ORCHESTRE
DE LA SUISSE
ROMANDE

ジョナサン・ノット指揮
スイス・ロマンド管弦楽団
記者会見レポート

「私の第二の“ふるさと”で、日本の聴衆が知らない私の一面を聴く機会を」
音楽監督/芸術監督ジョナサン・ノット、スイス・ロマンド管弦楽団との
任期最後の日本ツアーを語る


TEXT BY KAJIMOTO
PHOTOGRAPHS BY YURI MANABE

 2025年7月7日、指揮者のジョナサン・ノットが東京都内で記者会見をおこなった。2014年から音楽監督/芸術監督を務めるスイス・ロマンド管弦楽団(以下、OSR)との任期最後の日本ツアー開幕前夜に、ツアーへの意気込み、楽団の魅力、プログラムの聴きどころ、若手日本人ソリスト2名との共演に寄せる期待などを、ノットは弁舌さわやかに語った。

会見には、中国・韓国でのツアーを成功裡に終え、明日6年ぶりの日本ツアーにのぞむ同団を代表し、事務局長スティーヴ・ロジャーも登壇した。東京交響楽団の音楽監督として日本をたびたび訪れているノットにとって、今回のOSRとの日本ツアーは「私の第二の“ふるさと”日本で、日本の聴衆が知らない私の一面をお聞きいただける機会」であるという。「東響との公演を併せ、3週間の日本滞在は、私自身にとって楽しくエキサイティングなものになるでしょう」

「スイスの作曲家たちの作品も含めた多彩なプログラムには、私が東響とは演奏したことのない作品も含まれています。OSRとは、多彩な言語のオペラ5作品(*注)の演奏にも取り組むなど、充実した8年間を過ごしました。私が日本にいない間にいったい何をしていたのか、これで日本の聴衆の方々にも知っていただけますね(笑)」
「スイスを代表する作曲家、オネゲルの交響的運動第2番《ラグビー》は、タイトル通りスポーツのラグビーをテーマとする、信じられないほど愉しい音楽。極めて巧みに書かれており、もっと広く知られるべき曲だと思います。私自身は、12歳の時に学校のクラブ活動でラグビーを経験しています。《ラグビー》では、ボールがどこへ飛んでいくのか予想できないエキサイティングさや、このスポーツのクレイジーな部分が見事に表現されています」

今回ソリストとして迎える日本の若手、上野道明(チェロ)とHIMARI(ヴァイオリン)については、「訪れる国の傑出したソリストたちと共演できるのも海外ツアーの醍醐味。上野さんとはジュネーヴで一度だけ一緒に演奏したことがあるだけで、HIMARIさんとは今回初めてお会いします。まるでタンゴを踊るように……どんなコラボレーションになるか結果が未知である点に、大きな期待と喜びとを感じます」と、心の高揚を笑顔で伝えた。事務局長スティーヴ・ロジャーは質疑応答で、「演奏者たちと夢を見ることのできる指揮者」「8年間で楽団のレベルを飛躍的に上げた貢献者」と、自分たちの芸術監督を讃え、ノットとOSRの実りある二人三脚を振り返った。

また会見では、OSRが今回のアジア・ツアーで初披露する「Virtual Hall(バーチャルホール)」の説明とデモンストレーションもおこなわれた。OSRがスイスの先端技術企業Cybel’ Artと共同開発した画期的な没入型バーチャル・リアリティ体験「Virtual Hall」では、360度VR技術を通じて、ユーザーが視覚的・聴覚的にオーケストラの内部に没入することができる。ノットはこの「Virtual Hall」について、「当初は懐疑的でしたが、出来上がったものを実際に体験して考えが変わりました」と述べ、「(オーケストラ音楽を奏でる)大勢の人間の魂の交流や、そのエネルギーを伝えてくれる」素晴らしいシステムであると熱弁した。

*注 メシアン《アッシジの聖フランチェスコ》、ドビュッシー《ペレアスとメリザンド》、ロッシーニ《セビーリャの理髪師》、ワーグナー《パルジファル》、R.シュトラウス《ばらの騎士》