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2015/10/02 | KAJIMOTO音楽日記

●すごいな!ベルリン・ドイツ響 ―― 名オーケストラを巡る座談会Vol.1《レコーディング編》

いよいよ今月末に近づいてきたトゥガン・ソヒエフ指揮ベルリン・ドイツ交響楽団の来日公演。
このベルリン・ドイツ交響楽団、戦後すぐの1946年に創設されて以来、ずっと押しも押されもせぬ名門オーケストラとして知られていますが、これまで2回名称を変え、もしかすると若い世代のファンの方には、「あ、あのオーケストラ=このオーケストラなのか」といったことから、ベルリン・ドイツ響はどんな優れた美質をもっているのか?まで、案外知らない方が多いかも。

そこで、音楽評論家の柴田克彦さんの司会により、ベルリン・ドイツ響を実演・録音とこれまで膨大な数を聴いてこられた音楽評論家・満津岡信育(まつおか・のぶやす)さん、そして弊社の編集担当の石川も加わり、ベルリン・ドイツ響について座談会を行いました。

3回に分けてお送りします。第1回目は《レコーディング編》

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柴田(以下:柴):
ベルリン・ドイツ交響楽団について、まずはレコード録音における変遷や特徴を探っていきたいと思います。となれば、当然初代の音楽監督フリッチャイからでしょうか?

満津岡(以下:満):
そうですね。この楽団は、1946年に「アメリカ軍占領地域放送局(RIAS)」のオーケストラ=RIAS交響楽団として創設され、1956年にベルリン放送交響楽団(RSO)に改称されました。放送局の所属ゆえに当初から同時代音楽を含めた幅広いレパートリーを誇り、ハンガリー出身の指揮者フェレンツ・フリッチャイが率いて、ドイツ・グラモフォン(DG)に膨大な録音を行いました。カラヤンが1950年代末からDGに録音を始めるまでは、フリッチャイ&RSOが様々なレパートリーをカバーする形になっていたわけです。そして1970年代になると1000円盤のレコードが登場しましたが、DGとしてはカラヤンのレコードは廉価盤で出せない。そこでフリッチャイ指揮のディスクが1000円で買えるようになりました。なので当時の中~高校生には、バルトークやコダーイをはじめ、王道から少し外れた曲の初体験が彼のレコードというケースが結構多かったと思います。




彼はベルリン・フィル等とも録音していましたね。


日本ではそちらの方が評価され、RSOはベルリンの第2オーケストラ的な位置付けでした。でも意欲的なレパートリーと相まって、ヨーロッパでは評価が高かったのです。それに1970年代の終わり頃、グリエールの交響曲やリーバーマンの作品など、日本では当時入手できなかった録音のドイツ盤を随分買った記憶があります。そういう意味では大変お世話になったオーケストラ。またカラヤンがマリア・カラスと共演したドニゼッティのオペラ《ランメルモールのルチア》のライヴ盤もRSOでしたし、いかなる指揮者がいかなる演目をやっても素晴らしい演奏をするオーケストラというイメージが強かったですね。

:フリッチャイ指揮の録音でお好きなのは?


ゲザ・アンダがソロを弾いたバルトークのピアノ協奏曲全集と、シュヴァルツコップがセルの指揮で歌っているR.シュトラウスの「4つの最後の歌」ですね。これらは名盤中の名盤で、超えられない壁のような存在。RSOにとっても特別な演奏ではないでしょうか。

石川(以下:石):
アンダのバルトークもやはりオーケストラが上手いがゆえの名演ですよね。


1964年からはロリン・マゼールが首席指揮者に就任しました。彼の時代は?




マゼールはその後デッカやCBSに録音したので、初期のDG録音は廉価盤になることが多かった。しかも意欲満々なので変な演奏が多くて(笑)どれも面白かったですね。


この時代の録音でお好きなのは?


それがマゼールではなくて、ハンス・ツェンダーが指揮したB.A.ツィンマーマンの「フォトプトシス」。1973年度のレコード・アカデミー賞の現代曲部門をとっていますが、とにかく衝撃的でした。


マゼールの次がリッカルド・シャイー。1982年に就任していますから当時29歳、若いですね。




これは伝統だと思います。フリッチャイもマゼールも就任時は30代でしたし、若手の有望株に任せるのはRSOの主張の表れでしょう。シャイーはRSOで凄くいい仕事をしました。残念ながら日本ではあまり受けなかったのですが、曲に対する踏み込み方やレパートリーの選択といった点で、私には凄くインパクトがありましたね。


シャイーの録音でお好きなものは?


ツェムリンスキーの一連のディスクが素晴らしい。(編注:「人魚姫」など)


私はプッチーニの管弦楽曲集。これがとても説得力があって、RSOが時々イタリアのオケみたいな音を出す。あとブルックナーの初期の交響曲も印象的でした。

石:
私はマーラー「嘆きの歌」やオルフ「カルミナ・ブラーナ」などを聴いていました。


こうしてみると、当時トレンドになりかけていた曲をいち早く録音していますし、そうしたレパートリーに対応できるのも、RSOの技量を物語っていますね。さて、1989年からアシュケナージが首席指揮者になり、1993年にベルリン・ドイツ交響楽団(DSO)に改名しました。




1990年代の同楽団は、アシュケナージが多数録音する一方、デッカが当時出していた「退廃音楽シリーズ」で大活躍しています。シュレーカーやコルンゴルトはもとより、ブラウンフェルスやラートハウスの作品など、レアなスコアを掘り起こしていて、私はツボなので全部買いましたが、とにかく良かったですね。

石:
やはりそういうところで白羽の矢が立つのがDSOですね。


そう、弾いたことがない譜面をポンと置かれてもいい演奏をするオーケストラ。

:アシュケナージ指揮の録音はいかがでしょう?


彼は、スタンダードな作品以外に、スクリャービンの遺作の神秘劇やラスカトフの交響曲など無名の曲も録音しているのが面白い。ムストネンとのストラヴィンスキーのピアノと管弦楽のための作品集も好演ですし、このコンビは悪くなかった気がしますね。


私はスクリャービンの交響曲。彼はこの作曲家への認識が深い人だし、聴き応えのある演奏でした。次はケント・ナガノが2000年から2006年まで首席指揮者を務めています。彼の時代はどうでしょう?




これも凄く前向きなコンビ。ケントにとってもDSOはやりたいことをきちんと表現してくれる相手だったと思います。ただ彼の頃には、古典派までの音楽はピリオド(古)楽器・オーケストラの範疇になり、モダン・オーケストラの素晴らしい演奏が議論の対象外になってしまった。夫人の児玉麻里がソロを弾いたベートーヴェンのピアノ協奏曲全集など、私はモダン・オケでは最高峰の演奏のひとつだと思うのですが、日本での認知度は低いですよね。


私は、ブルックナーの交響曲第3番の第1稿を興味深く聴きました。その後2007年から2012年まで首席指揮者を務めたメッツマッハーは?


この時代の録音は、プフィッツナーとヴァレーズくらい……。先ほど言ったように、フリッチャイ、マゼール、シャイーは30代のシェフで、当時としては進取的なチョイスでした。しかしその後は、東西ベルリンの統一によって統廃合案が浮上したことや、冬の時代に入ったCD録音以外で実績を挙げる必要性に即して、アシュケナージ、ナガノ、メッツマッハーと3代続けて名のある実力派が就任しましたが、メッツマッハーの時代は中途半端に終わった。そこで次は当初の路線に立ち返って、若手のソヒエフを起用したのではないかとみています。


では2012/13年シーズンに始まったソヒエフとのコンビは?




CDに限ればプロコフィエフの「イワン雷帝」しか出ていませんが、今後非常に期待できる気がしますね。


これは引き締まった響きで生気に富んだ好演です。

石:
ある評論家の方も、これまで聴いた「イワン雷帝」の中で最高の演奏だとおっしゃっていましたね。


プロコフィエフは交響曲全集を録音する話もあるそうですし、その面でも楽しみ。ソヒエフについては、後で詳しく触れることにしましょう。


(続く)

構成・文: 柴田 克彦



<ベルリン・ドイツ交響楽団 公演情報>
2015年11月3日(火・祝) 14:00開演 サントリーホール
指揮: トゥガン・ソヒエフ
ピアノ: ユリアンナ・アヴデーエワ

メンデルスゾーン: 序曲「フィンガルの洞窟」 op.26
ベートーヴェン: ピアノ協奏曲第3番 ハ短調 op.37
ブラームス: 交響曲第1番 ハ短調 op.68

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