SEONG-JIN CHO
INTERVIEW

ゲヴァントハウス管ツアー・ソリスト
チョ・ソンジンに訊く

Pianist

SEONG-JIN CHO

© Christoph Köstlin / Deutsche Grammophon

ネルソンス&ゲヴァントハウス管との共演は
素晴らしい体験になるでしょう
──ゲヴァントハウス管ツアー・ソリスト、
チョ・ソンジンに訊く

Translate by Mai Tamura

カペルマイスターのアンドリス・ネルソンスが率いるライプツィヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団の来日が迫るなか、日本ツアーのソリストであるピアニスト、チョ・ソンジンに訊いた。

──ソンジンさんは、ライプツィヒ・ゲヴァントハウス管と11月の日本公演でシューマンの協奏曲を共演されますが、その前に…。

今回(2023年7月)、山田和樹さんの指揮でバーミンガム市交響楽団とショパンのピアノ協奏曲第2番を弾かれました。ソンジンさんがショパン国際コンクールに優勝してから8年がたち、その間ショパン以外の様々なレパートリーを弾きながら、再びこの作曲家の青春の1曲に接したとき、自分としてどこか変わったな、と感じたところはありますか?

8年前から私のアプローチはさほど変わっていないと自分では思っています。ただ、自分の顔が歳を重ねるごとに変わっていくことに自ら気づかないのと同じように、聴衆の皆さんは変化を感じているかもしれません。私は、様々なオーケストラと共演するたびに新しいアイディアを表現したくなることがあり、たとえばタイミングや音色を変えることがありますね。でもこの協奏曲に対する基本的なアプローチの仕方は変わっていないと思います。

ところで興味深いことに、このピアノ協奏曲第2番を日本で弾いたのは、今回が初めてでした。第1番は日本で何度も演奏してきたのに。

山田和樹さんとは初共演で、6月上旬に私たちはバーミンガムにいてベートーヴェンのピアノ協奏曲第4番を演奏したのですが、最初のリハーサルから、彼の真摯な姿勢や音楽的センス、人間性が大好きになり、共に音楽を作ることを楽しみました。

──さてゲヴァントハウス管とは、ショパンと同い年(1810年生まれ)のシューマンの協奏曲を演奏されます。彼がピアノ協奏曲を書いたのはもう35歳のときであり、こちらは成熟期にあるときの作品です。ピアノ・ソロ曲同様、天才的なイマジネーションや心の輝きが溢れた曲ですよね。

ソンジンさんはこのシューマンの協奏曲に、どんな印象を持っていますか?弾いていて、どんなことを感じますか?

これまでに3つのオーケストラと、6回この曲を演奏してきました。さらに日本に来る前に別のオーケストラと、ライプツィヒとハンブルクでこの曲を弾く予定です。この作品は、演奏するのも、そして解釈するのも最も難しいピアノ協奏曲のひとつです。それは、聴く人によってこの曲をとても自由に解釈できるからです。甘美にもドラマティックにも、さらにはシューマン自身の性格のようにクレイジーな曲にも捉えられるでしょう。そしてまた、ピアニストによってもその解釈は様々になり得ます。私自身、まだ答えはわかりませんし、あるいはそんなものはないのかもしれません。しかし私にとって、この曲はロマンティックでもありますが、第1楽章には甘美なものではなく悲痛さを感じます。音楽の中に非常な深さや痛みがあり、強弱の変化の中にはときに狂気すら感じるほどです。また、このピアノ協奏曲は室内楽のようで、オーケストラの役割が非常に重要です。第2楽章では美しいチェロ・パートがあり、ピアノがそれを伴奏するかたちになるので、チェロとのつながりがとても重要となり、そういう意味でリハーサルにおけるプロセスも大事になってきます。

──この協奏曲はクララ・シューマンのピアノ、そしてゲヴァントハウス管によってライプツィヒで初演されました。あなたはその曲を初演のオーケストラと共演するわけですね!

ゲヴァントハウス管と共演するにあたり、このドイツを代表するオーケストラについての印象や特色など、ソンジンさんが感じることを聞かせてください。

またネルソンスとの共演は?

アンドリス・ネルソンス Photo: Marco Borggreve

ゲヴァントハウス管とは以前にも共演したことがあります。2022年4月の定期公演では、フランス人指揮者のアラン・アルティノグリュと共演する予定でしたが、体調不良で出演できず、マリー・ジャコーが代わりに指揮をしてラヴェル「ピアノ協奏曲ト長調」を演奏しました。私はベルリンに住んでおり、ライプツィヒはとても近いので、車で2時間ほどで行くことができるんですよ。

ゲヴァントハウス管は、皆さんも知る通り、もちろん伝統と歴史のある著名なオーケストラです。オーケストラによっては金管セクションが強かったり、弦楽器が強かったりしますが、このオーケストラは特に弦のサウンドが素晴らしく、バランスの良い音色が魅力だと思います。以前、ネルソンスが指揮するベルリン公演でベートーヴェンの交響曲第7番を聴きに行ったのですが、今まで聴いた中でもっとも素晴らしい演奏でした。本当に感動しました。

シューマンのピアノ協奏曲は、このオーケストラにとって理想的な選曲だと思います。なぜならおっしゃる通り、シューマンとライプツィヒには深い歴史とつながりがあるからです。彼らが素晴らしい演奏をすることは間違いないので、私もいい演奏をしなければなりません。もっと練習しなきゃ!(笑)

ネルソンスとは、ボストン響やベルリン・フィルなどで何度も共演していますが、ゲヴァントハウス管では初めての共演です。私にとって彼は「自身が音楽そのもの」。天性の音楽家という印象を持ちます。何かをしようとすることなく、すべてが自然なのです。リハーサルのとき、言葉では多くは語りませんが、彼の顔の表情や動きがすべてを物語っています。ボストン響とベルリン・フィルのときもそうだったように、ゲヴァントハウス管も間違いなく彼に自然についていくのだと思います。素晴らしい体験になるに違いありません。

ライプツィヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団 Photo: Tom Schulze

──ソンジンさんは日頃CDもたくさん聴かれていると聞きました。ゲヴァントハウス管のCDも持っていますか?

ええ。私の先生であるミシェル・ベロフがクルト・マズアの指揮するゲヴァントハウス管との共演でプロコフィエフのピアノ協奏曲全曲を録音していて、これが私の10代の頃に初めて買ったCDでした。当時のライプツィヒは“東ドイツ”で、1970年代の録音です。ミシェルが言うには、このCDをライプツィヒで録音した当時「世界は今とはまったく違っていた。東ドイツの人々にとって音楽が唯一の喜びや痛みの表現方法だったので、それはとても重要なものだった」そうです。こうした時代をゲヴァントハウス管は生き抜いてきたのですね。ミシェルはこうした思い出を大切に思っています。

これ以外では、ゲヴァントハウス管がネルソンスと録音したCDも大変気に入っていますし、一番のお気に入りと言われると選べませんが、先のベロフのCDは私にとって思い出深いもののひとつです。

(質問:KAJIMOTO編集室 / 2023年7月 都内のホテルにて)