陽射しは強くとも、空気が秋のそれになってきましたね。
さて、先日来お伝えしていますように、今年もイーヴォ・ポゴレリッチが来日公演を行うことになりました。今回の日本は東京公演1回のみ!
[イーヴォ・ポゴレリッチ ピアノ・リサイタル]
12月14日(日)19時 サントリーホール
カジモト・イープラス会員限定先行受付9月11日(木)12時 ~ 15日(月・祝)
●お申し込み一般発売9月21日(日)10時~
●お申し込み
1980年、ショパン・コンクールの審査員だったマルタ・アルゲリッチが
「だって彼は天才よ!」と言い捨て、ポゴレリッチの落選に怒って帰国してしまったという、有名すぎるくらい有名なエピソードから30余年。以来、ポゴレリッチは何度も日本に来ましたが、ずっと継続して聴かれている方、たまに聴きに行かれる方、2005年にだいぶ間を空けた後の来日公演を聴かれた方、最近初めて聴いたという方、また昔聴いて以来、最近になって久しぶりに聴かれた方・・・これはそれぞれ、相当にポゴレリッチの「演奏」に対しての印象が違うのではないか?と思います。
まずどんな時でも
「普通のいき方とはひどく違った美学で風変わりな演奏をする・・・」という基点は変わらないかもしれませんが、上記のようなどの時点で聴いたかによって、「ここまでいったらついていけない」「いや、案外普通じゃないか」「一時はどうなることかと思ったが、すごく安定してきてるな」「昔と同じく相変わらず変わっているけど、変わらずやはり凄い」等など・・・といったところではないでしょうか?
私どもスタッフは幸運なことに(好む好まずに関わらず)、毎回聴いておりますので、その変遷を大まかにいいますと、
1990年代の、相当風変わりではあってもカッチリと造型された有無を言わさぬヴィルトゥオーゾぶりを披露してきたあと、2005年に久しぶりに来日した折は、風貌も変わっていましたし(人生における最も悲しい出来事から立ち直っていない・・・ということは恐らくあったと思います)、例えばショパンのソナタ第3番が45分もかかり、あまりに遅い――音と音との間の時間が長すぎて曲が認識できないほどの――といった、また、フォルティッシモの轟音がすさまじすぎて音が割れてしまう、というある種の痛ましさを伴っていました。そして聴き手の多くが戸惑いを隠しきれないという結果をもたらしました。
さらに2007年を経て、2010年のリサイタル・ツアーでは、(再び)ショパンのソナタ第3番、リスト「メフィスト・ワルツ」、ブラームス「間奏曲」、ラヴェル「夜のガスパール」でトータル3時間半(!)かかる、という、そして途中でお帰りになるお客様がいた、というような事態にも。
この頃のポゴレリッチには、何か深い“
虚無”がありました。聴衆を呪縛する強力な不思議な力があったにしても。
そこに
変化が現れたのは、2012年の来日公演。室内オーケストラと演奏した(彼にとっても初のレパートリーである)ショパンのピアノ協奏曲第1番で、80~90年代も含め、これまでのポゴレリッチの演奏からは感じたことのない安らかな何か、
幸福感(?)・・・そうした淡い光がさしていたのです。思わず涙が出た、という方も少なくなかったようです。
そして昨2013年、リサイタルで弾いた、ポゴレリッチの十八番のひとつ、リスト「ロ短調」ソナタには、かつての巨人が弾いていた
超ヴィルトゥオーゾぶりと、天使と悪魔が隣同士にいて交互に顔を出すような、
凄いデモーニッシュな力が横溢していました。演奏時間も、それは他の人にくらべればかかっていますが、それでも許容範囲内。
またもう一つのプロ―― ベートーヴェン・プロで彼が日本で披露した「悲愴」「熱情」「テレーゼ」ソナタほか。ここしばらくの混濁した強音は姿を消し、不思議なテンポの切り替えやニュアンスなどは、他のピアニストとは全然違うものではあっても、彼にとって、また楽曲にとっての
必然を示すようになり、私たちはここに
巨人ポゴレリッチの完全復活を見ることができたのです。
(今、演奏会場で配布しているチラシに、ベルリン在住の評論家・城所孝吉さんが、そのあたり、簡潔にして的確な文章を書いていらっしゃいます)
復活?・・・いや新生?
そう、昨年の演奏にみなぎっていた前向きな明るさとともに、今回のプログラミングは過去になかったもの・・・全曲がポゴレリッチにとって
新しいレパートリーなのです。逆に言うとこれまで、ショパンやリストのソナタなどは、かなり頻繁に弾かれていて、ファンにとっては彼がこの曲のこの部分をこのように弾く、と熟知できるくらいになっていましたが(もちろんそれでもビックリすることはあります)、こうした新しい曲がポゴレリッチによってどのように“再創造”されるのか?かなりの興味です。
ポゴレリッチの使う楽譜を一度でも見たことのある人ならわかります。あの膨大な書き込み、指示。彼の一見「不可思議」な演奏は、一つの楽曲を何年も
考えに考え、弾きこみに弾きこんだ末の確固たる解釈に基づいた盤石なものであることを。
些か長すぎる紹介になってしまいましたが、ある一アーテイストの復活、そして真にクリエイティヴな時、というものを味わっていただければ嬉しい限りです。
■チケットのお申し込みはこちら
カジモト・イープラス会員限定先行受付9月11日(木)12時 ~ 15日(月・祝)
●お申し込み一般発売9月21日(日)10時~
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イーヴォ・ポゴレリッチ プロフィール