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アートは、この世界になにをもたらすことができるだろう?




代表取締役社長 梶本 眞秀


 今年(2015年)私たちは、64年間使ってきた社名「梶本音楽事務所」を、登記名も含め完全に「KAJIMOTO」に改めました。思い返すと、そのきっかけは、「ピエール・ブーレーズ・フェスティバル」を東京で開催した1995年、ブーレーズが私に語りかけてきたひとことでした。

「マサ、クラシックはこのままでは滅んでしまうだろう。あまりに定番化、固定化されすぎていて、革新がない。音楽をプレゼンテーションする方法はもっと多様であるべきだ。その可能性を切り拓いていかないと、クラシックは過去の遺物になってしまうだろう。」

 当時70歳だったクラシック界の大巨匠の言葉は、私の胸に突き刺さりました。
 このままではいけない。何か新たな活路を見出し、そしてこれまでにない発想を得たいという気持ちが募り、2001年、パリにオフィスを開設することにしたのです。パリにオフィスを置くことによって、これまでとは違ったパースペクティブで音楽と接するようになりました。そして生まれたのがシャトレ座と共同制作した、武満徹の音楽をオペラ風舞台作品に仕立て上げた《マイ・ウェイ・オブ・ライフ》や、バロック・オペラの舞台にCGやヒップホップを取り入れたラモー《レ・パラダン》、シェーンベルクのモノオペラ《期待》と《声》など数々のユニークな企画でした。フランスの港町ナントで開催されている「ラ・フォル・ジュルネ」という画期的な音楽祭に出会ったのも、パリ・オフィス開設の年です。



レ・パラダン



マイ・ウェイ・オブ・ライフ


 「ラ・フォル・ジュルネ」は、「常軌を逸した日」というその名が示すとおり前代未聞の音楽祭でした。朝から晩までいくつもの会場で次々にコンサートが開かれ、質の高い演奏を低料金で聴けるという、クラシック・コンサートにはじめて足を運ぶ人が何万人も詰めかけるこの音楽祭の熱気の中で、まさにブーレーズが語った、音楽をプレゼンテーションする新たな可能性をあらゆる常識を覆して実現し、多くの人が集まり楽しんでいらっしゃる様子を、私は目の当たりにしたわけです。スティーブ・ジョブズ(Apple創業者)の “Stay hungry, stay foolish.”、鳥井信治郎氏(サントリー創業者) の「やってみなはれ」という言葉にも通じるかもしれませんが、これまで常識とされてきた既製の考え方や価値観を疑い、「フォル」であり続けることから生まれる広大な可能性を思い知らされた瞬間でした。
 私はこの音楽祭の創始者でありアーティスティック・ディレクターを務めるルネ・マルタンとすぐさま意気投合しました。そして紆余曲折はありましたが多くの方々の協力を得て、2005年にラ・フォル・ジュルネを東京で初開催することができました。東京のラ・フォル・ジュルネは、この11年間に680万人の集客数を記録。大きな音楽祭に成長しました。

 現在KAJIMOTOでは、東京、パリ、北京の3つのオフィスに、11ヵ国のスタッフが働いています。さまざまな言語が飛び交い、文化基盤が異なるさまざまな発想が、ときに火花を散らし、ときには溶け合いながら、日々独特の化学反応を引き起こしています。
 フロアには丸テーブルが散らばっていて、スタッフは好きなところに座るスタイルをとっています。そうすることによって、部署やヒエラルキーをこえてコミュニケーションがとりやすくなり、社内の風通しも随分よくなりました。また、昨年は被災地の方々に音楽をお届けするプロジェクト「ルツェルン・フェスティバル アーク・ノヴァ」で能の公演を手掛け、中国の伝統芸能である京劇のフランス公演も行いました。今年はパリ・オペラ座バレエ団のエトワールたちによる上海公演、映画上映とコンサートを融合した「ライブ・シネマ・コンサート:2001年宇宙の旅」を開催しますが、今後はクラシック以外のジャンルの専門スタッフにも加わってもらい、メディア・アートや日本の古典芸能とのコラボレーションなども企画していく予定です。



アーク・ノヴァ


 これまで私たちが大切にしてきたクラシック音楽に軸足を置きつつも、ジャンルや国や時代の境界線を越えた、驚きと発見にあふれる未来のアートを開発していきたいと考えています。もはやこうなると「音楽事務所」という名称はいささか窮屈に感じはじめ……社名を「KAJIMOTO」に変更したのはごく自然な流れでした。
 佐藤可士和さんに作っていただいたKAJIMOTOロゴは、積み木のように各文字を縦にも横にも斜めにもレイアウトできます。そのような自由さ、しなやかな発想、そして新鮮なエスプリを、今後ますますスタッフ全員で磨いていければと思っています。


 アートは、この世界に何をもたらすことができるのだろう?
 ブーレーズに出会って以来、折に触れて私はこの問いを自分自身に投げかけてきました。
 ある脳科学者の方は「脳は驚きや発見や感動で進化する」とおっしゃいました。そのような「驚きや発見や感動」を、アートを通してお届けし、未知の時間に向けて脳や感受性を解きほぐし、活性化し、ヒトの進化を促すこと、それもこの問いに対する答えのひとつなのかもしれません。



ゴビ砂漠を、パラグライダーから


 最後に、私が大好きなサン=テグジュペリの言葉を。
「船を造りたいのなら、男たちを森に集めたり、仕事を割り振って命令したりする必要はない。代わりに、彼らに広大で無限な海の存在を説けばいい。」

 私たちの仕事は、この「広大で無限な海」を、アーティストといっしょにワクワクしながら発見する旅のような気がしています。その冒険と発見に満ちた旅を皆様と分かち合っていければ、それにまさる喜びはありません。



ブーレーズ・フェスティバル