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2017/09/06 | KAJIMOTO音楽日記

●シャイー&ルツェルン祝祭管弦楽団 来日を前にVol.2―― ルツェルン・フェスティバルでの8/11初日公演を聴いて


先日は、来月に来日公演を行うルツェルン祝祭管弦楽団(LFO)の新しい音楽監督、リッカルド・シャイーのインタビュー記事をお読みいただきましたが、今度は現地ルツェルン・フェスティバルで行われたLFO初日公演のレポートを。
日本公演と同じく、R.シュトラウス・プログラムです

パリ在住の音楽評論家で、「フィガロ」紙などへの執筆を行っているクリスチャン・メルラン氏による一文です。ぜひお読みください。

*このレポートの完全版は、公演日に販売するプログラムに掲載いたします。

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ここ数年で、ルツェルン・フェスティバルは二本の大黒柱を失った。ルツェルン・フェスティバル・アカデミーの生みの親ピエール・ブーレーズと、ルツェルン祝祭管弦楽団(以後LFO)の創設者クラウディオ・アバドが、立て続けにこの世を去ったからである。2003年に発足したLFOは、巨匠アバドが選ぶトップ・ミュージシャンたちから成り、彼らが毎年夏に行う2公演を拝もうと、音楽ファンたちはルツェルンに熱心に足を運んだ。当然ながら2014年のアバド逝去の悲報は、このオーケストラの存続を案じさせた――アバドと一心同体だったLFOは、今後どうなるのだろう?同年のアンドリス・ネルソンスとLFOによるアバド追悼コンサートの映像(Accentus)を観れば、この楽団とアバドがきわめて強い絆で結ばれていたことは一目瞭然である。マーラーの交響曲第3番<アダージョ>を、亡きアバドの思い出に捧げるメンバーたち。カメラがクローズ・アップする彼らの目は、例外なく涙で濡れている。

1年におよんだ移行期に、新音楽監督の最有力候補と目されていたのはアンドリス・ネルソンスだった。やがて、ルツェルン・フェスティバルはこのポストにリッカルド・シャイーを迎えることを発表。アバドと同じくイタリアはミラノ出身のシャイーは、2016年、マーラーの交響曲第8番という象徴的な選曲でLFOを振った。アバドは生前10年間、LFOを率いてマーラー・ツィクルスを続け、ルツェルンを「マーラリアンたち」の聖地に変身させたが、唯一この第8番を残して病に倒れたのである。シャイーは今後、LFOのレパートリーをさらに広げ、公演数も増やしていくと公言しており、今夏のプログラムではR.シュトラウス、ストラヴィンスキー、メンデルスゾーン、チャイコフスキーの作品を取り上げた。

今年のフェスティバルの開幕を告げたシャイー&LFOの演奏に接した私からの第一報として、次のことをお伝えしておきたい。LFOを支えているのは、基本的に今もなお、アバド時代のメンバーたちである。つまり、「クラウディオ」との友情を分かち合う世界的な音楽家たちが、一年に一度、一堂に会すという原則はそのまま。今も楽団の骨格を成しているのは、アバドが設立したマーラー・チェンバー・オーケストラのメンバーたちだ。常連のスター・プレイヤーたちは今夏も健在で、トランペット奏者ラインホルト・フリードリヒ、ティンパニ奏者レイモンド・カーフス、フルート奏者ジャック・ズーン、チェロ奏者クレメンス・ハーゲンらの顔が並んだ。もちろんヴィオラのトップは、かつてベルリン・フィルハーモニー管弦楽団を牽引したヴォルフラム・クリストで、この日は彼の真正面に息子のラファエルが座っていた。そう、アバド時代に第2ヴァイオリンにいたラファエルは、コンサート・マスターに抜擢されたのだ。新顔も見られたが、とりわけ目を引いたのは、現在シャイーが音楽監督を任されているミラノ・スカラ座のオーケストラの面々だった。

開幕公演の曲目はR.シュトラウスの華麗な3つの交響詩(《ツァラトゥストラはかく語りき》、《死と浄化》、《ティル・オイレンシュピーゲルの愉快ないたずら》)で、アンコールは《サロメ》から<7つのヴェールの踊り>。休憩時にホワイエに繰り出したひとびとは、さかんに新旧の音楽監督を天秤にかけて議論を尽くしていた。しかし両者の「比較」は、あの場にもっとも不相応な話題である。アバドにはアバドの、シャイーにはシャイーの流儀があるだけなのだから。いずれにせよこの日の来場者は、オーケストラ演奏の極致を目の当たりにすることになった。メンバー皆が、おのおの超人的な超絶技巧を惜しげもなく披露し、同時にアンサンブル全体に見事な一体感をもたらしていた。R.シュトラウスの作品は、何しろ音の数が多く、そこにふんだんな内容が凝縮されている。この種の音楽を指揮するに当たって、終始、テクスチュアを明瞭に響かせるのは至難の業だ。しかしシャイーは開幕公演を通じて、自身が今日もっとも完全無欠な指揮者のひとりであることを示した。どれほど複雑な楽曲であっても、彼はそのすべての要素の音楽的な役割を見抜き、秩序立てていく。おまけにそこに、巨大なエネルギーを注入してみせるのだ。
とはいえ、まだ課題はある。この先LFOとの信頼関係を深化させ、彼らにより自由に演奏させることが、幸先の良いスタートを切った新音楽監督の次なるそれとなってくるだろう。


クリスチャン・メルラン (音楽評論家/パリ在住)


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