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2015/09/07 | KAJIMOTO音楽日記

●ロンドン響来日直前!ハイティンクが、ルツェルン・フェスティバルに登場(2)

後半のマーラーは祝祭管として初の再演作品であり、新たな一歩を踏み出す象徴ともなった。こちらもユーモア(多分にブラック・ユーモアであるが)が込められた作品だ。
冒頭の鈴の終わりを明確にずらして始められた第1楽章は、過度なテンポ変化を行わずに進行。たとえば[17]直前のStrich für Strichの部分はよくアッチェレされるが、ハイティンクはそのままのイン・テンポ。各所のリタルダンドは十分にかけるが、テンポを上げる際の変化は大きくはとらないスタイルといってよいだろう。ともすれば音楽の昂揚にあわせてダイナミックにカンタービレしようとするLFOを、ハイティンクは根気よくコントロールしていた。
スケルツォはヴァイオリンとホルンのソロが大きく活躍する楽章だが、LFOではその他の管楽器や、ヴィオラのソロなども実に雄弁で、スコアの細部がよくわかる。



マーラーの演奏シーン

特に興味深く、聴き応えがあったのは後半の2つの楽章だ。
第3楽章では、ハイティンクらしい抑制の中から逆に立ち上ってくる音楽の大きさが見事で、中でも終わり近くでポコ・アダージョが戻ってくるところなど実に感動的だった(また前年にオランダで演奏した時よりも、音符やフレーズの扱いがより柔らかく流麗という印象を持った)。
フィナーレも素晴らしい。この楽章のソロを歌ったのは、これが当音楽祭デビューとなるアンナ・ルチア・リヒター。1990年にドイツで生まれ、最初は母のレギーナ・ドーメン=リヒターに音楽を習い、ケルン大聖堂女声合唱団を経て、スイスの名教師クルト・ヴィトマーに師事。またケルン音楽大学でも学び、在学中の2011年にプロイセン文化財財団主催のメンデルスゾーン・コンクールでメンデルスゾーン賞を受賞、翌12年にツヴィカウのシューマン・コンクールで優勝も果たし、2013年に大学で満点を得て独り立ちした、今最も期待されるソプラノのひとりである。ヴォルフガング・リームが彼女のために歌曲集を書いたり、サシャ・ヴァルツの《オルフェオ》(パブロ・エラス=カサド指揮)にエウリディーチェ役で出演、今夏のザルツブルク音楽祭にもオロスコ=エストラーダの指揮するシューベルトのミサ曲D678でデビュー(来春のイースター音楽祭にもティーレマン指揮のバッハ《ミサ曲ロ短調》が予定されている)。録音でもオルソップ指揮の《ドイツ・レクイエム》や、パーヴォ・ヤルヴィのマーラー交響曲第8番にフィーチャーされるなど、活躍を広げてきているライジング・スターでもある。今回のハイティンクとLFOとの共演でも、表現力豊かな声色と丁寧な読み込みで、テクストに則った細やかな歌唱を聴かせていた。ラストへ向けて濃密かつじっくりと歩んでゆくテンポにも無理なく対応していたのは、相当な実力の証だ。



アンナ・ルチア・リヒター


アンナ・ルチア・リヒター

なお、来年2016年からはリッカルド・シャイーがLFOの新音楽監督に就任することが決まったので、ハイティンクがこのオーケストラを指揮をするのは原則、今回が最初で最後となるだろう。しかしながら、86歳となり円熟の極みに達した彼がLFOを指揮したシューベルトやブルックナー、ブラームスも、できることならば聴いてみたいとも思う。

ハイティンクはこの後、ヨーロッパ室内管(COE)とも登場し、(1)シューベルト《未完成》、モーツァルトのピアノ協奏曲第23番K488(独奏:マリア・ジョアン・ピリス)とジュピター交響曲、(2)シューベルトのイタリア風序曲、モーツァルトのヴァイオリン協奏曲第5番(独奏:イザベル・ファウスト)、シューベルトの大ハ長調交響曲で組まれた2公演も担当した。COEとはルツェルン・フェスティバルには、夏に2011、14年、春のイースター音楽祭に11、14年、冬のピアノ音楽祭に10、12年と頻繁に出演しているような間柄ゆえ、お互いへのリスペクトと信頼ぶりは側から見ていても充分に伝わってくる。シューベルトのシンフォニーをはじめ、サウンドのバランス硬軟の展開にまさに阿吽の呼吸を感じさせられた。





COEとのリハーサルを終えたばかりのハイティンク


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ルツェルンではその後、ブロムシュテットもグスタフ・マーラー・ユーゲント管(GMJO)と登場。この指揮者は右手の動きだけでほぼすべてを指示するが、一見器用そうには見えないその右手の動きからほぼすべてのニュアンスを引き出すマジックは一層冴えを増しており、GMJOから実に立派な音楽を引き出していた。その姿は、何やら神々しくさえ感じるほど。ブロムシュテットも来年バンベルク響と来日予定なのでご期待いただきたい。



ブロムシュテット


ルツェルン・フェスティバルは、この後9月13日のラトル&ウィーン・フィル公演まで続く。
 

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