ORIENTATION
REPORT

国際音楽祭での新作初演と
新作オペラ《北斎》の
国際共同制作を通じた
若手育成プロジェクト



オリエンテーションレポート

独立行政法人日本芸術文化振興会 文化芸術活動基盤強化基金(クリエイター等育成・文化施設高付加価値化支援事業)

TEXT BY TAKAYUKI KOMURO
PHOTOGRAPHS BY SISI BURN, KAJIMOTO

2024年9月18日の夜、都内某所の会議室において「国際音楽祭での新作初演と新作オペラ《北斎》の国際共同制作を通じた若手育成オリエンテーション」が行われた。

このプロジェクトは世界における日本文化芸術のプレゼンス向上を狙うとともに、活動を通して日本の若手アーティストおよび若手スタッフが大きな知見を獲得することを目的としており、2025年8月に「①(藤倉大の新作初演がおこなわれる)ルツェルン・フェスティバルへの若手音楽家の派遣」、2025年11月に「②(Hakuju Hallで開催される)ルツェルン・フェスティバル アカデミー in Japan」、2026年2月に「③(グラスゴーとエディンバラで)藤倉大の新作オペラ《The Great Wave》世界初演」という3つの活動が平行して進んでいくというもの。


司会から概要が説明されたあとには、文化庁の参事官である圓入由美氏から挨拶がなされ、「個人で海外にチャレンジしたいという方をご支援する事業は毎年単年度で、新進芸術家海外研修制度として60年近く続いてきたという経緯がございます。こういったご支援をさせていくなかで、若い方に3〜5年ぐらいは複数年の見通しを持って海外を目指して活動・活躍していただくための事業の必要性というのを我々は感じていました。昨年度初めてその必要性というものをご説明させていただき、複数年度の支援事業を、新しくお認めいただいたという状況がございます」と、文化庁側にとっても今回のプロジェクトが新たなチャレンジであることが伝えられた。

加えて「皆さまの海外展開の活動をご理解いただくため、今回のプロジェクトによってクラシックやオペラの世界が非常に素晴らしいものであるとアピールさせていただきたいと思っております。今回お集まりの若いアーティストの皆さまが世界に羽ばたいていく夢を持ってご参加いただき、チームとなって海外で是非とも貴重な経験をしていただけたならと考えています」と語っていたのが印象的だった。

そして今回のプロジェクトで育成対象者となる若手音楽家として指揮の齋藤友香理、作曲の浦部雪・石川健人・中瀬綾音・田中弘基が順番に紹介された(中瀬はパリ、田中はドレスデンに留学中のため、オンライン上でのやり取りとなった)。齋藤が「ドイツで勉強していたのですが、パンデミックで日本に帰ってきました。なのでこういうプロジェクトに関われるということは、私にとっては希望のひとつで、とてもワクワクしております」と語っていたように、この5人が皆、今回のプロジェクトに大きな期待を寄せているのは間違いない。

ここでプロジェクトのキーマンとなる作曲家の藤倉大がオンラインで紹介される。「僕がイギリスに来たのは32年前だったのですが、当時はそういうサポートがあるなんて知らず。全部自分でやらなくちゃいけなかったので大変でした。なので皆さんはこの機会をうまく使って活躍してください!」と、国際舞台の最先端で輝く先輩として若き後輩たちにエールを送った。

Dai Fujikura, composer during a rehearsal with the London Sinfonietta and the UK premiere of his Shamisen Concerto. QEH. 25th May 2023

続いて、ルツェルンに帯同する指導者として関わる作曲家の桑原ゆうが挨拶。「私はルツェルン・フェスティバルのアカデミーに2017年、単身で受講しました。日本人では他に藤倉さんと、そして小野田健太さんが今年受講しています。他にもヨーロッパには作曲家の講習会っていくつかありますが、そのなかでもハードルが高いので、その現場を見てくるということは、皆さんにとってもすごく参考になるはずです。私としては指導というよりはお手伝いが出来たらいいなと思っています」と国際的に作品が委嘱されたり、演奏されたりしている先輩的な立場から言葉を贈った。その他、プロジェクトにかかわる関係者として、音楽ライターの小室敬幸、オペラのプロデューサーを務める杉山亜希子、映像記録を担当する藤井大輔、文化庁や日本芸術文化振興会の方々、制作を担うKAJIMOTOのスタッフが紹介された。

今度は、このプロジェクトを実現させた立役者ともいえるKAJIMOTOの佐藤正治(プロジェクトアドバイザー)から3つの活動の詳細が説明された。ルツェルン・フェスティバルについてはその成り立ちから、この音楽祭の本質を分かりやすく紐解き、作曲のアカデミーについては過去の映像をみせながら、何がおこなわれている場なのかを共有していった。その上で「現場で見たり聴いたりしたものをどう咀嚼するか? 皆さんで集まって議論する場を作ったり、演奏を聴いてレビューのようなものを書くことをやってもらったり、現地で様々な方々とのコンタクト、交流を出来るだけしていただいたりと、そんなことを目指していきたいと思っています」と展望を語った。そして司会からは藤倉の新作オペラの進行状況が共有された。

オリエンテーションを締めくくったのはKAJIMOTOの代表取締役社長 梶本眞秀。「今まさに大谷翔平がメジャーリーグで活躍していますけども、大谷ひとりだけでなく彼を支えてきた人たち、そしてもちろんイチローなどの先人たちがいたからこそ、日本の野球に対するイメージが大きく変わったんじゃないかと思います。もちろん野球とは違うのですけども、同じようなことが我々にもやれるんじゃないかと。これだけ役者が揃っているのだからやるべきなんじゃないかと、ここまで皆さんの言葉を聴いてきて強く思いましたし、とても勇気づけられました。もしかしたら失敗したり、直すべきことがあったりするかもしれませんが、それなしには大谷翔平のような現象は起きないのだと考えています。私としてもこういう機会をつくっていただいたことに感謝したいです」と熱いメッセージを投げかけた。未来へと繋ぐチャレンジは始まったばかり。今後の盛り上がりに期待したい。

Mt. Fuji and Big Wave Hokusai Katsushika