IVO
POGORELICH
INTERVIEW

イーヴォ・ポゴレリッチ 2025
来日記念インタビュー

Pianist

IVO POGORELICH

©MASAMI IHARA

モーツァルトの作品から、
高尚かつドラマティックな内容を
引き出したい

──イーヴォ・ポゴレリッチに聞く

TEXT BY KAJIMOTO
TRANSLATION BY KUMIKO NISHI
PHOTOGRAPHS BY  MASAMI IHARA

まもなく来日する鬼才イーヴォ・ポゴレリッチ。今回彼が演奏するプログラムのことを中心に、いくつかの質問を投げかけてみた。

──今回はモーツァルトとショパンの作品という、シンプルなプログラミングです。ポゴレリッチさんにとってのモーツァルトとはどんな作曲家でしょう?弾いていて、どのような「音楽」の手応えを感じさせる人なのでしょう?

モーツァルトの音楽世界は広大無辺です。目下、私は、彼の音楽がはらむ様々な複雑さを少しずつ理解しはじめているところです。モーツァルトの作品は、五線譜上で一見シンプルに見えますが、実のところ、その背後には数々のメッセージが隠されています。そのため私自身は、より内奥にある内省的な側面を掘り下げ、モーツァルトの作品から高尚かつドラマティックな内容を引き出そうと試みています。

──そして今回の前半のモーツァルトの演奏曲。遅く暗い「アダージョ」のロ短調から始まり、2つの対照的な幻想曲と、終楽章にトルコ行進曲をもつ「ソナタ K.331」へと移っていきますね。

モーツァルトが、その死のわずか3年前に手がけた《アダージョ ロ短調》は、斬新な和声の扱いはもとより、鍵盤の低音域に広がる“深淵”を探求している点でも、この上なく革新的な音楽です。

この曲のあと、2つの極めて濃厚な性格をもつ作品を挟んで、かなり楽観的な作品がプログラム前半を締めくくります——《ソナタ K. 331》の耳なじみの良いモチーフやメロディは、いずれも常緑植物のように決して新鮮さを失いません。

──ショパンはモーツァルトが好きで、彼のシンプルで歌に満ちた艶麗なスタイルをある意味受け継いでいると思います。モーツァルトから、後期の少し複雑さを増したショパンへと続く、このプログラムでは、例えばシューマンと組み合わせた時とは、ポゴレリッチさんにとってショパン演奏のあり方が変わるものなのでしょうか?以前から、同じ曲を弾いても、プログラムの組み合わせによって、テンポや音の扱いにおいて変わってくる印象を得ることがありましたが。

答えはイエスです。作曲家たちの想像世界やファンタジーや性格は個々に異なり、彼らの音楽を並置するさいに双方が互いを反射することは断じて避けられません。

──さて、ショパン・コンクールという節目からもう四半世紀以上たちました。今のあなたにとって、ショパンとはどのような作曲家でしょうか? 演奏していて、当時との違い、またはご自身の変化を感じたりしますか?

私が2022年にソニークラシカルからリリースしたアルバム(『ショパン:ピアノ・ソナタ第3番、夜想曲&幻想曲』)をお聞きいただければ、あなたのご質問に対する沢山の答えが、おのずと浮かび上がると思います。一つだけ言えるのは、ショパンという作曲家が、私を含む数多くのピアニストにとって、絶えずコンサート・レパートリーを支える軸の一つであるということです。

──音楽以外で、近頃はどんな趣味を?

特にこれといったものはありません。私にとって音楽が何よりの関心事ですし、「ツアーのための」移動が多い生活ですので……。

──コロナ禍以後、日本を訪れて何か思うことはありますか?

日本を訪ねるたびに、洗練を極めた日本文化に驚かされ、深く心動かされています。パンデミック後の日本ツアー中も、日本の人びとの美、創意や発明の才、精緻な職人芸、クリエイティヴィティの健在ぶりを堪能しました。