NEWSニュース

2015/07/15 | KAJIMOTO音楽日記

●来日公演に向けて / ロンドン響の現在(4)――ハーディングの「ドイツ・レクイエム」

「ロンドン響(LSO)の現在」の連載、第4回目です。
第2回で首席客演指揮者のM.T=トーマスが登場しましたが、今回はこのポストにいるもう一人、ダニエル・ハーディングです。彼はつい先日、新日本フィルに登場して反響が大きかったばかりですね。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 ダニエル・ハーディングは2006年の秋よりロンドン交響楽団(LSO)の首席客演指揮者を務めている(すなわちゲルギエフの首席指揮者就任以前から)。彼にとっては母国での最初のポストであり、期待が寄せられたが、ゲルギエフが来てからしばらくは主要な公演にはあまり起用されず(現代曲や有名ソリストの伴奏役などが多かった)、客演回数が少ない年もあった(スウェーデン放送響や日本などでの仕事が忙しかったのかもしれないが)。ようやくここ2~3シーズン、ブルックナーやマーラーなどのプログラムを指揮するようになり、本領を発揮してきたと思っていたら、2016年秋からパリ管弦楽団のシェフに就任するというニュースが飛び込んできた。LSOはこれから2017年秋のラトル着任までつなぎのシーズンに入るが、ハーディングはラトルにバトンタッチするのだろうか。
 なお、ハーディング自身はLSOとの関係について、最近の『タイムズ』紙のインタビューで「LSOは、僕の個人およびプロとしての浮き沈みのバロメーターでありました。僕の人生の中でもっとも長い関係であり、今いちばん良好な関係にあることを誇りに思っています」と語っている。



 さて、今シーズン(2014/15年)のハーディングはLSOの本拠地バービカン・ホールでの公演に4度登場し、さらに6月にはドイツ/スイス・ツアーも率いた。マーラーの交響曲第9番(10月)、ブラームスのピアノ協奏曲第2番(独奏E.アックス)と交響曲第2番(12月)、ベートーヴェンのヴァイオリン協奏曲(独奏C.テツラフ)とブラームスの《ドイツ・レクイエム》(5月)、メンデルスゾーンのヴァイオリン協奏曲(独奏J.ヤンセン)とマーラーの交響曲第5番(6月)と、ブラームスとマーラーを中心としたもっぱらドイツ・ロマン派の大作を取り上げた。筆者はそのうち12月の公演以外はすべて聴いたが、特にスケールの大きな《ドイツ・レクイエム》が印象に残った。
 ブラームスの《ドイツ・レクイエム》は、最近では抒情的で内省的な演奏のほうが多いように思うが、ハーディングは彼の特質である造形的なアプローチで、ドイツのゴシックの大聖堂のような壮大かつ堅牢な演奏をLSO、ロンドン・シンフォニー・コーラス、そして独唱のサリー・マシューズ(レッシュマンの代役)、マティアス・ゲルネとともに作り上げた。前半は遅めのテンポで、低弦はノン・ヴィブラートで重ために奏し、合唱も慎重な姿勢でハーディングの細かいフレージングやニュアンスの指示に反応していた。特に第3曲のオルゲルプンクト上に展開されるフーガは見事に構築されていた。
 バリトン独唱が入る第6曲では、ゲルネがあの射るような鋭い視線を客席に向け、ドラマティックで胸に迫る歌唱を聴かせ、ハーディングもオーケストラと合唱から力強い演奏を引き出した。それはシンフォニックで立体的なレクイエムであり、聴衆の好みは分かれたようだが、筆者としては説得力のある解釈だと思った。
 この夜のプログラム前半では、ベートーヴェンのヴァイオリン協奏曲をクリスティアン・テツラフがきわめて自在な表現とテンポで(時にはかなり極端で独特な表現も)弾き切り、ハーディングもオーケストラもその予断を許さない展開にぴたりと付けていた。

 ハーディングはひじょうに意思が強く、作品に対して強いアイディアを持ち、それを実現すべくオーケストラを細部までコントロールし、妥協をしない指揮者だと言えるだろう。そうした彼の姿勢は、たとえばマーラー・チェンバー・オーケストラのような自発性の強い精鋭集団とはとても合うと思うのだが、伝統色の強いLSOとの関係作りは必ずしも順調ではなく、オーケストラが彼のアイディアを消化しきれないまま弾いていると感じることが過去に少なからずあった。しかし今回の《ドイツ・レクイエム》では指揮、オーケストラ、合唱、独唱の方向性が一致した演奏で、本人も納得できる出来だったのではないかと思う。


文: 後藤 菜穂子(音楽ジャーナリスト/在ロンドン)



<ロンドン交響楽団 東京公演>
2015年9月28日(月) 19:00 サントリーホール
モーツァルト: ピアノ協奏曲第24番 ハ短調 K.491
マーラー: 交響曲第4番 ト長調

指揮: ベルナルト・ハイティンク
ピアノ: マレイ・ペライア
ソプラノ: アンナ・ルチア・リヒター

●発売中 【チケットのお申し込み】


<ファイナルシンフォニーII by ロンドン交響楽団>
2015年9月27日(日) 15:00 フェスティバルホール(大阪)
2015年10月4日(日) 13:00/18:00 横浜みなとみらいホール

●一般発売 7/18(土) 10:00 【チケットのお申し込み】


ロンドン交響楽団 プロフィール&来日ツアー日程
 

PAGEUP