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2020/05/05 | ニュース

◆こんなときだから・・・公演プログラム冊子より、はみ出しページを特別蔵出し!(10)―― ポリーニ編


蔵出しも今日で一段落。
ラストはピアニストで、2012年のマウリツィオ・ポリーニ来日公演プログラム冊子に掲載したミニ・コラムから。

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「完璧主義とカンタービレ」

 マエストロ・ポリーニの譜めくりを2度やったことがあります。両方ともシュトックハウゼンの作品で、1998年に「ピアノ曲Ⅹ」、2005年のポリーニ・プロジェクトⅡにおける「ピアノ曲Ⅶ」と「Ⅸ」です。もちろん、いちスタッフである自分のような人間には譜面を追うだけでも超至難な音楽。2度ともにリハーサルの折、真っ赤な顔と大声で「No!」と私を叱責するマエストロの姿が今でも脳裏に浮かびます。
(ミラノでは音楽院の学生が何人も泣いて帰ったと奥様からうかがいました)

 さて、その時の苦労や、マエストロの本番での素晴らしい演奏はちょっと置いておきまして・・・。特に2度目の時に印象深かったことが2つ。

 1つは、ポリーニの自己の音楽への完全主義は譜めくりにまで及ぶ、ということです。まず自分ができることは他人にもできるはずだと思いこまれているようで(笑)、それがリハーサル時での怒りにつながるわけですが、完全な読譜や、音楽にとっての最適なタイミングでのめくりを、「必ずできるはずだし、そうならなければならないので、私と一緒に繰り返し練習しよう」と言われ、舞台上でいくつかのポイントを、まさに繰り返し繰り返し数十回特訓することとなりました。これは今考えてみれば、恐ろしくも光栄この上ない(?)体験であり、ただただマエストロの完璧なパフォーマンスを実現しようとする情熱に飲み込まれていました。

 もう1つは、その「最適なタイミング、呼吸」での譜めくり特訓の中、ポリーニはこの一見複雑で無機的にみえるシュトックハウゼンの音楽にも、ひそかな、しかし確かに存在する「歌」を感じ取っている、ということを発見できたことです。だから歌の呼吸に則って、コンマ一秒でもめくるのが前にズレたり後ろにズレたりすると「う~~」と顔をしかめます。それがうっすらわかってから、非常に難しいことではありましたけど、私なりに「ここだ」というタイミングでめくれた時、マエストロが「うん、もう少しだ」という顔を(多分)されたのが正直嬉しかったですし、こんな細密な部分にまでカンタービレの息吹を感じ取るポリーニの感覚の鋭敏さ、ひいてはイタリア芸術家の偉大なDNAに深く感じ入った次第です。

(A)
 

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