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2016/09/14 | ニュース

◆ラ・ロック・ダンテロン国際ピアノ音楽祭2016の模様をレポート!Vol.2


南仏プロヴァンスの田舎町で開かれるヨーロッパ最大級のピアノ・フェスティバル「ラ・ロック・ダンテロン国際ピアノ音楽祭」。
そこを訪れた、音楽ジャーナリストの林田直樹さんによるレポート第2弾を、ぜひお読みください!

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歴史と美しい自然の宝庫~ラ・ロック・ダンテロン国際ピアノ音楽祭


今回プロヴァンスに10日間滞在した目的は、ラ・ロック・ダンテロン国際ピアノ音楽祭はもちろんのこと、ルネ・マルタン本人に徹底取材し、彼をテーマとした単行本を書くための素材を、なるべくたくさん得ることにあった。
(アルテス・パブリッシングから2017年2月に刊行予定)

ルネはこれまでにない意欲で協力してくれた。
自分を知るために必要なことは何でも提供する、という態度で毎日インタヴューに熱心に応じてくれた。その回数は11回、合計7~8時間にも及んだ。
そればかりか、自ら車を運転して、プロヴァンスのお気に入りの場所に何度も私たち取材チームを連れて行き、家族とともに手料理でもてなしてくれたこともあった。

プロヴァンスは、想像をはるかに超えて、夢のように美しい土地だった。
一度その奥深さに触れたら、人生観が根本から変わってしまうほどだ。
パリとは比較にならないくらい人々は親切で、穏やかで、遠慮がちだけれど、笑顔にあふれている。
何よりも食べ物がおいしい。
凝った料理ならパリでも東京でもお金を出せば食べられるが、プロヴァンスでは素材そのものがいい。地元のハーブや色とりどりの野菜やくだもの、肉はもちろんのこと、シェーブル・チーズとロゼワインは欠かせない。


ルネ・マルタン手作りの自家製サラダ。タプナード(プロヴァンス特有の黒オリーブのペースト)のドレッシングで、肉質の良い地元産トマトと香り高いニンニクとオリーブをいただく


プロヴァンス名産のシェーブル・チーズ。山羊のチーズは、牛のチーズに比べると、香りは強いけれど、さっぱりとした風味が素晴らしい。ハーブや胡椒、果物やジャム、サラダなどを添えていただく。ロゼワインがとても合う。


シェーブル・チーズを使ったクレーム・ブリュレ。村のレストランに入ると、こうしたものがランチのセットで気軽に食べられる


ルネ・マルタンが連れて行ってくれた、チーズ農家フランソワ・ボレルさん宅の山羊。「ここのヤギは特別なんだ。ガニエール(有名な三ツ星シェフ)のところにも卸している」とのこと。小屋の中はとても清潔で、チーズと同じいい香りが漂っていた

毎日のようにこれほど豊かなものを食べたり飲んだりしていると、くり返しになるが、人生観が根本から変わってくる。セザンヌ、ゴッホ、カミュ、ゾラ…といった芸術家たちが皆ここを愛し、創作活動の拠点としていたのも頷ける。
五感を満足させ、幸福感を思いっきり味わうことは、「限られた人々だけに許されたご褒美、贅沢」なのではなく、「誰でも享受することのできる、あふれんばかりの恵みに満ちた日常」なのだ。
自然や歴史や文化を愛する人にとっての快楽主義のパラダイス、それがプロヴァンスだ。
ルネ・マルタンが行っている音楽祭の理念も、おそらくそこから発している。

ルネが連れて行ってくれたお気に入りの場所は、平日午後の静かな修道院や教会がほとんどだった。真夏の日差しを遮ってくれる木陰に揺れる、村の小さな修道院を眺めながら、「これこそが南仏です」と何度も言っていた。
中世のロマネスク建築様式による古い教会が、プロヴァンスのどの村、どの町にもあって、その神秘的な佇まいをルネが愛しているのがはっきりとわかった。
遠い過去と対話できるような神秘的な場所で、あるいは自然に囲まれた静寂な場所で、瞑想すること。それがルネの大切な時間であるのは明白だった。


美しい小さな村キュキュロンのノートルダム・ド・ボリュー教会の内部とオルガンの様子。ここでも音楽祭のコンサートが開かれた


ラ・ロック・ダンテロンのすぐ近くにあるシルヴァカーヌ修道院の内部。ここは「プロヴァンスの三姉妹」と呼ばれる三大修道院のひとつ。12~13世紀に建てられたシトー会修道院だが、現在は修道院活動は行われていない。音楽祭の演奏会場としても使われている

中世フランスの雰囲気をそのまま残すシルヴァカーヌ修道院の、手つかずの古い裏庭を眺めながら、ルネは言った。
「ここで実はコンサートをやりたいと思っているんです。ちょうどいい大きさでしょう?さぞかしいい場所になるはずだ」
裏庭の向こうには南仏特有の広大な草原と畑が広がっている。昼はまぶしい太陽、夜は満天の星空が照らす。ここにベートーヴェンやショパンを持ってくるという発想自体、何とエキサイティングであることだろう。

最高のものを、開かれた場所で、誰もが分け隔てなく享受すること。
静寂を愛し、人生と自然を愛し、過去と対話すること。
ラ・ロック・ダンテロン国際ピアノ音楽祭は、そんなプロヴァンスの土地があるからこそ、36年間も成長を続けてきた。そして、ラ・ロック・ダンテロンがあったからこそ、ラ・フォル・ジュルネは誕生したのだ。


林田直樹


 

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