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2014/12/10 | KAJIMOTO音楽日記

●イーヴォ・ポゴレリッチ来る! アジア・ツアー・レポート

ポゴレリッチは12月14日の東京公演に先立ち、アジアで4回のリサイタルを行っています。
(12月5日・上海、7日・北京、9日・香港、11日・広州)

上海と北京公演に同行したスタッフからのレポートをお送りします。
リサイタル・プログラムは今週末の東京公演と全て同じです。


上海でのリハーサルの様子


【12月 5日(金)上海 シンフォニーホール】

今年9月にオープンした上海シンフォニーホールのコンサートホール(1200席)での公演は1ヶ月前より売切れ。
音響設計家の豊田泰久氏と建築家の磯崎新氏(ARK NOVAでもおなじみ)が設計した素晴らしい音響のホールは、プラタナスの街路樹や洋館が並ぶ旧フランス租界地区にあります。上海音楽院が近くにあるためか、周りに楽器店なども多く、とても音楽的な雰囲気がするエリアです。


ホールの中庭でのポゴレリッチ

今回のリサイタル・プログラムのテーマは「ヴィルトゥオジティ」。
全ての作品が超絶技巧を必要とするプログラムです。ポゴレリッチと言えば、ここ数年テンポばかりが取り沙汰されますが、どのような演奏になるでしょうか、期待をもってコンサートにのぞみました。

1曲めのリストのソナタ風幻想曲「ダンテを読んで」では、うっとりするようなきらめく瞬間がなんとたくさんつまっていることか。前回、前々回の来日で取り上げられた 「メフィスト・ワルツ」での耽美的なフレーズが思い出されます。そしてヴィルトゥオジティをふんだんに必要とする部分では、こんなに音が多いのに、彼が弾くと実にすっきりと聴こえます。驚くべきピアニズム!そしてこの演奏を聴くと、ポゴレリッチがいかにリストを重要な作曲家とみなしているかがわかります。

シューマンの「幻想曲」では第1音の深く印象的な音に始まり、あとはめくるめく世界。第2楽章の超絶技巧の跳躍もハマリにハマってなんて爽快!気がつくと星降る夜のような静かな第3楽章にすっかり心奪われていました。一緒に聴いていた中国人スタッフいわく、最後の音が消えゆくまでこんなに長く拍手を待って沈黙をつらぬいた聴衆を見るのは中国では初めて、とのこと。


当日のプログラム

後半のストラヴィンスキーの「ペトルーシュカからの3楽章」はなんとも鮮やか、圧巻!です。いつか見たペトルーシュカのバレエの登場人物たちが派手な衣装とエキゾチックな振り付けで踊る様子が突如として浮かんできたのは、ポゴレリッチ効果?!

最後のブラームスの「パガニーニ変奏曲」はブラームスの中でも特に技巧的な面が前に出た作品。ここまで来ると、ポゴレリッチがあまりにも鮮やかに超絶技巧を弾ききるので、驚きの感覚はすでに麻痺。第1部の第13変奏での 右手の下降グリッサンドのなんと優雅で小粋で嘆美な響き。第2部の第4変奏のどこか懐かしい、歌うようなメロディ。この第4変奏を聴いて涙しないものは人間ではない?!と思うほどに、あまりに人間的な、あまりに音楽的なポゴレリッチによるブラームス・ワールドが繰り広げられました。

どれも超越技巧を要するこれら4作品を一晩のリサイタルに組むピアニストは世界のどこに他にいるでしょう?ポゴレリッチのあまりの強固なタッチに、ブラームスの最後の音が鳴った瞬間に、ピアノ自身がヨレヨレと足をくねらせて床へ倒れるアニメーションが私の心に浮かびました。ありがとう、ピアノ君。たとえ合間に耽美な(指の)愛撫があったとしても2時間でこんなにたくさんの音が深いタッチで弾かれたことはなかったのでは?まるでリサイタルをフルで2回聴いたような充実感がありました。

ヴィルトゥオジティがテーマのプログラムでしたが、リサイタル後に私の心に残ったのは華麗なテクニックよりも、むしろ4人の作曲家の心の歌。
そこで思い出したのは、ポゴレリッチ自身による次の言葉です。

『本来の「ヴィルトゥオジティ」とは、音楽に光をもたらすことで、あらゆる人々が音楽を理解し、楽しめるようにするためのものだと思います』(「音楽の友」12月号YuanPu Chiao氏によるインタビューより)

上海の聴衆によるたくさんのブラボーで大いに盛り上がり、何度もカーテンコールで呼び戻されました。

ちなみに演奏のテンポについては、「引き伸ばされる時間」を意識したのは、シューマンの幻想曲での若干の部分においてだけでした。


【12月 7日(日)北京 中国国家大劇院】

北京のNCPAこと中国国家大劇院。天安門近くのこの宇宙的なデザインのホールはフランス人のPaul Andreuによるもの。1800席 のホールはほぼ満席。


当日のプログラムと開場時の様子

この開場時はポゴレリッチ氏が去った後です。
上海でも北京でもポゴレリッチおなじみの開場スタイルは変わりませんでした。^_^

音楽のことは上海公演で書きましたので、今回は公演中に起きたハプニング?!について。
ピアノ選定もおこない、素晴らしい調律だと喜んでいたポゴレリッチですが、最初のリストの強固なタッチにちょっと疲れ気味のピアノ君。シューマンの間に狂い出し、休憩中に調律をいれましたが、後半が始まりストラヴィンスキーの最初のあたりで弦が切れてしまいました!切れた弦の隣の音まで狂い出して、あれよ、あれよ。 それも切れた弦は次のブラームスで大事なキー。そのままでは弾けないので、急遽別のピアノを使用することにしました。

アナウンスを入れ、聴衆の皆様には待っていただくこと数分。新しいピアノが、舞台上のセリ奥深くから、ずずずーっとピアノ運搬スタッフ3人の頭とあらわれた時には大喝采。
新しいピアノでのブラームスは、練習で慣らしたピアノではありませんでしたが、(ポゴレリッチの場合、当日のステージ・リハーサルの間にピアノの音色自体がポゴレリッチ色に変容していくのです、彼が楽器を変えるのですね)、それにしてもすばらしい演奏。何度もカーテンコール、そしてたくさんのブラボーで演奏会を終えました。ポゴレリッチが4方向の聴衆に、深く丁寧なお辞儀を何度も繰り返したのは中国の聴衆への敬意を十分に表していました。

この二晩の演奏会を聴いて、とにかくポゴレリッチの圧倒的なピアニズムに打ちのめされました。恐るべきピアニストと同時代に生きる喜びをひしひしと感じました。
前述のピアノ君、倒れる時にはこう言ったはず。「貴方になら、殺されても本望ヨ ♡」そう、こんな音を出すピアニストは他にはいません。悩殺されたピアノと、その横で大喝采を受ける芸術家。幸せなカップルです。

ヨーロッパのクラシックの演奏会に比べ、中国では圧倒的に聴衆の層が若く、それに対してポゴレリッチは新しい出会いがあることを非常に喜んでいます。すでに本人は次回の中国公演を心待ちにしています。


以上、お粗末なレポートですが、最後までお読みいただきありがとうございます。
我らがイーヴォはなんといってもこの宇宙で唯一無二の存在。
録音も1995年以来おこなっていませんし、放送許諾もめったにしないポゴレリッチ。
「いま」のポゴレリッチの音楽をぜひお聴きください!皆様の中でのヴィルトゥオーゾの定義も、もしかしたら変わるかもしれません。

***


<公演情報>
イーヴォ・ポゴレリッチ ピアノ・リサイタル
2014年12月14日(日) 19:00 サントリーホール

(曲目)
リスト: 巡礼の年第2年「イタリア」から
     ダンテを読んで(ソナタ風幻想曲)
シューマン: 幻想曲 ハ長調 op.17
ストラヴィンスキー: 「ペトルーシュカ」からの3楽章
ブラームス: パガニーニの主題による変奏曲 op.35

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