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指揮者ヘルベルト・ブロムシュテットさんの訃報に寄せて 指揮者ヘルベルト・ブロムシュテットさんの訃報に寄せて

 長い年月にわたって世界を代表する指揮者のひとりとして活躍、たくさんの音楽家からも聴衆からも尊敬され、愛されたヘルベルト・ブロムシュテットさんが11月4日、スウェーデンのイェーテボリで亡くなられました。99歳でした。

 ブロムシュテットさんは1927年にアメリカで、牧師とピアノ教師の両親のもとに生まれました。2歳で両親の母国スウェーデンに移住し、その地の音楽院のほかドイツで現代音楽を、スイスでバロック音楽を学び、イーゴリ・マルケヴィチやレナード・バーンスタインにも師事しています。1954年にデビューして指揮者となってからはオスロ・フィルやデンマーク放送響、スウェーデン放送響などを経て、1975年に名門シュターツカペレ・ドレスデンの首席指揮者となりました(このコンビで1973年に初来日)。 その後もサンフランシスコ響の音楽監督、ハンブルク北ドイツ放送響(現・NDRエルプフィル)の首席指揮者を務め、1998年から2005年にはライプツィヒ・ゲヴァントハウス管のカペルマイスターの任にありました。
 1981年にはNHK交響楽団を初めて指揮し、以後名誉指揮者、桂冠名誉指揮者となって昨年まで毎年のように同団に客演。その膨大な数の演奏によって日本にも昔からたくさんのファンがいるのはご存じの通りです。2018年には旭日中授章を受章し、今年2026年には世界文化賞を受賞しました。
 また21世紀に入り、マエストロが80代となってから、かつての古巣のほかにも、ウィーン・フィルやベルリン・フィル、コンセルトヘボウ管、パリ管、ボストン響など世界中の名門オーケストラに常連として定期的に客演するようになったことも、ファンにとっては誇らしいことでした。

 KAJIMOTOもサンフランシスコ響、ゲヴァントハウス管、チェコ・フィル、バンベルク響の来日公演において、ブロムシュテットさんと長きにわたって接することができ、それは本当に幸せなことでした。リハーサルは細部まで厳しく、執拗ともいえるくらいでしたが、反面、朗らかでよく喋り(声も大きく)、どんな時でもポジティヴだったあの姿は忘れられません。マエストロのもつ音楽に対しての清新さ、誠実でまっすぐ、ストイックであっても生来の前向きな明るい姿勢は、そのすべてが演奏に反映されていたのではないでしょうか。
 ゲヴァントハウス管との、すごいエネルギーに支えられ、とてつもない巨大な伽藍を形成したブルックナーの「第5交響曲」、同じオーケストラでも澄み切った水がとめどなく流れていくような不思議な光彩を放ったシューベルトの「ザ・グレイト」などは今も脳裏に浮かびます。
 N響への客演でも、ドイツ音楽や北欧の曲を中心とするマエストロ十八番のレパートリーのほかにも、ショスタコーヴィチの交響曲やオルフ「カルミナ・ブラーナ」などを幅広く指揮し、ヤナーチェク「永遠の福音」、ベルワルド、リドホルム、ステンハンマル、ヴォジーチェク作品など、普通には聴けないような楽曲を取り上げたり、ブロムシュテットさんのあくなき好奇心には目を見張るものがありました。
 その好奇心ということで言いますと、KAJIMOTOのスタッフたちも2016年のバンベルク響の来日公演のときに、一つ驚かされたことがありました。このツアーの折の1曲には、シューベルト「未完成交響曲」があったのですが、第1楽章におけるあのゆったりとした第2主題をインテンポで、弦楽器は(ほぼ)ヴィヴラートをかけずに演奏したのです。それは日頃聴き慣れたこの曲のロマンティックな表情とは違い、達観したような、あるいは幽玄でもあるような不思議な様相を湛えていました。きっとマエストロはシューベルトの中に何か新しいものを発見したに違いなく、それを私たちに実際的なかたちで伝えてくれたのです。こうして立ち止まらず、かつてより解釈をアップデートさせた新しい演奏を、ブロムシュテットさんはしばしば聴かせてくれたものです。

 KAJIMOTOがブロムシュテットさんを最後に招聘したのは、2017年の創立275年記念ツアーを行ったゲヴァントハウス管との来日公演です。この時は楽団が初演した作品──シューベルト「ザ・グレイト」、ブルックナー「第7交響曲」、メンデルスゾーンとブラームスのヴァイオリン協奏曲とともに、NHK音楽祭でのブラームス「ドイツ・レクイエム」がありました(合唱もまた初演を担ったウィーン楽友協会合唱団)。あるべき音の連なりと重なり、滔々と自在に音楽が流れる中、厳しさとあたたかさが一体となった祈りが満ち溢れ、あの大きなNHKホールいっぱいの聴衆を包み込んだ演奏を、私たちは決して忘れることはないでしょう。ここにブロムシュテットさんのほとんど全てがあったような気さえしています。

 音楽への献身によって、私たちに大切なものを限りなくたくさん与えて下さったブロムシュテットさんに、心からの感謝の意を表すとともに、ご冥福をお祈りいたします。

KAJIMOTO

2017年のライプツィヒ・ゲヴァントハウス管との、ブラームス「ドイツ・レクイエム」終演後のカーテンコール。(NHKホール)
同ツアーにおいて、マエストロ90歳、ソリストのカヴァコス50歳の記念Tシャツが作られ、それを着るマエストロ。(左がカヴァコス、右は梶本眞秀、後は当時のゲヴァントハウス総支配人のシュルツ氏)

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