NAOKA AOKI
INTERVIEW

青木尚佳
ミュンヘン・フィルコンサートマスター

“ミュンヘン・フィルはブルックナー作品の演奏で国際的な評価を高めてきたオーケストラ。私たちはその演奏に矜持を持っています”

TEXT BY YUKIKO HAGIYA
PHOTOGRAPHS BY CO MERZ /TOBIAS HASE

ミュンヘン・フィルが6年ぶりに来日する。同フィル初の女性コンサートマスター、青木尚佳さんにとって、オーケストラと一緒に日本の土を踏むのは今回が初となる。来日を目前にしてツアー・プログラムの仕上げに余念のない中、時間をとっていただき、話をうかがった。

コンサートマスター就任までの経緯をお話しください。

コンサートマスターのオーディションを受けたのは、コロナ禍の始まった2020年の10月でした。当時私は、ミュンヘン音楽大学の大学院でアナ・チュマチェンコ先生について勉強していたんですが、大学院修了となり学生ビザも無効になってしまうので、日本に完全帰国する前に最後に受けてみようと思ったのがきっかけです。チュマチェンコ先生も勧めてくださったので、最初はフォアシュピーラー(次席奏者。首席の隣)の募集があったら受けてみようと思い、ホームぺージを調べてみました。ところが、フォアシュピーラーオーディ ションの正式な日程が出ていなく、たまたまコンサートマスターのオーディションならあったんです。「いきなり、コンサートマスターではどうせ受からないだろうけれど、まあ、顔を覚えておいてもらうだけでもいいかな。駄目だったら、日本で活動しよう」と考えて、受けに行きました。一次試験はモーツァルト。私はヴァイオリン協奏曲の第4番を弾きました。そうしたら、もう、その時点で合格者は私一人になっていました。応募人数は、そうですね、10数名でした。二次試験の課題はロマンティック・コンチェルトなので、チャイコフスキーを弾いて通過し、三次も無事に終えて、なんと合格してしまいました!そのときはドイツ語も不十分でしたし、全く予想していなかったので、嬉しかったのですが、これは大変なことになったと思いました。

─ オーディションの合格後は?

約1年半の試用期間がありました。普通にステージにのって、メンバーと一緒に弾き、みんながこれから私とやっていけるかどうかを判断する期間です。最終的にメンバーの話し合いでOKとなり、2022年3月から正式にコンサートマスターに就任しました。自分が希望すれば、このままずっと定年の67歳まで働くことが可能です。

─2023年12月21日に紀尾井ホールで、ミュンヘン・フィル・コンサートマスター就任記念としてイザイの「無伴奏ヴァイオリン・ソナタ」全曲演奏会を開きましたね。私はあの演奏会をお聴きしてコンサート評を書きましたが、強い集中力を発揮されておられ、テクニックも構築力もお見事でした。就任記念といっても、あの時点でもうすでに、コンサートマスターとしての実績がかなりおありだったのですね。

そうですね。あの演奏会はコロナ禍で少し延期されましたので、就任してすぐではありませんでした。日本にも、できれば年に2回くらいは帰って演奏したいと思っています。2023年は読売日本交響楽団に呼んでいただいて、小林研一郎先生の棒でメンデルスゾーンを共演させていただきましたし、横浜と名古屋で弦楽トリオの演奏会に出演しました。ヴィオラのジャノ・リスボアはミュンヘン・フィルの首席、チェロのウェン=シン・ヤンはバイエルン放送響の首席です。二人とも素晴らしい演奏家で、彼らとドホナーニ、コダーイ、モーツァルトを一緒に演奏できたことはとても勉強になりました。アマチュア・オーケストラからもお声をかけていただくこともあります。東京ユヴェントス・フィルに客演した時はブラームスのヴァイオリンとチェロのための二重協奏曲をミュンヘン・フィルのチェロ奏者、三井静さんと弾きました。少し前ですが、2020年3月にはアマデウス・ソサイエティー管弦楽団にゲスト・コンサートマスターとして呼ばれ、今回の来日公演で弾く『シェエラザード』を演奏しました。日本のアマチュア・オーケストラは信じられないくらい上手です。

─今回はプログラムにブルックナーがありますね。

ミュンヘン・フィルはブルックナー作品の演奏で国際的な評価を高めてきたオーケストラですから、私たちはその演奏に矜持を持っています。今回、交響曲第8番を持っていけることは大きな喜びです。

青木尚佳
1992年東京生まれ。2014年11月、フランス・パリで行われたロン=ティボー=クレスパン国際コンクールで第2位受賞。併せてコンチェルトの最良の解釈に贈られるモナコ大公アルベール二世賞を受賞する。ロン=ティボー=クレスパン国際コンクール入賞後、本格的な演奏活動を開始。2021年、ミュンヘン・フィルのコンサートマスターに就任。

─ トゥガン・ソヒエフはどんなマエストロでしょう?

トゥガンとは、私は今回で4回目です。本当に素晴らしい人で、一緒に演奏できることが楽しみな指揮者です。音楽的にいろいろなことに深い造詣を持っているので物凄く勉強になります。今年5月にはシベリウスのコンチェルトを共演しました。彼とのブルックナーは、今回初めてなのでわくわくしています。(もちろんもう1つのプログラム、シェエラザードも)

─ もう一つのロシア・プログラムでは、小林愛実さん独奏のラフマニノフ「パガニーニの主題による狂詩曲」がありますが、これまでに小林さんとの共演は?

小林愛実さんは小さい頃から有名でしたから、こちらからは存じ上げていましたけれど、お会いしたことはなく、今回初めて共演します。彼女のご主人、反田さんには去年の3月にミュンヘン・フィルにソリストとしてきていただき共演したことがあるんですけれどね……。2021年のショパン国際ピアノ・コンクールに小林さんが出場したとき、たまたま YouTubeで彼女の3次予選の演奏を聴いていて、なんて素晴らしいのだろうって、心から感動していました。来週の金曜日(10月25日)ミュンヘンへ合わせに来てくださることになっているのでお会いするのが楽しみです。ぜひ、思いっきり、やりたいように弾いて、オーケストラをぐんぐん引っ張っていただきたいと思っています。

ミュンヘン・フィル来日公演 特別企画 
Vol.3 青木 尚佳 インタビュー
(取材 : 2024年10月)