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2013/01/07 |

●小菅優に訊く! ~ベートーヴェンのソナタ全曲演奏を通して見えてきたもの~

新春、皆さまいかがお過ごしでしょうか?
さて、全8回を予定している小菅優のベートーヴェン・ピアノ・ソナタ全曲演奏シリーズは、来年3月の公演で第5回目を迎えます!
シリーズ全体のねらいや前回までの成果、そして第5回目のプログラミングの意図について、小菅優に訊きました。




Q:次回の第5回目はちょうどシリーズの折り返し地点に当たりますが、ご自分の中でシリーズ開始前と比べてどのような変化が生じていますか。

(小菅)“年代順”に全曲を弾くのではなく、初期、ハイリゲンシュタットの遺書を書いた時期、後期…というようにパラレルに作品を組み合わせて演奏していますので、シリーズ中盤をむかえた今、ようやくベートーヴェンへの理解が深まったという実感が沸いています。個人的には、自分が小さな頃に弾いていたソナタを再び演奏することで、自分自身の成長過程を振り返ることができることは面白いですし、もちろん、初期から晩年の作品群へと至るベートーヴェンのピアノ・ソナタの歩みもクリアに見えてきました。

―ベートーヴェンについて、今どうお考えですか。

(小菅)人情深い、というのでしょうか。人間の感情を限界まで表現している作曲家だとあらためて思います。

Q:毎回、ゆるやかなテーマが設定されていますが、そこには優さんの“物語”に対する嗅覚、好奇心のようなものを感じます。

(小菅)確かに年代順に演奏していくという専門的な方法も重要だと思うのですが、各回、時代にとらわれずにテーマを設定してソナタを組み合わせていくことで、ベートーヴェンの内面、人間像へとより迫ることができている気がします。とはいえ晩年の3曲のソナタのように、どうしても切り離せなかったソナタもありますよ。



Q:全体のプログラミングの鍵、柱のようなものはあるのですか?何かを参考にしているとか・・・

(小菅)シリーズ全体のバランスとして、「短調」のソナタをどこに組み込むか、ということにはこだわりました。次回の第5回目の公演でいえば、op.49-1のト短調のソナタですね。また「自分が聴き手だったらこういう組み合わせで聴いてみたい」という視点からプログラミングしています。

Q:年代順に演奏していくと、当時の楽器(ピアノ)の改良やベートーヴェンの作曲技法の変遷、といった歴史的なこととリンクしていきますよね。その点、今回のシリーズの場合は、聴衆の方々が、時代を追っていくマラソン的なチクルスの面白さとはまた違う発見やワクワク感を、毎回のコンサートで得ているのではないかと想像します。ただし奏者にとっては、様式などが一度のコンサートの中で次々に変わっていくので、大変ではないですか?

(小菅)弾いていて一番難しいのは、ベートーヴェンのソナタに見出せる究極の感情をひとつひとつ表現しつつ、ソナタ全体の流れも常に考えなければならないという点です。またピアノという楽器を忘れさせるような演奏でなければならないと常に思っています。聴いてくださっている方が、ピアノではなくてシンフォニックな響きや弦楽四重奏の響きを体感できるように、音色に多様な変化を持たせていく…そして一方で公演全体のまとまりもある――それを目指して事前に十分に準備できていなければ、本番で“爆発”できません。

Q:3月の第5回目公演のメインは、「告別」op.81aソナタですね。「葬送」ソナタop.26もプログラミングされているので、“別れ”が隠れたテーマではないかとふと思いましたが、一方で、いわゆる“易しいソナタ”(op.49の2曲)やソナタ形式では書かれていない“ソナタ”等も含まれていて簡単に要約できません…。

(小菅)op.49のソナタは、一般には子どものための易しいソナタだと言われていますが、私は非常に深い作品だと思っています。とくにト短調のop.49-1の1楽章の哀しみなどは。そして「告別」の3つの楽章には、“別れ”、“不在”、“再会”と、それぞれベートーヴェン自身によるタイトルがついていますが、このように明白なメッセージがあるのはとても珍しいことです。

Q:ベートーヴェン自身がピアノ・ソナタにつけたタイトルは「悲愴」と「告別」だけですものね。

(小菅)そうですね。告別のあとにやがて再会がやって来る、というのはいかにもベートーヴェンらしい肯定だと思います。それから「告別」ソナタには、例えば馬の蹄の音が現れるのですが、ベートーヴェンと彼を取り巻いていた自然というものを思い起こさせます。これまで弾いてきたソナタは、激しい感情が込められているもの、あるいは一歩離れたところから人間の人生を描いているもの、などがありました。第5回目で弾くソナタの中には、どちらかというと、人生で起こる出来事を直接的に表現しているものが多いと思います。



Q:ところで、こうしてベートーヴェンのソナタとじっくりと向き合うことで、他の作曲家の作品を演奏する際の姿勢も変化しましたか?

(小菅)ベートーヴェンの音楽を「柱」とし、それを起点に他の作曲家の音楽を捉えられるようになりました。例えばモーツァルトやシューベルト、もちろんブラームスやシューマンを弾く時に。ドビュッシーを演奏する時でさえ、ベートーヴェンのソナタ演奏で得た視点が生かされる時があります。やはり、音楽史上の新約聖書と呼ばれるだけあって、ベートーヴェンのピアノ・ソナタは偉大です。そして、あらゆる作曲家に影響を与えている存在がバッハなのだなと、あらためて実感させられます。

Q:3月の公演、楽しみにしています。

(小菅)ありがとうございます!


<小菅 優 ベートーヴェン・ピアノ・ソナタ全曲演奏会シリーズ 第5回>

日時 2013年3月8日 (金) 19:00 開演
会場 紀尾井ホール
ピアノ: 小菅 優
料金 全席指定¥5,000

プログラム
ベートーヴェン : ピアノ・ソナタ第19番 ト短調 op.49-1
           ピアノ・ソナタ第20番 ト長調 op.49-2
           ピアノ・ソナタ第7番 ニ長調 op.10-3
           ピアノ・ソナタ第12番 変イ長調 op.26
           ピアノ・ソナタ第26番 変ホ長調 op.81a 「告別」

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