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2014/05/15 | KAJIMOTO音楽日記

●ネゼ=セガン指揮フィラデルフィア管のカーネギーホール公演(5/2)を聴いて

6月2,3日にいよいよ東京で公演を行う、ヤニック・ネゼ=セガン指揮フィラデルフィア管弦楽団。この名門オーケストラの来日は数多く、その度に惜しみない感嘆と賞賛の声に包まれたものですが、若き天才ネゼ=セガンが音楽監督となってからは初めての日本公演となります。
このコンビ、去る5月2日にはニューヨークのカーネギーホールに登場、バーバー「弦楽のためのアダージョ」、ブルックナー「交響曲第9番」などを演奏しました。

ニューヨーク在住の音楽ジャーナリスト、小林伸太郎さんがこの公演を聴き、また、それまでのネゼ=セガン指揮のオペラや、このコンビを聴いた体験を交えてコラムを執筆して下さいましたので、ぜひご一読下さい。
(演奏会当日に販売する、公演プログラムにも掲載致します)

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 ヤニック・ネゼ=セガンの音楽を初めて聴いたのは、2009年の大晦日、メトロポリタン・オペラの《カルメン》新演出上演の初日の公演だった。颯爽とピットに現れた彼の若さにまず驚き、恐ろしく速いテンポであるにもかかわらず、息切れ感が全くない序曲のエネルギーにもっと驚いたことを、今でも鮮明に覚えている。《カルメン》なら飽きるほど演奏したことがあるに違いないMETのオーケストラから、埃を振り払ったかのような透明な響きを引き出したネゼ=セガン。この時34歳、急速に世界の音楽シーンで知名度を高めつつあったネゼ=セガンの、強烈なMETデビューだった。

 それからわずか半年後の2010年6月、フィラデルフィア管弦楽団は、彼を次期音楽監督に選んだことを発表した。2006年に前任者クリストフ・エッシェンバッハの契約が更新しないことが確定して以来、4年間も粘って探した末に選ばれたのが、ネゼ=セガンだったのだ。このニュースの米国での受け止められ方は、驚きと納得が相半ばする感じであったと思う。

 「驚き」というのは、輝かしい伝統を誇る世界有数のアンサンブルが、当時まだ30歳代半ばの若い指揮者をトップに据えたことに対する驚きである。フィラデルフィア管には2008年、2009年と続いて客演し、特に客演最初のチャイコフスキー第6番は、メンバーの中でも語り種の大成功であったという。しかし、METの《カルメン》の成功までは、米国での彼の知名度は限られていたから、ネゼ=セガンの登用をギャンブルと思う人がいても不思議はないだろう。その一方で「納得」というのは、高齢の巨匠を選ぶのではなく、将来性のある若手と一定期間以上の長い関係を築くことを期待するとしたら、颯爽とメキメキ頭角を現していたネゼ=セガンは、ベストの選択だろうと思われたからだ。

 筆者がネゼ=セガンとフィラデルフィア管の組み合わせを初めて聴いたのは2012年の秋、カーネギー・ホールで行われたヴェルディ《レクイエム》の演奏会だった。この時は、この組み合わせのニューヨークお披露目であることに加え、同管が倒産の危機を脱してから初のニューヨーク公演であるという事実が、ヴェルディの劇的な音楽に錯綜して、客席を熱く盛り上げたことを記憶している。

 以来、ネゼ=セガンに率いられるフィラデルフィア管を幾度となく聴いてきたが、最近の演奏からは、ハネムーンを終えて、両者が落ち着いて関係を確かめ合い、新たな地平を築きつつあることが感じられるようになってきたと思う。例えば、去る2月に聴いたドボルザークの交響曲第6番の演奏。彼らが聴かせた第3楽章のエッジイな熱狂は、ネゼ=セガンの若い意思の力と、それに呼応しようとするオーケストラの伝統のせめぎ合いがもたらしたものだろう。

 そう、フィラデルフィア管には、全米有数の伝統が培ってきた、フィラデルフィア・サウンドがある。5月2日、カーネギー・ホールで行われたコンサートは、サミュエル・バーバーの《弦楽のためのアダージョ》で始められたが、オーマンディに磨かれた伝統が息づく弦セクションを聴くのに、これは実に相応しい曲であった。ここ数年、定年を迎えたり、倒産法適応の更生手続き中に早期退職したメンバーに代わって、かなり新しいメンバーが増えたというフィラデルフィア管であるが、ヴァイオリンのBフラットの音が静かにホールに響き、そして静かに低弦が寄り添ったとき、それは間違いなく、名にし負うフィラデルフィア・サウンドであった。そしてアンサンブルを透明に響かせるネゼ=セガンの志向は、映画などでも使い尽くされた感のあるこの有名曲を、馴染み深くも新鮮に響かせていた。

 ネゼ=セガンとフィラデルフィア管。彼らの築く新しい伝統に、大いに期待したい。


小林 伸太郎(音楽ジャーナリスト/ニューヨーク在住)



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<ネゼ=セガン指揮 フィラデルフィア管弦楽団 2014年ツアー>

【チケットのお申込みはこちらから】

6月2日 (月) 19:00 開演 サントリーホール(詳細)
  チャイコフスキー: ヴァイオリン協奏曲 ニ長調 op.35(ヴァイオリン: 諏訪内晶子)
  チャイコフスキー: 交響曲第6番 ロ短調 op.74 「悲愴」

6月3日 (火) 19:00 開演 サントリーホール(詳細)
  モーツァルト: 交響曲第41番 ハ長調 K.551 「ジュピター」
  マーラー: 交響曲第1番 ニ長調 「巨人」

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