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ルツェルン・フェスティバル・アカデミー in JAPANに寄せて ルツェルン・フェスティバル・アカデミー in JAPANに寄せて

毎夏スイスで開催されるルツェルン・フェスティバル。
そこで行われている、若い作曲家たちを育成する「ルツェルン・フェスティバル・アカデミー」を日本の若い作曲家4名が聴講し、音楽ライターの小室敬幸さんが彼らに同行しました。
11/29にHakuju Hallで開かれる「ルツェルン・フェスティバル・アカデミーin JAPAN 2025」ではその聴講生4名がそこで得た知見をもって作品を発表。さらに彼らがルツェルンで接した作曲家たちのうち、
4人の受講生の作品を発表するという趣向ですが、それを俯瞰して見た小室さんの目に映ったものは、果たしてどんなものだったでしょう?
今回の「ルツェルン・フェスティバル・アカデミーin JAPAN2025」の意義や、この公演が提起する問題などについて、小室さんからエッセイが届きました。ぜひご一読ください。


ルツェルン・フェスティバル・アカデミー in JAPANに寄せて
ルツェルン音楽祭のコンポーザー・セミナーに、日本の才能ある若い作曲家たちを聴講生として派遣する――その意義は明白だ。それに対して現代音楽を作曲するのではなく、現代音楽を解説したり、研究したりしている私のような立場がセミナーを聴講する意味はあるのか? 個人として強く興味はあるものの、その意義にいささか確信はもてないまま、飛行機と列車を乗り継いで遥々とルツェルンを訪れた。

かくいう私も大学(学士)では作曲を専攻し、現代音楽の作曲家からレッスンを受けていた経験がある。海外の講習会は自分自身で受講したことこそないが、知識としては何が行われるかを知っている。実際、ルツェルンのセミナーでも基本的にその情報が大きく更新されることはなかった。だが現場を訪れた人々の反応を眺めていると様々な気づきを得られた。

まずは作曲という技術を修練するカリキュラムについて、実際に学んだ経験がないと良し悪しの判断が難しいということ。作曲科出身であれば当たり前の日常風景に過ぎない内容でも、そうでない人々にとっては特別な場に視えてしまうようである。だからこそ作曲家以外もこうした教育の場を積極的に訪れ、適切な判断ができる人材を増やさなければならないし、若い作曲家を育成するプロジェクトにはそういう人材が企画段階から携わるべきだろう。

そして、作曲の講習会なのだから当然だが、作曲家同士のディスカッションが深められていくのに比例していくかのように、どんどんと内向きの言葉になっていきがちであった(講習会の一週目は受講生による自作のプレゼンテーションであることが多いのだが、聴講生にはその機会がないから余計そうなったのかもしれない)。何を良しとして創作や評価をしているのか? 現代音楽業界の“中”であれば多くの言葉は必要としないかもしれないが、業界の“外”に届けるためには伝わる言葉をしっかりと費やさなければならない。そのことを意識させる存在が若い作曲家を育成するプロジェクトに必要だと思われた。

ある作曲家が書いた音楽を、他の作曲家が審査・価値判断する……という構造ばかりが繰り返されると、現代音楽の閉鎖性はますます進んでしまうに違いない。だからといって人気勝負にしてしまっては本末転倒であることは言うまでもなく、現代音楽の意義は薄らいでしまう。この状況をポジティブに変えていくにはどうしたらいいのか? ルツェルンから持ち帰ったのはソリューションではなくクエスチョンであった。


小室敬幸(音楽ライター)


小室敬幸(音楽ライター)
Takayuki Komuro, Music Writer
1986年茨城県生まれ。東京音楽大学付属高校と同大学で作曲を学んだ後、同大学院では音楽学を専攻。修了後は東京音楽大学の助手と和洋女子大学の非常勤講師を経て、現在は桐朋学園大学 非常勤講師を務めながら、フリーランスの音楽ライター。クラシック音楽、現代音楽、ジャズ、映画音楽を中心に曲目解説やインタビュー記事などを執筆している。
 また2018年から新日本フィルハーモニー交響楽団の「すみだクラシックへの扉」の当日レクチャーを担当したり、TBSラジオ『アフター6ジャンクション』に不定期で出演したりしている。共著に『聴かずぎらいのための吹奏楽入門』『ピアノへの旅』(アルテスパブリッシング)がある。趣味は楽曲分析。


ルツェルン・フェスティバル・アカデミー in JAPAN 2025
11月29日(土)15:00開演  Hakuju Hall

【プログラム】
田中 弘基:奇妙な絨毯【改訂版世界初演】
ミケル・イトゥレギ:さらさらと 氷の屑が【日本初演】
浦部 雪:光よ、灯火の息吹よ【世界初演】
ユリア・コンスタンス・ヴィーガー=ノルドス:彫刻【日本初演】
石川 健人:柱の中に100万時間【日本初演】
マヤ・ミロ・ジョンソン:リンチアーナ【日本初演】
中瀬 絢音:時の塔【世界初演】
ジュンヒョン・リー:スパイクゴーグルと抗精神病薬【日本初演】
藤倉 大:コズミック・ブレス
桑原ゆう: 影も溜らず

*演奏の途中には出演者らによるトークも予定しております。




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