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2013/03/28 | ニュース

◆LFJナントを振り返る。マニアックに、つれづれに。vol.3:ヴィエルヌ『プラクシノエ』の復活初演!~失われた音を求めて

2月にナントで行われたラ・フォル・ジュルネ(LFJ)をゆるりと振り返る当連載。
vol.2(こちら)では、150年の歴史を誇るラムルー管の活躍に触れましたが、本日はナントで聴いた「超」が付くほどレアな公演を振り返ってみたいと思います。

皆さまは“ルイ・ヴィエルヌ”というフランスの音楽家をご存知ですか?ワーグナーの「ワルキューレ」が初演された1870年に生まれた作曲家&オルガニストで、フランクに作曲とオルガンを師事しています。
ヴィエルヌは先天性の病ゆえに幼少からほぼ盲目で、パリの国立盲学校を経て、パリ国立音楽院で学びました。
のちには、パリ音楽院や(ダンディ設立の)スコラ・カントルムでオルガンを教えるかたわら、優れたオルガニストとして活躍。エッフェル塔と並ぶ“パリ市の顔”、「ノートルダム寺院」にて、1900年から37年もの長期間、首席オルガニストの座にあったということからも、その才能がうかがえます。
余談ですが、ヴィエルヌはノートルダム寺院でオルガンを演奏している最中に息を引き取ったとか(1937年)。この時、オルガン・ストップ操作の助手を務めていたのが、彼の弟子のデュリュフレだったらしいのですが、いやはや、当時のパリって、一流の作曲家たちが肩を並べて日常を過ごしていたのですね。



さて、本題に。
実はルネ・マルタンは、“今年のナントで「大事件」が起きる”と以前から宣言していたのですが、その“大事件”こそ、ヴィエルヌのカンタータ『プラクシノエ』の復活初演でした。
4日間の音楽祭本会期中に、たった一度しか行われなかったレアすぎる“復活初演”。いったい何が“復活”なのか詳しく述べておきますと・・・
『プラクシノエ』は1908年に初演されて以来、奇妙なことに現在までずっと、再演されることなく、語られることもなく、忘れ去られていました。
編成は、3人の独唱者、女声合唱、管弦楽。そう、独唱の人数を一人減らせば、ドビュッシーが1888年に完成させたカンタータ『選ばれし乙女』と同じ編成です。
ちなみに『プラクシノエ』はアンブロワーズ・コランの詩からインスパイアされて書かれており、タイトルはエジプトの王女の名を指します。
LFJナントでは、『選ばれし乙女』と『プラクシノエ』が同じ公演内で演奏されました。巨匠コルボが設立し、丹念に育てあげたローザンヌ声楽アンサンブルが、若きギョーム・トゥルニエールの指揮に導かれてこれを演奏(共演はシンフォニア・ヴァルソヴィア)。
『プラクシノエ』演奏直前には、トゥルニエールが「マルタンとこの企画を思い立ち、図書館で楽譜を目にした時、なぜこの傑作がこれまで忘れ去られていたのか、不思議でならなかった」と聴衆に語りかけました。



『プラクシノエ』のオーケストラ・パートは実に官能的で、ところどころ、ワーグナーの『トリスタンとイゾルデ』からの影響が聴き取れます(当時の作曲家たちは親ワーグナー派と反ワーグナー派がいたぐらいですから、これは自然なことでしょう)。無限旋律風のメロディや、「トリスタン和音」を髣髴とさせる多義的なハーモニーが、女声のみで構成される澄んだ天上的な合唱と交差します。
そのあまりの美しさに対する感嘆と、歴史的な瞬間に今立ち会っているという一体感。会場には実に特異な、しかし心地よい緊張が走っておりました。

残念ながらこの『プラクシノエ』、LFJ東京では上演されません。(ナントで演奏されて日本では演奏されない、という作品は毎年意外に多く、その逆もあり、というわけです)

しかし「皆を驚かせ、期待させたい」「普段の演奏会では聴けないレアな作品を取り上げたい」というルネ・マルタンの気合いと冒険心は、健在!

たとえば筆者が今年のLFJ東京で個人的に気になっているのは、ベルリオーズの『葬送と勝利の交響曲』。軍楽隊の野外演奏用に書かれたなんとも壮大な作品で、今回のLFJではオリジナルの“吹奏楽のみ”版で演奏されます(【公演344】)。のちに弦楽パートや合唱パートが付されたそうなのですが、原曲は吹奏楽のみだった、ということですから、吹奏楽ファンのみならず、ベルリオーズが気になる方にとっても、必聴です。



それから、ナントでも上演されたフラメンコ歌手付の『恋は魔術師』(ファリャ)。滅多に生でこのバージョンは聴けませんし、おまけにアンダルシア出身の世界的フラメンコ歌手“アントニア・コントレラス”による演奏とのことですから、これもLFJ東京の“レア作品”リストの筆頭です。(【コントレラス出演公演】

LFJナントには出演せず、LFJ東京にはやって来る“レア”な人々といえば、パリが生んだ現代音楽演奏家グループ、“アンサンブル・アンテルコンタンポラン”。特にトリスタン・ミュライユの『セレンディブ』などはレア過ぎて鼻血が出てしまいます。ブーレーズの『シュール・アンシーズ』も楽しみですが。(【公演一覧】

このほか、ジャン・クラなどの珍しい作曲家にスポットライトが当たる公演にもご注目いただきたいところです。(【クラの作品が演奏される公演】


LFJは、クラシック音楽に出会ったり、有名曲の魅力を再確認したりと、様々な楽しみ方が存在する場。失われた音、失われつつある音、滅多に生で聴けない音を求めて、会場を駆け巡るのも、そうした楽しみ方の一つだと思います。
「パリ、至福の時」のプログラムを、ぜひ一度ミクロな視線でじっくり眺めてみてくださいね。


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