

©Elsa Thorp


©Felix Broede


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Wu Wei – 吴巍
国際舞台で活躍の場を広げるウー・ウェイは、3千年以上の歴史を誇る「中国笙」のヴィルトゥオーゾとして、伝統の枠を大胆に超えながら、この楽器に21世紀の新風を吹き込んできた。
中国笙は、金属椀の上に竹筒の束が立つリード楽器である。その銀色を帯びた風のように儚いサウンドは、中国の伝説にあらわれる鳳凰の歌声を連想させる。ウー・ウェイが生み出す輝かしく澄んだ音色と、中国笙がはらむメロディ、ハーモニー、リズム、ポリフォニーの限りない可能性は、多くの演奏家やアンサンブルを惹きつけてきた。伝統楽器のアンサンブルのほか、西洋クラシック音楽の室内楽団やオーケストラとの共演も数多く、ソロ公演やジャズのビッグ・バンドとの公演では即興もおこなっている。さらに電子音楽、ミニマル・ミュージック、バロック音楽など、多岐にわたるジャンルを縦横無尽に行き来している。
実験的な試みへの意欲と、新たなサウンドや音楽表現を見出す才能に魅せられた一流作曲家たちは、彼の独奏を想定し、中国笙のための協奏曲を書いている。その代表的な例として、フアン・リューの《The color Yellow》(2007)、フース・ヤンセンの《Four Songs》(2008)、チン・ウンスクの《Su》(2009)、ユッカ・ティエンスーの《Teoton》(2015)、ベルント・リヒャルト・ドイチュの《Phaenomena》(2019)、オンドレイ・アダメクの《Lost Prayer Book》(2019)、ドンフン・シンの《Anecdote》(2019)・《Double Act》(2022)、エンヨット・シュナイダーの《Changes》(2003)、ファン・マンの《Song of the Flaming Phoenix》(2022)、ロルフ・ワーリンの《Five Seasons》(2022)が挙げられる。
これまで、ケント・ナガノ指揮ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団、チョン・ミョンフン指揮ソウル・フィルハーモニー管弦楽団、グスターボ・ドゥダメル指揮ロサンゼルス・フィルハーモニック、イラン・ヴォルコフ指揮BBC交響楽団、マリン・オールソップ指揮カブリヨ祝祭管弦楽団、スザンナ・マルッキ指揮ロイヤル・ストックホルム・フィルハーモニー管弦楽団/ニューヨーク・フィルハーモニック、ヤープ・ヴァン・ズヴェーデン/エド・デ・ワールト指揮オランダ放送フィルハーモニー管弦楽団、マティアス・ピンチャー指揮ヘルシンキ・フィルハーモニー管弦楽団/アンサンブル・アンテルコンタンポラン、エサ=ペッカ・サロネン指揮サンフランシスコ交響楽団、ティエリー・フィッシャー指揮サンパウロ交響楽団、ディーマ・スロボデニューク指揮ミネソタ交響楽団、オランダ・バロック、アトラス・アンサンブル、台湾の台北市立国楽団および高雄市国楽団、NDRビッグ・バンド、フース・ヤンセン(オルガン)、ワン・リ(口琴)、パスカル・コンテ(アコーディオン)らと共演。
また、ルツェルン・フェスティバル、ベルリン音楽祭、ロンドンのBBCプロムス、パリのフェスティバル・ドートンヌ、ドナウエッシンゲン音楽祭、エディンバラ国際フェスティバル、サントリーホール サマーフェスティバル、ドレスデン音楽祭、ケルンのアハト・ブリュッケン音楽祭、グラフェネック音楽祭、ニューヨークのリンカーンセンター・フェスティバル、統営音楽祭などから定期的に招かれ、演奏を披露している。
2025/26年シーズンには、北京でNCPA(中国国家大劇院)管弦楽団のレジデント・アーティストとして活動予定。また2027年にはパリのマニフェスト音楽祭にて、アンサンブル・アンテルコンタンポランおよびIRCAMとのコラボレーションで、フィリップ・ルルーの《中国笙、アンサンブル、電子音楽のための協奏曲》を世界初演する。
作曲家でもあるウー・ウェイは、これまでロワイヨモン財団、ミュンヘンのムジカ・ヴィーヴァ、ハンザ文化財団、チビテッラ・ラニエリ財団、ザクセン自由州文化財団などから新作を委嘱されてきた。
ベルリン・フィルのマルティン・シュテーグナー(ヴィオラ)およびヤンネ・サクサラ(コントラバス)とともに「ウー・ウェイ・トリオ」を結成し、毎シーズン、ベルリン・フィルハーモニーの室内楽ホールで演奏。ベルリンを拠点とする「アンサンブル・アジアンアート」の創設者の一人でもあり、世界各地から集まった器楽奏者たちとともに、異文化の共存をテーマとするプログラムを奏でている。インゴルフ・ブルクハルト(ジャズ・トランペット)およびフロリアン・ウェーバー(ピアノ)とは、モルゲンラント・フェスティバルのために「トリオ・シルク・ブルース」を結成。ウー・ウェイは、音楽はもとより、文学、舞踊、演劇、建築など、多分野にまたがる意欲的なプロジェクトで引く手あまたのアーティストである。
ディスコグラフィも豊富で、ドイツ・グラモフォン、ソニー・クラシカル、ハルモニア・ムンディ、ヴェルゴ、ペンタトーンの各レーベルから録音をリリースしている。これまで受賞した国際的に名高いレコード賞として、国際クラシック音楽賞(ICMA賞)2015・BBCミュージック・マガジン賞2015(チン・ウンスクの協奏曲集、ドイツ・グラモフォン)、ドイツ音楽批評家賞2012(アンサンブル・アジアンアートのメンバーとして)、ドイツ音楽批評家賞2015(アルバム『John Cage - Two3』)などが挙げられる。
さらに、最優秀中国笙ソリスト賞2017(中国)、“天には栄え”賞2011(エディンバラ国際フェスティバル)、グローバル・ルート・ドイツ・ワールド・ミュージック賞2004(ルドルシュタット、ドイツ)にも輝いている。
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1970年、高郵(中国)生まれ。上海音楽学院で学ぶ。1993年に母国で中国笙のソリストとしてキャリアを開始させ、上海民族楽団などと共演。1995年、DAAD(ドイツ学術交流会)とFNS(フリードリヒ・ナウマン財団)の奨学生に選出され、ベルリンにて4年間の勉学に励み、同地を現在の拠点としている。2013年に上海音楽学院の教授に就任し、中国笙の演奏指導をおこなっている。