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2017/03/06 | KAJIMOTO音楽日記

●アンドラーシュ・シフ、来日を前に4人の作曲家の晩年を語る Vol.3―― ベートーヴェン


3回シリーズのインタビュー、最後はベートーヴェンです!
マエストロ・シフの洞察と実践には、まったくもって、いつも教えられることばかりです。

(インタビュー全文は、公演会場で販売されるプログラムにも掲載致します)



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―― ベートーヴェンは作曲手法に至高の道標を打ち立てました。彼の晩年の作品、とくに最後の3つのソナタについてどのようにお考えですか?

S: ベートーヴェンは《ピアノ・ソナタ第28番》から新たな段階に入りました。この作品は私が一番好きなベートーヴェンのピアノ・ソナタで、とくに第1楽章の美しさには心を奪われます。最後の3つのソナタは一体として捉えるべきで、この3曲で彼がピアノ・ソナタを締め括ろうとしていたことがはっきりとわかります。第32番のすべてを超越した素晴らしい終楽章の後に、ベートーヴェンはさらにピアノ・ソナタは書けなかったと思います。

―― 第31番の結尾部で、両手が高音域と低音域に離れて動いていますが、あなたはこれをどのようにお考えですか?

S: あれは天国と俗世を象徴し、作曲家の精神的な勝利を意味しているのだと思います。第3楽章の冒頭は、重荷を持ち上げようとして押し潰されているように感じられます。続く心のつぶやき、「嘆きのアリア」は、第2楽章で使われた民間歌謡の旋律を短調に変形させたと言う人もいますが、私はバッハの《ヨハネ受難曲》の「成し遂げられた」(Es ist vollbracht)の引用で、死を象徴していると思います。再びフーガに入る前の10個の和音は、ベートーヴェンが弱音ペダルを使うよう指示しているので、私は強音で打ち鳴らすのではなく、夜中の10時の鐘の音をイメージして弾いています。そして再びフーガになりますが、意外な調性(ト長調)、しかも最初のフーガの主題に反行する形で現れ、次第にエネルギーを増し……、ト長調から主調の変イ長調に戻り、最初の主題が力強く現れ、ベートーヴェンが病苦に打ち勝ったことを告げています。私はこのフーガの主題を考えるたびに、ベートーヴェンの《荘厳ミサ曲》「アニュス・デイ」の中の「平安を与えたまえ」(Dona nobis pacem)を思い出し、様々なインスピレーションを得ています。

―― 第30番については、どのようにお考えでしょうか? この曲の最初のふたつの楽章はソナタ形式で書かれていますが、第2楽章はとても短いですよね。なぜベートーヴェンはこの楽章をあえてソナタ形式で書いたのでしょうか?

S: 最初のふたつの楽章はどちらも凝縮された書法で、精密かつ複雑に書かれています。私はこのふたつの楽章をひとつに捉え、これらを続けて弾くことで第3楽章の変奏曲とのバランスが取れると考えています。
 ベートーヴェンの作曲手法は実に巧妙で、第2楽章の第1主題のバスの音型を、展開部でバッハのカノンの手法を使って様々に変化させていますが、これは第3楽章を暗示しています。なぜなら第3楽章は《ゴルトベルク変奏曲》をモデルにしているからです。この作品はバッハに敬意を表して書かれたものだと考えていいでしょう。


―― そして第32番で、再びソナタ形式と変奏曲を対比させています。

S: この作品で、ベートーヴェンはさらに新しいアイディアを提示しています。第2楽章の最初の3つの変奏は伝統的なパターンで書かれていますが、第4変奏からは型にとらわれず自由に飛翔し、まるで変奏曲という形式に別れを告げているように感じられます。もちろん彼は、この後自分に《ディアベリ変奏曲》が書けるとは思っていなかったのでしょうけれど……。ベートーヴェンの32曲のソナタはそれぞれがまったく異なり、しかもその最後をこの並外れた作品で締めくくっています。


(2016年10月 台湾にて)


聞き手・文: 焦元溥(著述家・研究家/音楽ジャーナリスト)
訳: 森岡 葉


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