先日、トーマス・ヘンゲルブロック指揮ハンブルク北ドイツ放送響の日本ツアーが終わり(たくさんの方々に聴いていただき、本当にありがとうございました)、その中で唯一、6月5日の東京文化会館・都民劇場主催のコンサートでシューマンのピアノ協奏曲が、ハオチェン・チャンのソロによって弾かれました。その演奏はこの名門オーケストラとの共演にあたっての緊張感ゆえか?すべての方々が満足する演奏にはならなかったものの(私も正直言いますと、ふ~ん?という感じで聴いておりました・・・すごく弾ける!しかも教養をもって・・・でも、どこか・・・と。)、反面、アンコールで弾いたプロコフィエフの「トッカータ」の爆発的な演奏に、なるほど、そういう志向なのだな、と思った方も多いと思います。
ところが、どうやらそうではないらしいのです。
(と、これ、今まで彼を聴いてきたファンの方々には、何を今更・・・と言われるかもしれませんが)
今日のお昼に、横浜・青葉台のフィリアホールでハオチェン・チャンは1時間のコンサートを開きました。来週6月16日(火)に紀尾井ホールで弾くプログラムのうち、ヤナーチェクのピアノ・ソナタ、シューマン「クライスレリアーナ」、ヒナステラのピアノ・ソナタ第1番を弾いたのですが、ちょっと驚きました。先日の協奏曲の日とはだいぶ趣が違う・・・。
というのは、特にヤナーチェクのソナタの第2楽章や、シューマン「クライスレリアーナ」の静かなナンバー(瞑想的な“オイゼビウス”と位置付けられる方面のいくつか、で)における、澄んだデリケートな、語るような歌うような音色、詩的に広がり聴きての心をしんとさせる静寂・・・先日聴かれなかった部分が多々あったからです。
特に前者における、(*1)デモに対抗する軍によって殺された若い労働者を悼む静かな厳粛さは、胸が痛くなるほどでした。そういうピアノを弾く人なのですね!彼は。
(あとで担当から聞いた話では、彼はラドゥ・ルプーのピアノが大変好きで尊敬しているとのこと。なるほど。。。 そしてさらに調律師の方からの話しでは、そういった部分に関して倍音がきれいに広がるような調整をしてほしい、という念押しがあったとのことです)
もちろん、協奏曲の日に聴いたラン・ランばりの超絶技巧を全開にして弾く部分というのは随所にあって(もっとも、むしろそちらの方はまだ少しタイトな気がしました)、その面を、前述の詩的・瞑想的な部分とうまくバランスをとりながら弾き、立体的に楽曲を聴き手に示す、というあたり、とてもよく考えながら演奏しているのだな、と感心させられました。
そういう意味で、最後に弾かれた(*2)ヒナステラのピアノ・ソナタ第1番というのは非常に面白く―― というのは、この曲はおっそろしく技巧的難曲で、感じとしてはバラキレフの「イスラメイ」くらい凄いんじゃないでしょうか? その途中でふっと静かな夜の音楽のようなものが交じるわけです。これは“弾ける人”が弾かないと、曲の体をなすまい・・・そして果たしてハオチェン・チャンというピアニストに弾かれたことで(私は初めて実演で聴いたのですけど)、とても充実した面白いソナタとして聴くことができました。
中国からの若きライジング・サン。先輩のラン・ランやユジャ・ワンとは少し方向性の違ったピアニズムを、ぜひ来週6月16日(火)紀尾井ホールで皆さまと分かち合えれば、と思います!
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(*1)
タイトルの「1905年10月1日」に、チェコ人学生のための大学をブルノに設立することを支持するデモが行われたが、それに対抗する軍によって、若い労働者の一人、フランティシェク・パヴリークが殺された。ヤナーチェクは軍に対して、また、こうした事件を引き起こした社会構造そのものへの怒りと葛藤を、このピアノ・ソナタに託した。
第1楽章「予感」、第2楽章「死」。
(*2)
ブエノスアイレス生まれのヒナステラが、アメリカに渡ってからの1952年に書いた、それまで漠然と抱えていた民族意識を具体的な形で作品へと結実させたピアノ・ソナタ。
[当日配布のプログラムより抜粋・要約]
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(公演詳細)
2015年6月16日(火) 19:00 紀尾井ホール
ヤナーチェク: ピアノ・ソナタ 変ホ長調 「1905年10月1日、街頭にて」
シューマン: クライスレリアーナ op.16
ベートーヴェン: ピアノ・ソナタ第26番 変ホ長調 op.81a 「告別」
スクリャービン: 2つの詩曲 op.69
スクリャービン: 2つの詩曲 op.69
詩曲 op.32-1
ヒナステラ: ピアノ・ソナタ第1番 op.22
→ ハオチェン・チャン プロフィール&来日スケジュール
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