NEWSニュース

2011/08/29 |

★空前の名演。P.ゼルキンinサイトウ・キネン・フェスティバル松本

孤高のピアニスト、ピーター・ゼルキンのリサイタルも早2日後となりました。先日もお伝えしましたが(またツィッターでもニュースを出させていただきました)、サイトウ・キネン・フェスティバル松本では、まずソロ・リサイタルで、武満徹の静謐な世界を描出、またベートーヴェン「ディアベッリ変奏曲」では(先日のメッセージでも語っていた通り)「冒険心、ワイルド、気狂いじみていて、近代的で万華鏡のように変幻自在・・・」といったものが思いのほかダイナミックに演奏され、多くのお客様にとって忘れられない一夜となったようです。




一方、ピーターはサイトウ・キネン・オーケストラのコンサート(指揮:ディエゴ・マテウス)で、バルトーク「ピアノ協奏曲第3番」を演奏しました。
この演奏を聴いた弊社スタッフからのレポートをどうぞ!


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

バルトークは3曲のピアノ協奏曲を書きましたが、若いころや壮年期に作曲した、アグレッシヴで野性的な「第1」、「第2」と違い、最晩年に亡命先のアメリカで書いた「第3」は、同じころのこの作曲家の代表作「管弦楽のための協奏曲」(「オケ・コン」ですね)とともに、多くの作曲家がそうであるように、老境の円熟―― 簡潔で透明で、うっすらと後光がさしているような、ある名状しがたい"晴れやかさ"をもっています。
(それを「バルトークは後退してしまった」と言う人もあれば、「いや、それこそが作曲者の到達した至高の境地なのだ」と言う人もおり、評価は2分します)

ピーターは、この曲がこうした不思議な"晴れやかさ"を持った曲であることを、久しぶりに改めて、そして強く思い出させてくれました。




「当日午前中のゲネプロにて」


冒頭、弦楽器のサワサワとしたトレモロの中に入ってくるピーターのピアノのタッチの美しさ、瑞々しさ。キラッと光る大粒の真珠をコーンと転がしたようなピアノの音に私の耳はまずクギヅケ。心が吸い込まれてしまいます。しばらくして、その音をもって激しい楽想に移っていきますが、もしかすると名のあるピアニストであれば、鮮やかなピアニズムで轟然と弾き切ってしまうところ、ピーターは「そんな弾き方の表面的な鮮やかさなど音楽には何の関係もない」と言わんばかりに、ひとフレーズ、ひとフレーズ噛みしめるように、ここでのバルトークの思い、音楽の意味を100%何としても聴衆に届けなければ、とまなじりを決して一心不乱に弾いていきます。その求道的な様子はむしろ不器用にすら感じられるくらいですが、それはこちらの胸の奥深くまで食い入ってきて、思わずビンと背筋が伸びてしまいます。ああいう真剣なピアノはちょっとやそっとでは忘れられません。ただ、そんな中でもピーターは時折顔に笑みを見せ、真剣さと同時に共演を楽しんでいるのだな、と思わされるのも印象的でした。

そして第2楽章がまた、バルトーク特有の「夜の音楽」といわれる、静けさと瞑想、苦悩を含んだ、深い深い音楽の白眉。そこでもピーターの瑞々しくも静謐な音と、恐ろしいくらいの真面目な集中力(?)が相まって、そうした音楽の特性がいやが上にも、より大きな感銘をもって私の中に沁みこんできました。
陶酔のひと時・・・。
ピアノだけの部分になった時の、満場のお客様がしーんと息を飲んで聴き入っているのも、「ああ、こういう演奏会を聴きたかったんだよな」という思いを強くしてくれます。

ところで、この楽章で、「あれ?これが例の1/7コンマミーントーンの調律の成果?」と思える部分があり(そうなのです。以前も連載ブログで紹介したをなんと協奏曲の機会にも使っています)、なるほど音楽の色合いや雰囲気がニュートラルではなく、より多様な空気になっている感じがします。もっとも今回は協奏曲で、たくさんのピアノ以外の音が飛び交っているので、どこまでがその効果で、どこまでがピーターのタッチそのものによるのかは、はっきりとわかりませんでしたが・・・。(凡庸な耳で恐縮です・・・)

後で楽屋を訪ね、ピーターにこの第2楽章の美しさを伝えましたら、
「皆、この第3番となると、第2楽章のことばかり言うんだけど、両端楽章だってまったくクォリティは遜色ないんだ」と、真剣に、半ば怒ったような、冗談が入っているのかわからないような感じで言われてしまいました。(ごめんなさい・・・ピーターさん、そんなつもりはなかったんです。)




「楽屋にて。P.ゼルキン、小澤征良、武満真樹という2世(?)たちの貴重な3ショット」


こうして私は、東京でのピーターのソロ・リサイタルがますます楽しみでなりません!こういう尋常でない素晴らしさでバルトーク晩年の傑作を弾くピーターです。リサイタルにおけるベートーヴェンの、やはり晩年の、至高のソナタと「ディアベッリ変奏曲」を期待するな、という方が無理。
今やなかなかいないであろう、深遠な精神世界を描き出すことのできるピーター・ゼルキンの演奏を、ぜひ多くの方に聴いていただけたら、と願っています。


チケットのお申し込みはこちらまで

ピーター・ゼルキン プロフィール


【ピーター・ゼルキン 関連記事】
ピーター・ゼルキン 発売中 (2011.4.16)
同時代、その名演に立ち会える幸せ ~ゼルキンの「ディアベッリ」リサイタル、米で高評価~ (2011.6.19)
同時代、その名演に立ち会える幸せ ~ピーター・ゼルキン「A to Z」パート1:ピーターの父ルドルフ・ゼルキン (2011.6.30)
同時代、その名演に立ち会える幸せ ~ピーター・ゼルキン「A to Z」パート2:ピーターの祖父アドルフ・ブッシュ (2011.7.3)
ピーター・ゼルキン「A to Z」パート3:ピーター誕生! (2011.7.8)
ピーター・ゼルキン「A to Z」パート4:ピーター=ヒッピー? (2011.7.26)
P.ゼルキン「A to Z」特別編:ゼルキンが用いる特殊調律「1/7コンマミーントーン」の世界! (2011.8.2)
サイトウ・キネン・フェス、長野県外4都市で公演を上映:ゼルキン&ゲルネの演奏を大型スクリーンで! (2011.8.16)
ピーター・ゼルキン「A to Z」パート5:スーパー室内楽集団「タッシ」の誕生 (2011.8.19)
P.ゼルキン「A to Z」特別編2 ~「ディアベッリ変奏曲」についてゼルキンからメッセージが届きました (2011.8.23)
ピーター・ゼルキン 曲目一部変更のお知らせ (2011.8.24)

PAGEUP