NEWSニュース

2018/05/19 | KAJIMOTO音楽日記

●サラブレッドは挑戦をやめない―― ルーカス・ゲニューシャス ピアノ・リサイタル、5/23(水)から先行発売!


先日から、10月に来日するマウリツィオ・ポリーニの先行発売が大好評で始まりましたが、同じ10月にはポリーニの孫のような新世代の若い才能、ルーカス・ゲニューシャスも来日し、紀尾井ホールでリサイタルを開きます。
カジモト・イープラス会員限定先行受付が、5/23(水)からスタートです!



[ルーカス・ゲニューシャス ピアノ・リサイタル]
10月24日(水)19時 紀尾井ホール

ショパン: 3つのマズルカ op.33
      3つのマズルカ op.63
      ピアノ・ソナタ第3番 ロ短調 op.58
チャイコフスキー: ドゥムカ
デシャトニコフ: 12の前奏曲(ブコビナの歌)[日本初演]

カジモト・イープラス会員限定先行受付  ●お申し込み
5/23(水)12時 ~ 26(土)18時
一般発売  ●お申し込み
6/2(土)10時 ~


ゲニューシャスは1990年モスクワ生まれ。何といっても彼の経歴で目をひくのは、2010年のショパン国際コンクール、2015年のチャイコフスキー国際コンクールの両方で2位だった、ということ。もちろん両方1位だったらものすごく輝かしいのでしょうけど、まったくカラーの違う大コンクールで両方2位、というのは、不気味な存在?ダークホース?確たる力をむしろ感じさせたりはしないでしょうか?

そう、ゲニューシャスはモスクワ音楽院の高名な教授ヴェーラ・ゴルノスターエワの孫であり、いわばサラブレッドなのですね。彼の力の源泉は、まずはここにあり。
(たくさんの名手を育てたゴルノスターエワ自身、あのネイガウスの弟子)
それは聴いていてすぐわかります。ゲニューシャスは昨年、今年と東京のラ・フォル・ジュルネ音楽祭(LFJ)に出演し、たとえば昨年弾いたショパン・プログラム。マズルカやノクターンばかりを弾く、ちょっと地味な演奏会でしたが、美しいタッチから紡がれるなめらかな音とともに、すっと静かな世界が作られ、聴き手はいつしかその中に沈潜。ひそやかな息遣いと光が明滅する別世界の住人になってしまいます。連続した数曲が終わった後、つい水の上に顔を出してふうっと息をしてしまうような心地に。
いや、血筋に宿る能力というのはすごいものだ、と感じ入ってしまいました。
今年弾いた同じショパンのピアノ協奏曲第1番では、逆にこの作曲家20歳頃の青春の息吹に呼応するようにハジケていました。その両方があるのですね、ゲニューシャスには。

ところで今年のLFJのいくつかの演奏会で、彼がアンコールに弾いたのがデシャトニコフの前奏曲「ブコビナの歌」。24の前奏曲のうちの1曲です。「この曲はなんですか?」と随分たくさんのお客様方から問い合わせをいただきましたが、ゲニューシャスは今度の10月のリサイタルでは後半にこれを12曲弾きます。
この昨年書かれたばかりのほやほやの曲のことは、ゲニューシャス自身のメッセージがありますのでそれをお読みいただくとして(↓下に掲載)、デシャトニコフというロシアの作曲家は、当代最高のヴァイオリニスト、ギドン・クレーメルが実演でも録音でも世界に紹介してきた名作曲家で、ゲニューシャス家とも親しくしているそう。さすがサラブレッド(?)。

そして順序が逆になりましたが、今度のリサイタル、彼にとっての重要な節目となった両コンクールにちなみ(もちろん得意な)ショパンチャイコフスキー作品に、そのデシャトニコフ作品――彼が今非常に力を入れている――を組み合わせました。

あふれる天賦の才をもち、絶えず挑戦も続けるルーカス・ゲニューシャスをこれからもファンの方々と共に見守っていければ、と思います。まずは今度の10月のリサイタルにご期待ください!


■チケットのお申込みはこちらまで

カジモト・イープラス会員限定先行受付  ●お申し込み
5/23(水)12時 ~ 26(土)18時
一般発売  ●お申し込み
6/2(土)10時 ~



「ゲニューシャスからのメッセージ」



日本での再度のリサイタルが待ち遠しく、そのことを考えると大きな喜びと興奮で心が満たされます。日本に訪れるたびに、この上なく強烈な感情が沸き上がってきますが、それはこの国のひとびとならではの――私にとっては極めて新鮮な――ライフスタイルに感銘を受けるからでしょう。日ごろから私は、自分には無い「良さ」を他者の内に見出すことを楽しみ、学びのきっかけにしたいと望んでいます。

さて、今回のリサイタルのテーマは「歌」、とりわけ民俗性を帯びた歌です。

プログラムの前半では、ショパンの作品を取り上げます。そこでは間接的に、しかしきわめてはっきりと、彼の音楽に宿る「声楽性」と言うべき特質を感じ取っていただけるはずです。周知のとおり、ショパンはロッシーニやベッリーニら、同時代のイタリア・オペラの大家たちに魅了されました。彼らの影響は、ショパンのほぼすべての作品に反映されています。そして私にとって《ピアノ・ソナタ第3番》は、ショパンの芸術の極みを示す作品です。そこには永遠に色褪せることのない旋律美が詰まっています。

いっぽう、プログラムの後半では、スラヴ系の民俗音楽にオマージュを捧げます。チャイコフスキーの《ドゥムカ》も、レオニード・デシャトニコフの《ブコビナの歌》(実在の民謡を前奏曲に編曲したピアノ曲集です)も、民俗的な音楽素材を発展させ、ピアノのための小品に昇華させた作品です。この機会に、現代作曲家レオニード・デシャトニコフが2017年に全曲を作曲し終えたばかりの曲集《ブコビナの歌》の抜粋をご紹介できることを、心から嬉しく思っています。なぜなら私は、彼こそが、今日のロシアを代表するもっとも優れた作曲家のひとりであると確信しているからです。この《ブコビナの歌》には、コンテンポラリー・アートとしての類まれな長所がいくつも見出されます――洗練された構造、コード化され隠された文化的メッセージ、音楽そのものの極上の美しさ、そして多様な聴衆を惹きつける魅力が備わっているのです。さらに現代のピアニストたちにとって、《ブコビナの歌》は、レパートリーに加えて長期的に弾き続けていく価値のある音楽作品であると思います。

このプログラムを携え、紀尾井ホールで皆さまにお目にかかります。楽しみにしています!


「デシャトニコフ『12の前奏曲』について」

レオニード・デシャトニコフの音楽について語ることは、決して容易ではありません……。というのも、彼は私の家族と――私が生まれる以前から――長いあいだ親しい関係にあるのです。彼は、私にとって幼い頃から身近な存在であり、私がひとりのアーティスト、またひとりの人間として世界観を形成していく過程で、つねに重要な役割を演じてくれました。ですから、私が彼について語る時には、どうしても主観が紛れ込んでしまうのです。

あるときデシャトニコフが、壮大な構想について語ってくれました――これまでの私の人生の中で、この上なく幸せなひとときでした。ブコビナの24の歌を下敷きに、ピアノのための24の前奏曲を書くと言うのですから!やがて、ピアノに捧げられた真の傑作、《ブコビナの歌》が生まれました。ショパン、スクリャービン、ショスタコーヴィチの偉業をモデルとする、24の調性にもとづくピアノ曲集でありながら、そこには民俗色ゆたかな彩りが添えられています。それぞれの前奏曲には、ブコビナ地方で収集された民謡の旋律が用いられています(ブコビナとは歴史的地名で、20世紀に、南部がルーマニア領、北部がウクライナ領となりました)。ウクライナ北東部のハルキウで生まれたデシャトニコフにとって、この曲集は母国に捧げるオマージュであるというわけです。

確かにデシャトニコフは、サンクトペテルブルク音楽院で作曲を学んだ折に、チャイコフスキーやストラヴィンスキー、ラヴェルの作風から感化され、後にはアメリカのミニマル・ミュージックに傾倒しました。しかしそれらは、現代を生きる作曲家であれば、誰もが発展過程で影響を受ける「模範」です。そして当然、ポストモダン時代のアーティストであるデシャトニコフは、これまで極めて多様な作曲様式や音楽言語を取り入れてきました。それでも、彼の1970年代なかばの作品(彼はその後、ミニマル・ミュージックを提唱したスティーヴ・ライヒやジョン・アダムズと交流するようになります。それまでソ連には、この種の音楽は入ってこない状況でした)と、彼の今日の作品からは、ほかならぬ彼自身の「声」が聴こえてきます。両時代の作品とも、どこまでも大胆な音楽性、深い感受性、単位時間ごとに綿密に配されたニュアンスが特徴的です。それこそが彼の、強固で独創的な「声」と言うことができるでしょう。その音楽は、切ないにもかかわらず感傷性とは無縁です。そしてまるで麻薬のように、聴く者を引き寄せ、虜にします。
最後に、デシャトニコフ自身の発言を引用したいと思います。これはインタビューで彼が自ら挙げた、作曲に当たっての3つの基本方針です。自己に対する皮肉を含むこれらの言葉は、作曲家デシャトニコフの創造性の全体的な趣、特色、特質を、如実に伝えてくれます。
「協和音の解放」
「ありふれた表現の変容」
「人間の顔をもつミニマリズム」


ルーカス・ゲニューシャス

 

PAGEUP