ユジャ・ワンが先月、ロサンゼルスのディズニー・ホールでリサイタル・デビューを果たしました。
ロサンゼルス・フィル(やサンフランシスコ響)との度々の共演で、アメリカ西海岸にすでに多くのファンを持つユジャ。
その鮮烈なロス・リサイタル・デビューの評が、地元「ロサンゼルス・タイムズ」紙に掲載されましたので、ご紹介したいと思います(彼女の新しい魅力について語る、興味深いレビューですので、長いですがぜひお読みください!)。
このたびのユジャの日本公演の曲目変更(
「大切なお知らせ」)につきましては、ご迷惑をおかけし申し訳ございません。以下のレビューには、日本で披露される“変更後の”曲目もいくつか登場しますので、ご注目いただけましたら幸いです。

(要約訳)
ロス・フィルのソリストとしてセンセーションを巻き起こしてきた26歳の中国人ピアニスト ユジャ・ワンが、去る日曜夜、ようやく当地でリサイタル・デビューを果たした。結果はまたしても、センセーション。引力の法則が破られたのではないかとこちらが首をかしげるほどの、並々ならぬスピード、敏捷さ、力強さである。
ユジャはスクリャービンで黒、ラフマニノフで赤、と色を変えながらも常にタイトなチューブドレスを身にまとっていた。その“ボンド・ガール”のような出で立ちに、奇術師フーディーニとホロヴィッツが共存している――肉体の限界をものともしない驚くべき器用さが、そこにはあった。高いハイヒールでさえ、彼女のペダルさばきをさまたげることはない。
ユジャは恥ずかしそうに舞台上に現れ、ほとんど笑顔を見せずにそっけなくお辞儀する。それはまるで平安をもとめて、鍵盤に急いで向かっていくかのようだ。しかし、ひとたびピアノの前に腰かけると、ユジャは戦闘態勢にはいり、全てを掌握する――“もろさ”の徴候は一掃され、強烈な印象を与えるその演奏は、時にオリンピック選手のパフォーマンスをも髣髴とさせる。
しかしここでは、敏捷な指さばきという動的な“現象”よりも、彼女の静的な一面を強調したいと思う――それこそがユジャの演奏の核心であるし、そこにこそ彼女の芸術的な成熟の可能性が潜んでいるだろうから。
この日のプログラムはラヴェルの『ラ・ヴァルス』を除いて全て、超絶技巧がちりばめられた、しかし感受性が要求されるロシア作品だった。
幕開けは、スクリャービンの2作の神秘主義的なソナタ。公演直前の曲目変更でドビュッシー作品が消え、代わりにスクリャービンの情緒的な第2番と、不吉な第6番のソナタが並んだ。
ユジャは、スクリャービンを美とスリルのために演奏した。それは文字通りのスリルであって、それ以上でも以下でもない。その音は興味深いまでの不飽和色を帯びていた。色彩表現は控えめで、汚れなく清らか。静謐な第2番ソナタの冒頭では、見事なまでの静寂に達していた。ユジャの超絶技巧は第6番ソナタにおいては鳴り響く鐘を想像させた。彼女はこの作品を、まるで完全に征服せねばならない何かのように急いで弾ききった。さもなければ、精神を堕落させる音楽的退廃、というこの作品のパワーが失われてしまうから。
つづく『ラ・ヴァルス』は、気ちがいじみたワルツの性格がむき出しにされ、さらに退廃的だった。ユジャはこの曲を、まるでいたずらっ子のように、しかし冷ややかな超然とした眼差しで弾いてみせる。
休憩をはさみ、ラフマニノフの小品3曲(エレジー、楽興の時、編曲版『真夏の夜の夢』)に、壮大な第2番ソナタが続き、そこでも会場を熱狂させた後、アンコールはプロコフィエフの『トッカータ』、ホロヴィッツ編『カルメン』、ショパンの嬰ハ短調のワルツ、そしてロッシーニの『セヴィリアの理髪師』。ユジャはショパンにおいて、水晶のごとき透明さを手に入れていた。彼女の内面に潜む偉大なる何かが、この日最後にふっと顔をあらわした瞬間だった。
出典: Los Angeles Times(2013年3月25日付)/Mark Swed
<ユジャ・ワン ピアノ・リサイタル>
2013年4月21日 (日) 19:00 開演 (18:30 開場)
サントリーホール・曲目
スクリャービン:ピアノ・ソナタ第2番 嬰ト短調 op.19 「幻想ソナタ」
プロコフィエフ:ピアノ・ソナタ第6番 イ長調 op.82
リーバーマン:ガーゴイル op.29
ラフマニノフ:ピアノ・ソナタ第2番 変ロ短調 op.36(1931年改訂版)
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チケット購入<ツアー・スケジュール>
■2013年4月16日(火) 19:00/茨城
水戸芸術館 【プログラムB】
【問】水戸芸術館チケット予約センター 029-231-8000
■2013年4月17日(水) 19:00/東京
トッパンホール【問】トッパンホールチケットセンター 03-5840-2222
※プログラム 当日発表
■2013年4月18日(木) 19:00/神奈川
神奈川県立音楽堂 【プログラムB】
【問】神奈川県立音楽堂業務課 045-263-2567
■2013年4月19日(金) 19:00/京都
京都コンサートホール 【プログラムA】
【問】京都コンサートホール・チケットカウンター 075-711-3231
■2013年4月20日(土・祝) 14:00/埼玉
彩の国さいたま芸術劇場 【プログラムB】
【問】彩の国さいたま芸術劇場・チケットセンター 0570-064-939
■2013年4月21日(日) 19:00/東京
サントリーホール 【プログラムA】
【問】カジモト・イープラス 0570-06-9960
【プログラムA】
スクリャービン: ピアノ・ソナタ第2番 嬰ト短調 op.19 「幻想ソナタ」
プロコフィエフ: ピアノ・ソナタ第6番 イ長調 op.82
リーバーマン: ガーゴイル op.29
ラフマニノフ: ピアノ・ソナタ第2番 変ロ短調 op.36(1931年改訂版)
【プログラムB】
スクリャービン: ピアノ・ソナタ第2番 嬰ト短調 op.19 「幻想ソナタ」
スクリャービン: ピアノ・ソナタ第6番 ト長調 op.62
ラヴェル: ラ・ヴァルス
リーバーマン: ガーゴイル op.29
ラフマニノフ: ピアノ・ソナタ第2番 変ロ短調 op.36(1931年改訂版)
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ユジャ・ワン プロフィール