NEWSニュース

2015/02/08 | KAJIMOTO音楽日記

●インタビュー―― アンデルシェフスキと、東京の初夏の午後Vol.1 「J.S.バッハを語る(1)」

現代を代表する優れた才をもち、そして我が道をひたすら歩むピアニスト、ピョートル・アンデルシェフスキのリサイタルまで、あと3週間弱。

アンデルシェフスキを聴き続け、彼の音楽についての理解が深い音楽評論家の青澤隆明さんが、昨年の来日の折にインタビューをしてくださいました。
かなり濃い内容で、そして微に入り細に入りの、とても読み応えあるロング・インタビューとなっています。
4回に分けてお送りしたいと思います。




~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 ピョートル・アンデルシェフスキのリサイタルは、日本の聴衆にとっても、また彼自身にとっても待望の機会だろう。2011年夏から1年半の休業に入る直前にも、日本でリサイタルを行っていたが、来る2月の演奏会は以来、実に3年半ぶりのリサイタルとなる。
  2012年秋にはヘルベルト・ブロムシュテット指揮バンベルク響とモーツァルトのト長調K453、14年夏にはヤクブ・フルシャ指揮都響とバルトークの第 3協奏曲を聴かせたし、今回も次期音楽監督パーヴォ・ヤルヴィが指揮するN響とのモーツァルトのハ長調協奏曲K.503が控えている。そして、リサイタルでは、昨年晩秋にリリースした最新アルバムJ.S.バッハ「イギリス組曲集~第3、1、5番」からの曲も含めて、アンデルシェフスキが関心の中心に置くJ.S.バッハとシューマンを主に、最新の進境がじっくりと聴ける。
 前回の来日で、フルシャ/都響と共演したバルトークで連夜水際立った演奏を聴かせた明くる日、 アンデルシェフスキに話を聞いた。バッハのこと、編集中の新録音「イギリス組曲集」や、最近の音楽的関心、来日リサイタルのことなどをたずねて、初夏の午後の1時間はあっという間に過ぎていった。


《音楽への愛、バッハへの道》

 「さっきお昼を食べながら、愛について考えていたんだ」と、アンデルシェフスキは微笑みながらやってきた。「そう、ならば愛について話しましょう」と私は言った、「愛って、どんなふうに定義します?」
 「愛の定義だって?」と、アンデルシェフスキは言う。「そうだな……、たぶんこんなふうに言うことはできるじゃないかな、愛というのは……怖れじゃない、よね?」

―― ええ、ときにはね。でも、ときには怖れとともにあるのでは。

「いや、私が思うに、愛は怖れと対立するもの。そうは思わない?」

―― そうかも。で、あなたの音楽への愛は、怖れの正反対にあるものなのですね? ご自身の音楽への愛や愛着についてどんなふうに説明しますか?

「うーむ……一般的な愛について話をしていたんだけど。どう言ったらいい?」

―― ともあれ、あなたは音楽に愛されているでしょう?  いろいろな面でそう思うけどな。

「どういうこと?」

―― 音楽はあなたの心を、これほどまでに強く捉えている。

「ああ……それは本当だよ……」

―― 音楽とのそうした特別な関係をいつから意識しているのですか?

「とても早くから。3歳のころだと思う」

―― それはピアノに触るまえのこと?

「ずっと前だよ」

―― ということは、音楽を聴いていて?

「そう、聴いていて」

―― それはJ.S.バッハ、ベートーヴェン、それとも他の誰かの曲?

「なんにせよ、家のなかにあった音楽で、よく覚えていないけど……最初に記憶しているのはモーツァルトとベートーヴェン」

―― その後に、バッハがやってくるわけだ。

「ずっと後、ずいぶん経ってからね」

―― 10代の頃?

「いや、もっと後。19歳や20歳の頃」

―― ブリュノ・モンサンジョンのドキュメンタリー・フィルムのなかで、確か16歳のときにピアニストになる夢を止めたと言ってましたっけ。

「そう」

―― じゃ、その後のことですね。

「ええ」

―― モーツァルトの「レクイエム」を聴いて、それがきっかけであなたはピアノのもとに戻った。その後で、バッハを発見したわけですね。

「ずうっと後になってね。あの頃は、いまと違って、1年がとても長かったんだよ。でも、確実に後年のことだ。バッハは私にとって、まったく親しいものではなかった」。

―― では、バッハへの壁を破って、正面から向き合うことにしたのは、いつどうやって?

「うーむ、ゆっくりと徐々に。いきなり盛り上がるようなものじゃなくてね。ほんとうの始まりは「ロ短調ミサ」だった。そこから道を見出して……でも、それは私たちが何について話しているかによるな。演奏について? それとも、私の音楽観について? 両者は異なるものごとだからね」

―― 両方について話しましょう。

「というのも、バッハでは、私なりの演奏法を見つけた。まず、音楽に対して自分の感性や夢というものがあって、それからかたちを与えていくわけで……」

―― どうやって、そうしたコンセプトをやりくりしていくか、という……

「そう。どのようにしてうまく扱っていけるかだ。私はあるバランスを見つけた、自分のコンセプトに、ピアノでちゃんと具体的なかたちにしていったらいいのかという……」

―― フィジカルに?

「ああ、フィジカルに。また、公開演奏をすることとか、そういったことも。で、もし君が絶対的なこと、純粋に音楽について話しているのならば、私にとってバッハはもっとも近い作曲家ではない」

―― それは、どういった点で?  非常にプロテスタント的であるとか……

「いやいや、プロテスタントであることは問題ではない。自分がバッハを理解できたと感じたことが決してないんだ」

―― そう感じられたことすらない……

「ああ、ない。何人かの作曲家は非常に自分に近いと感じるが、バッハは違う。もちろん、それは非常に主観的なものだけれど、少なくともある作曲家とは完全に一体となったと感じる瞬間があるわけで」

―― あなたにとっては、シマノフスキとか、シューマンとか……

「シマノフスキ、シューマン、ショパンもある瞬間にはそうだし、ベートーヴェンはそういうことがすごく多い」

―― それはごく最初の頃、とても若い時分からそうでした?

「ごく初期からそう。それから、自分で拒絶して、また戻ってきたから、ちょっと複雑だけれど……
(続く)


取材・文 青澤隆明
 

<公演情報>
ピョートル・アンデルシェフスキ ピアノ・リサイタル
2015年2月25日 (水) 19:00 開演
東京オペラシティ コンサートホール

(曲目)
J.S.バッハ: フランス風序曲 ロ短調 BWV831
J.S.バッハ: イギリス組曲第3番 ト短調 BWV808
シューマン: 精霊の主題による変奏曲
シューマン: 幻想曲 ハ長調 op.17

【チケットのお申し込み】


青澤隆明氏の著作
ちくま新書『現代のピアニスト30 アリアと変奏』発売中
http://www.chikumashobo.co.jp/product/9784480067395/
 

PAGEUP