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2019/10/24 | KAJIMOTO音楽日記

●来日寸前、現地レポート「マーラーそのものになる指揮者と楽団」―― ネゼ=セガン&フィラデルフィア管、10/19の公演を聴く!


今や米国音楽界の若き盟主ともいうべき音楽監督ヤニック・ネゼ=セガン率いる、伝統の豊麗サウンドを誇るフィラデルフィア管弦楽団の来日まであと1週間ちょっと。

来日寸前、10/19の当コンビの現地での演奏会(メイン曲は日本公演と同じマーラー「第5交響曲」)を、ニューヨーク在住の音楽ジャーナリスト、小林伸太郎さんが聴きにいかれ、早速レポートを寄稿してくださいました。

ぜひご一読ください!


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フィラデルフィア交響楽団の来日公演プログラムの一つ、マーラーの交響曲第5番を聴くことができるということで、久しぶりにフィラデルフィアにまで足を伸ばした。フィラデルフィアという街は、ニューヨークから電車で南に向かって90分弱の近さだ。しかし米国建国に深く関わった歴史の古さのためなのだろうか、ニューヨーク住まいの私にはいつも、どこかエキゾチックな異国にすら感じられるときがある。

フィラデルフィア管の本拠地であるヴェリゾン・ホールは、古都フィラデルフィアの中でも非常に新しい建造物の一つだ。未だにいつも新しいなと感じるのだが、既に開館して20年近くが経過した。ネゼ=セガンがフィラデルフィア管を初めて指揮したのが2008年だというから、彼はこのホールの歴史のほぼ半分と関わってきたことになる。今回、木質の内装がどこかメロウに古い街並みに馴染んできたなと感じたのは、気のせいだろうか?客席がオーケストラを囲む形態であることもあって、舞台と客席の距離が短く、席数2,500の大ホールでありながら、その大きさを感じさせないのもいい。舞台も多分、カーネギーホールよりちょっと低めの筈だ。

そんなことを考えているうちに、ほんの10分前は空席が目立ったホールがいつの間にか満席になり、少しだけ客電が落とされた。マエストロの登場だ。



「健全な精神は健全な肉体に宿る」という言葉。満面の笑顔でこの日の前半プログラムのソリスト、ルイ・ロルティ(ネゼ=セガンと同郷、モン・レアル出身のピアニストで今回は来日しない)の後について現れたネゼ=セガンを見たとき、思わず思い浮かんだ言葉だ。白い(何と呼ぶのだろうか?)存在感のあるシャツの上からも、彼がさらに肉体をシェイプアップしたことが分かる出で立ち。夏中マエストロとインタビューのアポイントメントを取ろうとして大変苦労したのは、フィラデルフィア管とメトロポリタン歌劇場を同時に率いる重責を前にして、文字通り英気を養うことに集中していたからに違いないと思わせるシェイプだ。マーラーのような壮大な宇宙には、強靭な肉体が必要ということか。その強靭なネゼ=セガンの肉体は、音楽と共に完全に自らをコントロールしながら、無駄なく実にしなやかに動く。

マーラーの5番は、もちろん後半に演奏された。前半ではロルティと共にブラームスの4つの手のためのワルツをアンコールとして聴かせるほど朗らかだったネゼ=セガン。やはり柔かであるには変わらないのだが、曲が違うから当然といえば当然なのだが、後半の彼は何かが違う。第5番の最初の「あの音」を静かに待つマエストロ。するとコンサート・マスター、デイヴィッド・キムを始めとするミュージシャン達に、何かが走る。気迫という表現ではあまりにも簡単すぎる何かだ。そしてトランペットが果敢にもあの有名なファンファーレで飛び込むとき、彼らは既に音楽そのものになっていた。

この曲は、実はネゼ=セガンが2010年に次期音楽監督に任命された後、始めてフィラデルフィア管を指揮した際の曲だったという。それから約10年。第5番を「オーケストラに存在することの究極的な喜び」を代表する曲と呼ぶネゼ=セガンは、再びこの曲にフィラデルフィア管と取り組むにあたり、まさしくマーラーと共にある演奏を聴かせてくれた。厳粛な葬送の行進に始まる暗闇から激動、スケルツォ(ホルン・ソロの美しい音色!)、深い息に導かれたアダージェットの親密さ、そして生かされていることに感謝せずにはいられなくなる喜びの最終楽章まで、強靭なネゼ=セガンの肉体は、極端なテンポなどで音楽をねじ伏せるのではなく、その厄介なところも含めてどこまでも寄り添うことで、完全にフィラデルフィア管弦楽団だけのものにしていた。そしてオーケストラが、彼の要求に真っ向から応えるスタミナを備えていたことも特筆するべきだろう。長く続いたカーテンコールは、残念ながら都合で最後まで見送ることはできなかった。しかしフィラデルフィアの人々の熱狂的な反応は、ネゼ=セガンとフィラデルフィア管が、街と一体となって親密な関係を築いていることを感じさせるに十分以上のものだった。

オーケストラというものは、時にホームグラウンドを離れたツアー先でさらに団結力を高めて、さらなる高みを実現してくれることがある。果たしてそれが、日本ツアーで起こるのか?大いに期待したいところだ。


小林 伸太郎(音楽ジャーナリスト/ニューヨーク在住)






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