佐藤可士和 × 梶本眞秀 対談企画
伝統と革新、そして進化へ・・
KAJIMOTOの新たな挑戦
世界的な経済不況の中、音楽業界にも影響が見られるようになりました。 私たちは、このような時こそ、芸術文化を発信する側が保守的な姿勢に陥らないよう、また、新しい時代にあったエンタテインメントの提供を目指し、アートディレクターの佐藤可士和さんにロゴデザインをはじめ、宣伝媒体のクリエイティブディレクションを含めたブランディングをお願いしました。社名も、4月より梶本音楽事務所からKAJIMOTOへと変更し、永年培った伝統を引き継ぎながら、新しい進化を目指していきます。今回は、佐藤可士和さんと弊社社長梶本眞秀との熱い対談を巻頭企画でお届けします。
なぜ今ブランディングを?
梶本:当社は、1951年の創立以来、58年間に渡り国内外の音楽家のマネジメントや招聘、コンサートの企画制作等を行っています。その中で、私自身、既存スタイルの繰り返しは衰退を招くのではないか、つねに進化しなければいけないという思いがあり、95年の「ピエール・ブーレーズ・フェスティバル」あたりから、かなり変革を進めて来ました。ところが、はたと気づいたら、社名や会社のロゴなどは58年前と同じものをずっと使っている。チラシやポスターなどの宣伝物にはデザインの統一性がない。新しいことをやっているのに、タキシードを着ているのに下駄を履いているような、外見が内容にマッチしていないと感じ始めたんです。そこで、思い切ってブランディングを導入することにしました。これは我々の、不況に負けない挑戦でもあります。
佐藤可士和さんとの出会い
梶本:ブランディングを依頼するにあたっては、複数のアートディレクターの方の勉強をし、検討させて頂きました。その中で、一番自然に入ってきたのが可士和さんのデザインだったんです。偶然、私が愛用していた携帯電話が彼のデザインだったのも何かのご縁かもしれません。携帯電話やSMAP、ユニクロ、そして、幼稚園や美術館と幅広いを分野を手掛けていらっしゃることに興味を惹かれ、そういう方に会ってみたいという気持ちもありました。初対面のとき2時間ほどお話をして、「この人と一緒にやったら、今まで見えなかったものが見えるに違いない!」と直感しました。ロゴをデザインするということだけじゃなくて、何か先に大きな可能性が見えたんですね。
ビジョンを形にする
佐藤:僕は最初、クラシック業界と聞いて、「変えたいという幅が狭いんじゃないか」という思い込みがあり、デザインの微差で鮮やかな答えが出せるかなあ……という不安感を抱きました。クラシックって触っちゃいけないんじゃないかとも。だけど、梶本社長にお会いしたら、僕の勝手な固定観念を吹き飛ばすような素晴らしいビジョンを持っていらしたので、これはもうぜひご一緒したいなと思ったんです。それから半年以上かけて、梶本社長が考えていらっしゃる「変革」の本当の意味合いを、頭だけでなく僕自身の感覚でわかるまで、何度も何度も「問診」させて頂きました。ご自宅にも遊びに伺って、会社や音楽のことだけでなく、車や建築や教育の話まで。
梶本:それが楽しい時間でね。毎回二人でいろんな話をするのが楽しみで楽しみで仕方なかった。会社のロゴがまだまだ完成しないで欲しいと思ったほどです(笑)。と同時に、佐藤さんに説明する作業が、自分自身と向き合うことにもなって、色々な考えや想いが溢れだしてきたんです。これからの時代、音楽事務所というのは今のままで良いのか、日本あるいは世界において音楽・芸術が社会に対して何をすべきか、我々の存在価値とは何かと。
佐藤:デザインをするというのはビジョンを形にする作業であり、無意識を意識化することでもあるんです。こういうブランディングって、「自分達は何であるか」を考え直す作業でもありますよね。
伝統と革新、そして進化へ
梶本:95年にピエール・ブーレーズと仕事をしたとき、彼は「音楽のプレゼンテーションの仕方が画一的になっていないか?新しいことをしていかないと、音楽は埃をかぶってしまうよ」と、既成概念の中に埋没してしまう危険性を警告してくれました。その頃から当社は、クラシックの伝統や精神を尊重しつつも、より独創性に富んだ新しいプロジェクトを始めました。例えば、テーマ性を重視した2002年の「ポリーニ・プロジェクト」、2004年から3年間にわたり劇場との共同制作によって行った「シャトレ座プロジェクト」また、より幅広いお客様に向け、2005年にスタートした「ラ・フォル・ジュルネ・オ・ジャポン」などは、今や100万人を超える集客を果たし、まさに革新的な音楽祭と言えると思いますし、昨年のショパンの生涯に焦点をあてた「ル・ジュルナル・ド・ショパン」も新たなクラシック音楽の冒険でした。そして、今回は、さらなる進化ということを考えたんです。このブランディングによって、音楽文化の新しい価値観を創りだそうと。
佐藤:僕自身も以前はそうでしたが、クラシックに対して精神的な敷居が高いという人はたくさんいますよね。だから、そんな敷居を取り払って、素晴らしい音楽をより多くの人に聞いてもらえると良いなと思います。一見、様式を守るというのが伝統のような気になりますが、そうではなくて、もっと本質的なところで「いいものは受け継いでいく」というのが伝統だと僕は思うんです。様式を変えないことがイコール伝統ではない。クラシックの伝統というのは音楽の素晴らしさであって、それは変える必要がないし伝えていくべきことだけれども、100年前と今とは時代が違うわけですから、伝え方は時代に合わせてアップデートしたほうが親切ですよね。そんな風に考えて、このデザインに帰結しました。シンプルな形で構成され、積み木のように組み替えられる。ルールを持ちながらも、柔軟に変えられる。梶本の可能性とか多様性を、このロゴ一つで表現できていると思います。
梶本:梶本という企業が音楽、芸術を扱っていくやり方として、一つの形に自分たちの考えを規制してしまわないで、こういう風に自在に様々なことに対応できる。積み木のように横にも縦にもできる。梶本がマネジメントするコンテンツの多様性、拡張性、柔軟性を表しているこのデザインは、まさに、我々のこれからの姿勢を象徴していると思います。
梶本音楽事務所からKAJIMOTOへ
梶本:今回のブランディングでは、梶本音楽事務所からKAJIMOTOへと社名を変更しました。私は、芸術が世の中を少しでも良い方へ変えて行けたらいいなと考えており、音楽というジャンルの枠を超えた芸術、文化の創造をしていきたい。そのためには、「音楽事務所」である必要はない。これからやっていくことに制限をつけないためにも、音楽事務所という枠を外そうと思ったのです。将来の夢として、例えば、快適な環境で練習と生活ができる音楽家のための防音完備のマンションを建てたり、子ども達の感性を刺激するアートの遊園地もつくりたい。また、素晴らしい自然と音楽、そしてグルメまでも楽しめる、一般の旅行会社がパッケージできないような、知られざる音楽祭への旅行のアレンジなどなど……そうなると、もはや音楽事務所ではないですよね。伝統を重んじて社名を変えるべきではない、という意見もありましたが、その時に応じて柔軟に考え方を変えて自分の信じるものに向かって進化していくことこそ、梶本の伝統だと思うに至りました。
佐藤:半年間ずっと梶本さんと話して来て、音楽事務所というのは窮屈な服を着ているようなことだと感じました。アップルコンピュータという会社も「アップル」という社名に変わりましたよね。カテゴリーを規定するというのは古くて、今はどんどん枠を外す方向になっているのだと思います。僕自身も独立して社名を決める際に一年悩み続け、その結果「サムライ」に決めたんですが、サムライデザインにするかどうかで最後まで迷いました。でもやっぱり、デザインと言わないほうが自由に仕事ができると思って。結果的にはすごく良かった(笑)。
新しい文化の創造
佐藤:僕は本当にいろんな業界の仕事をしているので、すごく引いて見ると時代の大きな流れが見える気がします。クラシック音楽でもビールでも教育でも、動いている方向は根底では同じで、共通する問題点などもあるんですよね。よく、日本は文化度が下がって来ているというような事が言われますけど、もしそうだとしたら、受け手が悪いんじゃなくて発信側に責任があるとも思うんです。梶本さんとか僕のような送り手が、みんなが面白いと思うことをやれば良い。こちらが進化していないから興味を持たれない。良いクリエーションが出来ていないから振り向かれない。文化度が低いのだとしたら、発信側のレベルが低いのかもしれないと考えれば良いのかなと思います。最近の若者は車を買わなくてダメだ!と言うなら、乗りたくなるような面白い車をつくろうよって(笑)。だって、インターネットとか携帯電話とかiPodには、みんなドワーッと群がりますよね。
梶本:フランスの「ラ・ロック・ダンテロン」という音楽祭なんて、素晴らしいですよ。商業化されていない街に、信じられないような美味しい食事と小さな天国のようなホテルがあって、森に夕陽が落ちていくのを眺めながらゆっくり食事を楽しみ、終わったらコンサートに行く。人生の素晴らしい瞬間を楽しむ、こんな時間の過ごし方を多くの日本人に味わってもらいたいなあとつくづく思うんです。こういう文化の魅力を伝えていくことも梶本の次の課題ですし、将来は、五感で楽しめる文化、エンタテインメントを目指していきたいと思っています。
佐藤:コンサートの形態ひとつとっても、いろんなことができそうですね。僕は何を創りたいというよりも、つねに新しい風景を見たい、自分も行ったことのないところへ行きたいという好奇心で動いています。だから、梶本さんと音楽の遊園地をつくろうとなったら面白いなあと思うし、見たことのないものを自分にも人にも見せたいと思います。
梶本:いろんな方とのコラボレーションで、人生をもっと楽しくポジティブに生きて行けるような、それで世の中が少しでも良くなるようなものを創って行けたら良いですね。










