YU KOSUGE
Four Elements
Vol.3 Wind
小菅優ピアノリサイタル
Piano
Yu Kosuge
多様な形態で音楽を奏でる
小菅優の深き真価
ピアニスト小菅優インタビュー
INTERVIEW and TEXT BY KATSUHIKO SHIBATA
PHOTOGRAPHS BY TAKEHIRO GOTO
実力派ピアニストとして絶大な評価を得ている小菅優。1993年からヨーロッパで暮らす彼女だが、現在はベルリン(昨年ミュンヘンから引っ越したとの由)に住みながら、ほぼ半年以上は旅に出ている生活をしている。
2010~15年の「ベートーヴェン:ピアノ・ソナタ全曲演奏会」、その後の「ベートーヴェン詣」「Four Elements」と、近年は日本で意義あるプロジェクトを続けている。
彼女が初めてピアノを弾いたのは「2歳の時、母の膝の上」だった。10歳で母と共にドイツへ渡って研鑽を積み、コンクールを経ずして早くから演奏活動を展開。18歳の年に何とリストの「超絶技巧練習曲」を録音し、CDデビューを果たした。以後も顕著な活躍を続け、17年には栄誉ある「サントリー音楽賞」を受賞。19年8月に受賞記念コンサートを行った。
話を聞いたのはその直後。ヴァイオリンの樫本大進とのデュオや、チェロのクラウディオ・ボルケスも交えたトリオを含む受賞記念公演は、自身も「音楽というものを総体的に考えてのプログラム」と語る通り、多様な形態で“音楽する”小菅ならではの充実した一夜だった。
PHOTOGRAPHS BY TAKEHIRO GOTOPHOTOGRAPHS BY TAKEHIRO GOTO PHOTOGRAPHS BY TAKEHIRO GOTO PHOTOGRAPHS BY TAKEHIRO GOTO PHOTOGRAPHS BY TAKEHIRO GOTO PHOTOGRAPHS BY TAKEHIRO GOTO PHOTOGRAPHS BY TAKEHIRO GOTO PHOTOGRAPHS BY TAKEHIRO GOTO PHOTOGRAPHS BY TAKEHIRO GOTO PHOTOGRAPHS BY TAKEHIRO GOTO PHOTOGRAPHS BY TAKEHIRO GOTO PHOTOGRAPHS BY TAKEHIRO GOTO PHOTOGRAPHS BY TAKEHIRO GOTO PHOTOGRAPHS BY TAKEHIRO GOTO
今回のメインの話題は、11月末東京でのリサイタル「Wind」。これは、17年秋から取り組んでいる4つの元素「水・火・風・大地」をテーマにした「Four Elements」の3回目にあたる。
「ベートーヴェンのソナタ全集の際も考えていた“人間の原点”を、より深く掘り下げるべく、それに続く企画としてこのシリーズを始めました。元素の描写だけでなくシンボルとしてのメッセージを含めた選曲を行い、ドイツ物を中心としたこれまでとは異なるレパートリーや、自分の違った面を聴いて頂きたいとの思いも込めています。
今回の『Wind=風』は、前2回の『水』『火』という人間に必要な元素とは少し異なり、目に見えないものや魂的なものを含んでいて、バロックから現代まで幅広いプログラムができました」

前半は、ダカン、クープラン、ラモーの作品に、西村朗の「カラヴィンカ(迦陵頻伽)」とベートーヴェンの「テンペスト」ソナタが続く。
「フランス・バロックは昔から好きなのですが、今回はまた新しい挑戦です。小さい頃弾いたダカンの『かっこう』なども、改めて調べてみると、彼が8歳で指揮をした天才だというのがわかる素晴らしい作品。ラモーのクラヴサン曲は、細かなアーティキュレーションや装飾等を駆使して、オペラのように語っているところに感銘を受けます。西村さんの曲は、2006年ザルツブルク音楽祭にデビューした際に書いて頂いた作品。体は鳥で頭は人間である生き物が美しい声で人間の魂を救うという独特の世界が描かれており、倍音を使ってピアノではないような響きをお届けします。『テンペスト』は、12歳の時から何回も弾いてきた大好きなソナタの1つ。劇的な対話やドラマを想起させる曲であり、ハイリゲンシュタットの遺書の後に変わろうとしたベートーヴェンの新たな世界や使命感を感じ取れます」

後半は、フローラン・シュミットの「シルフィード」、ドビュッシーの「前奏曲集」から6曲、ヤナーチェクの「霧の中で」と近代の作品が並ぶ。
「とにかく今回は神秘的な曲が多いですね。シュミットはフランスらしいハーモニーとワーグナーのような官能性を持つ作曲家。『シルフィード』は技術的な難曲ですが、どうしても入れたかった作品で、風の精が舞っているように転調を続けます。ドビュッシーは幼少の頃一番好きな作曲家だったのに最近弾いていませんでした。彼の中でも欠かせないのが『前奏曲集』。『帆』『夕べの大気に漂う音と香り』『西風の見たもの』『沈める寺』など色々な『風』が出てきます。そしてこの曲で終えたいと思っていたのが『霧の中で』。悲惨な状態だったヤナーチェクの心の霧が表現された儚い音楽ですが、最後は『テンペスト』同様に『生きていかなければいけない』という強さを感じます。今回はお客様も、ミステリアスな『風』の様々な世界を味わっていただき、最終的には風に奮い起こされて生きる力を感じてほしいと思っています」

やはり「活動の中心はドイツ物」と言うだけに、当公演は彼女の多彩な魅力に触れる貴重な機会となる。
その「ドイツ物」といえばベートーヴェン。2016年からは「ベートーヴェン詣」と題して、ソロ、協奏曲、室内楽曲、歌曲とピアノが絡む全作品に取り組んでいる。
「すでにピアノ三重奏曲、四重奏曲やチェロ・ソナタ等を演奏し、2020年には初期の協奏曲『0番』も弾きます。とはいえソロにも変奏曲や小品があり、ヴァイオリンソナタや歌曲もありますので、全部弾くには10年位はかかるでしょうね」
他にも、「ブラームス、シューマン、メンデルスゾーン……」と取り上げたいドイツ物は目白押しだ。
「特にブラームスはピアノが入った室内楽曲が多く、全て演奏すると彼の人生を辿れます。それに歌曲。彼の作品に限らず歌曲を弾くのは、歌い方など本当に勉強になります」
「モーツァルトの協奏曲等での弾き振りも続けたい」が、「ピアニストとしてやりたいことはまだ沢山ある」と話す彼女。今後もその活動から目を離せそうにない。
