に向き合い、音楽作品に向き合い、比較してどれが意味をなすかを決定する。それは私の好きなことだし、かなり創造的なプロセスだ。しかし、エディティングでは、自分で音を出したり変えたりすることはできないから、それがなにより難しい」

―― バッハに相応しい音を探すのに難しさを感じたことは?

「それはない」

―― 自然と出てくるもの?

「自然なものなんてないよ。ナチュラルなものはどこにもない……たぶん、モーツァルトがときには自然なだけ、私にとってはね」

―― シューマンは?

「ときにはね」

―― と聞けば、次の来日でのリサイタルがますます楽しみですね。

「ええ、私にとっても」

―― どんなプログラムになるのかな。バッハは弾くのでしょう?

「ええ」

―― シューベルトのハ短調ソナタは?

「ここ1、2か月で考えが決まるでしょう。というのも、この夏は少し時間があるから、ついになにか新しいものに取り組めると思う」

―― シューマンの「精霊の主題による変奏曲」にも?

「この曲は勉強したいと思っています。しばらくの間、そのことを考えてきたから」

―― プログラムは異なる作品の、美しい組み合わせになるのでしょうね。

「ああ、そうだね」
(続く)
 


取材・文 青澤隆明


<公演情報>
ピョートル・アンデルシェフスキ ピアノ・リサイタル
2015年2月25日 (水) 19:00 開演
東京オペラシティ コンサートホール

(曲目)
J.S.バッハ: フランス風序曲 ロ短調 BWV831
J.S.バッハ: イギリス組曲第3番 ト短調 BWV808
シューマン: 精霊の主題による変奏曲
シューマン: 幻想曲 ハ長調 op.17

【チケットのお申し込み】


青澤隆明氏の著作
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