ORCHESTRE
DE LA SUISSE
ROMANDE

ジョナサン・ノット指揮
スイス・ロマンド管弦楽団
来日公演 2019

Music Director, Conductor:

JONATHAN NOTT

設立100周年を迎える
スイス・ロマンド管弦楽団
音楽監督ノットと作り上げる精緻な色彩

スイス・ロマンド管弦楽団 音楽監督
ジョナサン・ノットインタビュー

TEXT BY KATSUHIKO SHIBATA
PHOTOGRAPHS BY KAORI NISHIDA

「メンバーは才能が豊かで意識も高く、オーケストラ自体が聴衆に物語を語りかける能力を持っています」

ジョナサン・ノットは、2017年1月から音楽監督を務めるスイス・ロマンド管について、そう語った。そしてさらに、こうも話す。

「言語は芸術に大きな影響を与えます。彼らはフランス語圏のオーケストラですから、流れる水や香水のような言語がもたらす色彩感や香り、繊細で流麗な音色を有しています。また他の楽団と同じ音楽を演奏しても、そこに遺伝子的な意味でのルーツが感じ取れます。加えて、永世中立国スイスならではの人を包み込むような力もあります」

当コンビは4月に来日し、2つのプログラムを披露する。1つは、ドビュッシーの「遊戯」、ピアノと管弦楽のための幻想曲、ストラヴィンスキーの3楽章の交響曲、デュカスの「魔法使いの弟子」。来日公演では滅多にない注目のラインナップだ。

「フランスがルーツであるこのオーケストラが持つ豊富な音色のパレットを生かした、エモーショナルでスピリチュアルかつ力強い、正統的なフランス音楽を聴いて頂くプログラムです。ドビュッシーの2曲は、私が大好きな作品。フランス音楽独特の流れるような色彩を持っており、特に本来3人のダンサーが踊る『遊戯』には、繊細でありながら踊りのようななめらかさがあります。ストラヴィンスキーの作品は、スイス・ロマンド管が歴史的な関わりを有する重要レパートリーの1つ。同楽団のもう1つの伝統というべきロシア物であると同時に、ストラヴィンスキー自体がフランスのイディオムを連想させる作曲家でもあります。この交響曲は、喜びに溢れているようでいながら戦争や人間臭い面を想起させる、クラシカルな作品です。デュカスは天才的な作曲家。『魔法使いの弟子』は子供用の音楽と捉える人もいますが、大人の方にこそ聴いて頂きたい音楽であり、独特の色気を湛えたメロディやハーモニーは、知的な喜びをも与えてくれます」

ドビュッシーの幻想曲は、フランスの人気ピアニスト、ジャン=フレデリック・ヌーブルジェがソリストを務める。

「卓越したテクニックと豊かな色彩感を持った奏者が必要な作品ですが、彼はそれに叶うスペシャルなピアニスト。日本の皆様に“真にフランスらしいもの”を聴いて頂きたいと思います」

もう1つはメンデルスゾーンのヴァイオリン協奏曲とマーラーの交響曲第6番「悲劇的」。

ジョナサン・ノット(指揮)
Jonathan Nott, Conductor

スイス・ロマンド管音楽/芸術監督。東京交響楽団の音楽監督。ルツェルン響、アンサンブル・アンテルコンタンポラン、バンベルク響の首席指揮者を歴任した。イギリス出身。近現代の音楽を得意とし、ベルリン・フィル、ウィーン・フィル、シカゴ響、コンセルトヘボウ管などに招かれている。

「スイス・ロマンド管は、サヴァリッシュ(1970〜80年に音楽監督を務めた)に培われたドイツ物を含めて、あらゆるレパートリーに優れた技量を発揮します。マーラーの交響曲第6番は、美しい作品であると同時にまさしく悲劇。ここには“悲劇の持つ美”があり、特にアンダンテの第3楽章が鍵になります。非常に美しいこの楽章は、あらゆるものに対する愛と諦めが込められた、いわば“絶望の讃歌”です。また私は、第2、3楽章のスケルツォ→緩徐楽章の順番は変えません。それはマーラーがベートーヴェンの『第九』と同じことをしたかったと考えているからです。第1、2楽章のリズムの繰り返しも、第1楽章で提示されたテーマが第2楽章で解決しない点もそうです。さらに第1楽章は、妻アルマのテーマが出てきて、男女が融合するかのように見えるのですが、私は愛の生活の終焉、人間の関係性の崩壊を告げるものだと思っています。だからこそ前半をメンデルスゾーンにしました。人生の脈動を感じさせるその協奏曲と、暗くブラックホール的なマーラーの組み合わせです」

メンデルスゾーンのソロは、躍進めざましい俊英・辻彩奈が務める。

「初めての共演ですが、演奏を聴いた際に特別なものを感じさせてくれました。この曲は、皆が思っている以上に深く、燃える要素をもった作品。彼女はまさにそのような力強い演奏をしてくれるでしょう」

ノットは、この2つで「1つの完成した大きなプログラム」だと話す。

「フランス物に始まりマーラーで締めくくる、2018年に迎えた楽団の百周年を日本でも祝う内容。ツアーでは通常無難な曲を取り上げるのですが、今回は私の希望が全て叶った、リスクをいとわずに美的センスを優先させたプログラムです」

彼は日本への思いもひとしおだ。

「日本にはバンベルク響のツアーでも来ましたし、何しろ東響の音楽監督として今年6シーズン目を迎えます。日本は非常にアットホームで居心地がよい場所。聴衆の皆さんも音楽をよくご存じで、共に分かち合うことを大事にしておられます。今回のツアーでは、私がヨーロッパで活動している部分を見て頂き、やはりその音楽を分かち合いたいと思っています」

ノットの意欲に充ちたこの公演、ぜひとも足を運びたい。