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“Akiko’s Piano” 世界初演! ─ KAJIMOTOが応援する広島交響楽団 “Music for Peace” のストーリー。 “Akiko’s Piano” 世界初演! ─ KAJIMOTOが応援する広島交響楽団 “Music for Peace” のストーリー。

昨晩、萩原麻未×下野竜也指揮 広島交響楽団の演奏によって世界初演を迎えた藤倉大作曲 “Akiko’s Piano”。
広島に原爆が投下された日から75年の本日、8月6日(木)は公演2日目となり、広島から世界へライブ配信も行われます。

【ライブ配信】
2020「平和の夕べ」コンサート《Music for Peace》
2020年8月6日(木)開演:18:45(開場17:45)

弊社では、長期にわたり継続的に、この広島交響楽団による「Music for Peace」プロジェクトに携わり、応援してまいりました。
そこで、今夜ひとつの集大成を迎えるこのプロジェクトについて、弊社担当者がこれまでを見てきたストーリーをご紹介いたします。この2日間のコンサートが、ただの2日間ではなく、広島交響楽団をはじめ、様々な人々の想いが集まる特別な2日間になる様子や、またその裏側をお伝えできればと思います。

はじめに~Music for Peaceとは

「Music for Peace」は、広島交響楽団のテーマ(キャッチフレーズ)である「Music for Peace」を冠し、海外の優れた音楽家と共に平和への想いを込めたコンサートを世界へ発信するプロジェクトとして、2016年度よりスタート。平和の祭典、東京オリンピック・パラリンピックが開催され、戦後75年という節目の年でもある2020年、そしてその先の未来へ向けた音楽による希望のメッセージを発信することがこのプロジェクトのコンセプトです。

「Music for Peace」
http://hirokyo.or.jp/musicforpeace


本プロジェクトに関して弊社の中心になっているのは、長年にわたってマルタ・アルゲリッチの日本におけるマネジャーを務めている、プロジェクト・アドヴァイザーの佐藤正治です。以下、佐藤がこのプロジェクトに携わる経緯を語っています。

「明子のピアノ」との出会い

2004年に大学の先輩から「広島の高校時代の同級生、二口君がコンサートを計画している。彼女に協力してほしい。」と頼まれたのが明子のピアノと出会うキッカケでした。その後、2005年8月3日の広島アステール・プラザのリニューアル・コンサートに、広島出身のチェロの名手・山崎伸子と、ピアニストの大下祐子さんがゲスト出演しましたが、“明子のピアノ”はこのコンサートが初登場の機会でした。

次にこのピアノと出会ったのは、ピアニストの萩原麻未が2013年の8月6日に広島市内の小学校で“明子のピアノ”を弾いたときです。このピアノに、被爆遺品の範疇を超えて芸術を生み出す潜在力を感じました。(今年2月1日に亡くなった故ピーター・ゼルキンが2017年8月4日に広島で明子のピアノを試奏。直ちにCD録音を行い、芸術品としての明子のピアノを実証しました。)

そして2015年8月にはマルタ・アルゲリッチが「Music for Peace」に出演します。

ロサンゼルスから広島に渡った「明子のピアノ」
広島から米国へ、そして米国から広島へ

1888年広島県・福山に生まれた河本源吉は1910年に渡米し、サクラメントとフローリンなどで農業に従事した後、保険業を営んでいました。1922年にシヅ子と結婚して1924年ロサンゼルスに移り、1926年に長女明子が誕生。源吉はピアノを購入しました。1926年にシンシナティで作られたボールドウィン・ピアノは明子の成長につれて彼女を惹きつけ、明子は練習に励みました。
1932年、源吉一家はロサンゼルスを離れ、この米製ピアノも家族と共に広島に移り住みます。明子は広島でもピアノに励みましたが1945年8月6日の原爆の被害に遭い、翌日19歳で亡くなってしまいました。爆風で傷ついたピアノは弾き手を失いそのまま残りましたが、60年の歳月を経て、広島の篤志家の尽力で2005年に修復されることとなるのです。

「明子のピアノ」はMusic for Peace へ

2015年8月広島交響楽団(広響)と共演した世界的ピアニストのマルタ・アルゲリッチ(2016年Kennedy Center Honors 受章者)が広響の協力でこの「明子のピアノ」を試奏。その音とストーリーに共感したアルゲリッチは、その年の12月に、広響の平和音楽大使に就任します。

 2017年には、広響「平和の夕べ」に招かれたアメリカを代表するピアニスト、ピーター・ゼルキンが「明子のピアノ」を試弾します。その音に感激し急遽CD録音を行いました。CDはシンシナティのジャーナリスト経由でボールドウィン社の元オーナーの娘、ペギー・カイトに届きました。CDを聴いたカイト(90歳)から以下のようなメッセージが届きました。

「父の会社が作ったピアノが原爆に耐えて生き残り、日本の皆さんに大切にされているのは驚くべきことです。明子さんのピアノが平和のシンボルとして末永くありますように。」

アルゲリッチと藤倉大

毎年実施されているこのMusic for Peaceですが、2020年8月の被爆75周年を記念する特別の企画について広響は、約3年前となる2017年頃から検討を始めました。

そしてロンドン在住の日本人作曲家・藤倉大に、アルゲリッチと広島交響楽団のために新しいコンチェルトを書いてもらう案をまず、アルゲリッチに相談することになりました。

戦後75年と同時にベートーヴェン生誕250年となる2020年、広響はメインのプログラムを「ベートーヴェン:交響曲第9番」と考えていました。「天国のベートーヴェンは自分の作品と共に演奏される音楽は、何か斬新な作品であってほしいと願っているに違いない」そんな思いから生まれたアイディアが、作曲家・藤倉大に新作のピアノ協奏曲を委嘱し、その世界初演をマルタ・アルゲリッチが演奏すること、そしてカデンツァに河本明子さんが愛奏していたピアノを使用することでした。

一方、アルゲリッチがいわゆる現代音楽を積極的に弾くタイプとは見なされていないため、日頃から世界の音楽祭やオーケストラが、彼女が普段弾いているレパートリーを「安全で無難」という観点から選曲しているようにも感じていました。これはアルゲリッチに対して失礼な話でもあります。現にアルゲリッチは室内楽をはじめ沢山の新曲に挑戦しています。

3年前、アルゲリッチは藤倉大を知りませんでした。新しい作曲家と出会い、その作品を演奏することは予想しがたい(unpredictable)結果をもたらす。それを直感した彼女は藤倉の新作の献呈を受けました。そしてそれを知った広響は藤倉にピアノ協奏曲第4番を委嘱し、2020年8月5日+6日の世界初演を決定することとなったのです。

藤倉は広島で「明子のピアノ」を実際に弾き、様々な資料に触れながら、膨大な準備時間をかけて作曲。完成した作品には「Akiko’s Piano」というタイトルをつけました。

「明子のピアノ」のこれから

アメリカで生まれた少女がアメリカのピアノとともに日本に渡り、少女は広島の原爆で亡くなる一方、この少女が愛奏していたピアノが原爆で傷ついた後に広島の人々の熱意で蘇り、被爆75周年のコンサートで大役を演じる…まもなく94歳を迎える唯一無二のこのピアノは被爆の記憶を音で継承できる貴重な楽器です。

被爆75周年の原爆投下日のコンサートで”明子のピアノ”をこの新作に反映させることは、自然の成り行きでした。曲の最後のカデンツァ部分は明子のピアノで演奏されます。

広島や長崎では、被爆者の高齢化に伴って被爆証言を得ることが難しくなっています。こうした記憶の継承に「Akiko’s Piano」の音楽が、どのように貢献できるかという課題への挑戦でもあります。

Akiko’s Pianoは2020年11月25日にロンドンのBBC交響楽団によって英国初演が行われる予定です。ワルシャワではピリオド楽器のオーケストラとピアノによるポーランド初演も検討しています。
被爆100周年を迎える2045年までにAkiko’s Pianoが世界各地でどのように演奏されているかが「記憶の継承」への貢献度を図るバロメーターとなることでしょう。

明子のピアノが鳴り続ければ、平和のシンボルとしていつまでも記憶に残るに違いなく、またその音楽は一人の少女とピアノの生涯を通じてMusic for Peace の普遍性を描いているように感じます。

この課題への最初の挑戦は今年3月13日の東京と8月5日+6日の広島なのです。

マルタ・アルゲリッチからのメッセージ

藤倉大インタビュー(英語)

下野竜也+萩原麻未+藤倉大 LIVE トークセッション

【関連情報】

“Akiko’s Piano” 藤倉大によるプログラムノート
https://www.daifujikura.com/prog_akikos_piano

AERA 
2018.3.25
https://dot.asahi.com/aera/2018032200029.html

広島市立牛田中学校放送部作品
「ショパンを愛したピアノ」(第34回NHK杯全国中学校放送コンテスト最優秀賞)
https://youtu.be/0FXZuj1oSys

中村真人 著「明子のピアノ 被爆をこえて奏で継ぐ」
(岩波書店 2020/07/03発売)
https://www.iwanami.co.jp/book/b515737.html

ドキュメンタリードラマ「Akiko’s Piano 被爆したピアノが奏でる和音(おと)」
2020年8月15日(土)18:00~19:29放送
[BSプレミアム・BS4K(同時放送)]
https://www.nhk.jp/p/ts/GZX8ZP936Y/

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