NEWSニュース

2014/02/28 | KAJIMOTO音楽日記

●ネルソン・フレイレのこと―― ゲヴァントハウス管、来日公演の前に

今度のライプツィヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団・来日公演で共演するソリストの一人、ネルソン・フレイレ。1944年ブラジル生まれ、70歳になるこの天下の大ピアニストは実に9年ぶりの来日となります。昔からのピアノ・ファンにとっては高名でも、もしかすると若いファンの方々には意外と知られていないのかも・・・ レコーディングもあまりしませんし、活動も派手ではなく、気が向いた時に仕事する、といった“自由人”ですから・・・ と思いましたので、改めてこの名匠についてご紹介することと致しましょう。




ネルソン・フレイレを聴いてまず耳につくのは、なんといっても驚異的に鮮やかなピアニズム。どんなパッセージでも音の粒がきれいにそろい、生き生きとした躍動感と力強さがあり、この精度と迫力たるや唖然とするほどです。清潔なレガート、澄み切ったピアニッシモ、音色の透明、柔軟な美しさといい、ピアノを鳴らす上での技術が格段で、それだけでも星の数ほどいる今時の、あるいは往年の大ピアニストの中でも抜群の一人です。こういう人が1940年代前半にアルゲリッチ、バレンボイム、ゲルバーらと一挙に南米で生まれたというのはまったく自然の驚異のようです。(大体この世代には南米の外に、ポリーニやエッシェンバッハ、ワッツらもいます!)

にもかかわらずフレイレは長い間、ピアノ通や玄人の音楽好きからは“ピアノ界の宝”と認知されながら、一般には実力相応の、いわゆる“スター”としてもてはやされなかったのです。それは彼自身がそうした“スター”のふるまい、目立つのを嫌い、淡々と活動してきたからかもしれません。また演奏自体も、その格段の能力を少しばかり抑制して“凄み”よりも“優しい”風情を漂わせていたせいかもしれません。なんというか、彼のピアノからは、“恥ずかしい”といったシャイな空気を感じることもあります。本当に凄いピアノなのにもかかわらず。

しかし2001年に名門デッカ・レーベルと契約し、ショパンの作品集のレコーディングを皮切りに、2年に1枚ほどのペース(…やはり控えめです。)でCDのリリースを開始した頃からファンの注目度が変わってきました。来日公演でも、デュトワ&N響とのショパンの協奏曲、アルゲリッチとのデュオといった名演は記憶に新しいところです。フレイレが一歩ステージに踏み出ると、大家の風格というものが静かに私たち聴き手を包むのを感じた方は多いことでしょう。

 フレイレは活動のペースを変えたわけではありません。例えば名門ロイヤル・コンセルトヘボウ管のシーズン・パンフレットを見ると、シーズンに1回くらいは定期的に出演していますし、そのことからも現在も彼が世界の楽壇から第一級の存在として認められていることがわかるというものです。そもそもプロフィールを見ても、世界を見渡しても共演していない一流指揮者とオーケストラはまずない、といったものですし。
 そしてシャイー&ゲヴァントハウス管とは、2005年に録音したブラームスの2曲の協奏曲での素晴らしい共演(エコー賞やディアパゾン・ドールなど、世界中で数々の賞を受賞)の記憶は新しいところ。そしてフレイレはシャイーととても仲が良いのです。この写真を見ても、シャイーは尊敬する先輩と話している体。



ところでフレイレはハイティーンの頃、ブラジルを出てウィーンへと行きます。フレイレやアルゲリッチ、それからゲルバーもそうなのですが、彼らにとって当時、フリードリヒ・グルダがヒーローでした。グルダのようにモーツァルトやベートーヴェンを弾きたい、それならウィーンで勉強せねば、と思ったようです。ゲルバーはパリのM.ロンのもとへ行きましたが、フレイレとアルゲリッチはグルダの師で名教師として名高いブルーノ・ザイドルホーファーのもとでみっちりドイツ・オーストリア系の音楽の“奥義”を学んだのです。(ついでに言いますとザイドルホーファーは澄んだ抜けきったピアノの音を出すことを重視していたそうです。自身そうした音の持ち主だった由)
もちろんこの2人のベートーヴェンもブラームスもそれぞれ違ったものですが、しかしフレイレはごく若い時からベートーヴェンもシューマン、ブラームスもレパートリーの中心として活動し、レコーディングもしていました。

若い時にウィーンで学んだベートーヴェン演奏の様式感、それに南米の音楽家ならではの活気あるテンペラメント、先に触れたフレイレ特有の水際立ったピアニズム、さらに彼の省察的な面がすべて合わさった時、どんなベートーヴェン「皇帝」像が出現するか、想像に難くないと思います。ましてや、シャイーの指揮する(この曲を初演した)ライプツィヒ・ゲヴァントハウス管との共演なのですから。

どうぞご期待下さい。


<ネルソン・フレイレ 出演公演>
共演:リッカルド・シャイー指揮 ライプツィヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団
■2014年 3月17日(月) 19:00 東京オペラシティ
【問】カジモト・イープラス 0570-06-9960

チケットのお申し込み

プログラム
メンデルスゾーン: 序曲「ルイ・ブラス」op.95
ベートーヴェン: ピアノ協奏曲第5番 変ホ長調 op.73 「皇帝」 (ピアノ:ネルソン・フレイレ)
        * * *
ショスタコーヴィチ: 交響曲第5番 ニ短調 op.47


ネルソン・フレイレ(ピアノ) プロフィール

PAGEUP