AIMI KOBAYASHI
INTERVIEW

小林愛実
インタビュー

ソヒエフ&ミュンヘン・フィルと初共演
小林愛実にきく

TEXT BY YUKIKO HAGIYA
PHOTOGRAPHS BY YUKI KUMAGAI /AYAMI SAKAMOTO

ミュンヘン・フィル来日公演のプログラムのうち、11/7のロシア・プロ前半のメインは、ラフマニノフ『パガニーニの主題による狂詩曲』だ。ソリストを務める小林愛実がミュンヘンでのリハーサルを終えて帰国し、マエストロ・ソヒエフが指揮するオーケストラとの初顔合わせの様子を生き生きと語ってくれた。

── リハーサルはいかがでしたか?

私はふだんのリハーサルでは緊張しないんですけれど、今回は前々から憧れていたソヒエフさんとのリハーサルだったので、すごく緊張しました。

── ソヒエフさんとは初めてでしたね。

ご一緒するのは初めてです。彼の指揮を最初に聴いたのは、まだここまで有名になっていらっしゃらない頃のオーケストラ・コンサートでした。私もまだ、交響作品にはさほど興味のなかった時期だったんですが、素晴らしい指揮者だということはわかりました。今思えば、もっとよく聴いておけば良かった(笑)。そのあと、2022年だったでしょうか?ウィーンの楽友協会ホールで聴く機会があり、なんて音楽的な指揮者なんだろうと感動しました。どんな音色がほしいか、ということがはっきりしていて、それをとても繊細に表現しているんです。縦の線を合わせるのがうまい指揮者とか、止めるのがうまい指揮者とか、活気のある演奏をする指揮者とかは結構いらっしゃいますが、ソヒエフさんはそうしたこと以上に表現力がすごくて、オーケストラのコントロールもよく効いています。そんな指揮者は滅多にいません。その後も何回か聴きましたけれど、毎回新鮮な演奏をされるので、最初から最後まで引き込まれました。ですから今回の共演がとても楽しみでした。

── 実際のソヒエフさんはどんな感じでしたか?

ソヒエフさんはニコニコと笑顔で接してくださり、とてもフレンドリーな方でした。もちろん、好きに弾いていいよ、というわけではありませんが、まず一回、いちいち止めたりはせずに、通して弾かせてくださった上で、細かく合わせていきました。オーケストラがとてもうまくて、弾きやすかったですね。オーケストラと指揮者の意思疎通がよくできているのにも感心しました。終わってからいくつか貴重な助言をいただきました。尊敬しているソヒエフさんの言葉ですから、私はただただ、「はい、はい」とうなずいていました。

3rd stage of the 18th Chopin Competition in Warsaw Philharmonic Concert Hall . On pic: Aimi Kobayashi Photo by: Darek Golik Warsaw, Poland, 16th of October 2021

──その助言が演奏に生かせたかどうか、来日後のゲネプロ、本番でソヒエフさんに確認してもらうわけですね

はい、そうなんです。よく噛みしめて活かさなくてはなりません。今回のミュンヘン・フィルの来日は世界ツアーの一環なので、プログラムはどこも同じ、コンチェルトは『パガニーニの主題による狂詩曲』ですが、ヨーロッパ公演のソリストは、アレクサンドル・カントロフ、中国公演のソリストはハオチェン・チャンです。日本は2公演で、そのうち、コンチェルトのある公演は11月7日だけです。欲を言えば、もっと公演数があったら良かったなと思うほど、ソヒエフとミュンヘン・フィルとの共演にわくわくしています。

──コンサートマスターは日本人の青木尚佳さんですね。

青木さんとは初めてお会いしました。コンサートマスターとしては厳しい面もお持ちですが、私にはとてもやさしくしてくださいました。このオーケストラには日本人メンバーも多く、チェロの三井静さんは桐朋学園の4年先輩なので前から存じ上げていて、3人でご飯を食べに行って、いろいろとお話が弾みました。青木さんは、私のショパン・コンクール出場時の動画をずっと見ていてくださったそうで、見始めたら夢中になってしまって途中でやめられなくなられたそうです。それをうかがって、とても嬉しかったですね。青木さんのヴァイオリンは本当に素晴らしい音色です。プロラムの後半のリムスキー=コルサコフ『シェエラザード』はコンチェルトにも匹敵するくらい、コンマスの独奏ヴァイオリンが活躍しますから、青木さんのソロが聴きものです。ぜひ、皆さんにあの素晴らしいソロをお聴きいただきたいと思っています。

小林愛実
2021年10月「第18回ショパン国際ピアノコンクール」 第4位入賞。7歳でオーケストラと共演、9歳で国際デビューを果たした。数多くの国に招かれ、ブリュッヘン指揮18世紀オーケストラ、ポスカ指揮チューリヒ・トーンハレ管など多数のオーケストラと共演。2010年14歳でEMI ClassicsよりCDデビュー。2015年10月「第17回ショパン国際ピアノコンクール」ファイナリスト。11月27日に最新CD「シューベルト:4つの即興曲 作品142、ピアノ・ソナタ第19番 ハ短調、ロンドイ長調(連弾)他」をリリース予定。2022年3月、第31回出光音楽賞受賞。

─ ところで、これまで愛実さんの『パガニーニの主題による狂詩曲』をお聴きしたことはなかったのですが、いつ頃からレパートリーに?

この曲をレパートリーにしたのは割合と最近ですが、4月に大阪で日本センチュリー交響楽団と弾き、6月に富士山静岡交響楽団と、7月に新日本フィルハーモニー交響楽団と弾きました。海外オーケストラとは今回が初めてです

── どんな演奏になりそうか、どんなところを聴いて欲しいか、お客様へのメッセージをお願いします。

もしかしたら、一般的に演奏されるような『パガニーニ狂詩曲』ではないかも知れません。私は繊細に歌いたいタイプなので、力で攻めることはしないからです。この曲は24のヴァリエーションから成り立っていますから、その一つ一つのキャラクターを大切に表現しながら、ソヒエフさんと素晴らしいオーケストラと共に存分に歌いたいと思っています。11月7日、サントリーホールでお待ちしています。

ミュンヘン・フィル来日公演 特別企画 
Vol.4 小林 愛実 インタビュー
(取材 : 2024年10月)