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2013/02/12 |

●ユリアンナ・アヴデーエワが語る ~ブリュッヘン&18世紀オケとの日本公演に寄せて~

2011年秋に全国リサイタル・ツアーを行ったユリアンナ・アヴデーエワがかえってきます!
ショパン国際コンクールでの優勝から、はや3年。
今年2013年3・4月には、福岡大阪横浜高岡にてリサイタルを行うほか、18世紀オーケストラとの最後の来日となるフランス・ブリュッヘンとの共演で、ヒストリカル・ピアノ(1837年エラール)にも挑むアヴデーエワ。

本日は、ブリュッヘン&18世紀オケとの共演について、じっくり訊きます。

■楽器について

写真: アヴデーエワが東京で使用予定のエラール

―今回はなんと、ブリュッヘンの指揮でヒストリカル・ピアノに挑戦しますね。

1837年にパリで製作された「エラール」を弾きます。1837年といえば、ショパンがパリにいた時代です。この楽器は私が昨年の12月に18世紀オーケストラの事務局の方とアムステルダムに試弾に行って、セレクトした楽器です。このエラールを所蔵し、メンテナンスも担当なさっている方が、今回、調律師としてアムステルダムから東京に来てくださいますので、心強いです。

―もともと学生時代に古楽器を勉強しているのですよね?

学生時代にモーツァルトの時代のピアノ、つまりフォルテピアノを弾いたことはあります。勉強のためにフォルテピアノで《ハンマークラヴィーア》ソナタの録音もしています。エラールが現在のピアノの“父”であるとすれば、フォルテピアノはさらに前の世代の“祖父”のような存在ですよね。

―その後、ヒストリカル・ピアノを弾くことになったきっかけは何だったのでしょうか?

2010年にショパン国際コンクールに優勝したのち、ショパン研究所(ショパン・インスティチュート)の所長であるレシンツキ氏から、研究所が所蔵するエラールを弾いてみないかというご提案をいただいたんです。レシンツキ氏はワルシャワの「ショパンとそのヨーロッパ」音楽祭の監督もなさっていて、2011年の音楽祭で、1849年製のエラールを弾きました。共演はエイジ・オブ・エンライトゥンメント管でした。

―そして昨年夏に、ワルシャワで再びその1849年製のエラールを弾いたんですよね?

はい、ブリュッヘンさんの指揮・18世紀オーケストラとの共演で、ショパンのピアノ協奏曲2曲を一晩で演奏しました。リハーサル時間を数日確保いただいて、みっちり合わせることができました。ショパン研究所所蔵のエラールとは一年ぶりの「再会」でしたが、久しぶりに大事な友人に会ったような感動がありました。エラールのメカニズムは、これまで私が弾いてきたモダンのコンサート・グランド・ピアノのメカニズムと全く異なるので、この楽器と“共通言語”を話せるようになるまでには毎回、時間がかかります。研究所のエラールはとてもはっきりしたスピリットとキャラクターを持っています。一筋縄ではいかないキャラクターなので苦労しますが(笑)、それが達成されると、とても親密な“友人”になれるんです。


写真: 2012年夏、ブリュッヘン&18世紀オケと(ワルシャワ)

―ヒストリカル・ピアノで演奏することによって、ショパン作品に対するアプローチは変わりましたか?

もちろんです!初めて弾いた時には、ヒストリカル・ピアノが、モダン・ピアノとは全く異なるサウンドの世界、美学を持っていることに驚きました。弾き手のすべてを変えてしまうほど、ヒストリカルとモダンの楽器には大きな違いがあります。まず、スコアから作品を理解していくプロセスが変わります。フレージングやペダルの按配、ダイナミクス(強弱)のように作曲家がスコアに書き記している注釈が突如、真逆の意味を持つようになることさえあります。例えば、長めのペダルの記号がある場合――モダン・ピアノで弾いていた時には“なぜこういう指示をしたのだろう…異なるハーモニーにまたがっているのになあ”と思っていたのに、ヒストリカル・ピアノで演奏したら自然に響いた、ということがあります。アーティキュレーションや、打鍵のタイミング、フレージングも変わります。

―普段のモダン・ピアノでの演奏に、古楽器での演奏の経験が生かされることもありますか?

ヒストリカル・ピアノの最大の特徴は、モダン・ピアノほど音量、つまりパワーがないことだと思います。そういった意味で、初めてエラールでショパンを弾いた時には、全く新しい美学の世界にいざなわれました。いつもとは違う、“他の音楽表現の方法”を探さねばならなくなるからです。個人的には、ヒストリカル・ピアノでは、人間の声による音楽表現によりいっそう近づいてゆける気がします。“音符を弾く”ことに加えて、音楽においてどのように“話す”か、ということを強く意識させられるのです。普段は速く弾ききっているパッセージの表現法が変わったりしますが、私にとってはそれがとても面白い。時には、こうしてヒストリカル・ピアノで得た新しいアイデアが、モダン・ピアノを弾く時に自然に体から出てきたりします。また、モダンだけ弾いていては絶対に得られなかった表現に出会えたりもします。もちろん、毎日ヒストリカル・ピアノを弾いているわけではないのですが、こうしてヒストリカルとモダンの両方のピアノで演奏することが、私の中に新しい新鮮な空気、新しい発見をもたらしてくれます。

■ブリュッヘン・18世紀オーケストラとの共演について

―今回(2012年夏)ワルシャワでは、ブリュッヘン指揮18世紀オーケストラと一週間にわたって連日、リハーサルや公演を行いました。この経験を振り返ってみていかがですか。

ブリュッヘンさんと18世紀オーケストラとともにショパンの音楽にアプローチできることは大きな喜びです。18世紀オーケストラはショパンを演奏することに対してとても高いモチベーションをもっていらっしゃり、ショパンを演奏することを心からエンジョイしています。そしてブリュッヘンさんとはいつも、“共に音楽を作る”ことができます。リハーサルでは長い時間をかけて、様々な新しいアイデアを一緒に試します。たった一つの音楽的アイデアを単になぞっていくだけでなく、幾つかのアイデアを実際に試してみて話し合ったり…。そのようにブリュッヘンさんと一緒に、今出来うる限りの最高の音楽的結果を目指せることが、とても楽しいです。4月の東京公演が楽しみで、すでに興奮しています(笑)


写真: 2012年夏、ブリュッヘン&18世紀オケと(ワルシャワ)

―ブリュッヘンからはリハーサルと公演でどのようなことを学びましたか?

ブリュッヘンさんの指揮姿から、とにかく色々なことを学びました。今回ワルシャワでは、ピアノが縦に配置されていました。私がオーケストラのメンバーに囲まれながら、指揮のブリュッヘンさんと真正面から向き合うという配置です(上記写真を参照)。これは初めての経験だったのですが、マエストロの顔の表情が全て見えますし、腕で指揮する様子も全て目に入ります――ブリュッヘンさんはとてもクリアに指揮される方です。今どういうふうに音楽を感じているかが、顔の表情から実によくわかりましたし、マエストロの動きや解釈の全てが自然であることに深くインスパイアされました。普通ならよく、経過部でフレージングが大げさになったり、リタルダンドが強調されすぎたりすることがありますよね?でもブリュッヘンさんの流れるようなショパンの演奏スタイルは、どこをとっても自然なのです。ブリュッヘンさんとの共演は、私にとって素晴らしい経験です。

■楽譜について

―今回も「ナショナル・エディション」でショパンを演奏しますね

はい、実はブリュッヘンさんと18世紀オーケストラも、初めてショパンのピアノ協奏曲を演奏した2005年(注:ソリストはダン・タイ・ソン)以来、ナショナル・エディションでしかショパンを演奏したことがないそうです。私はショパン国際コンクールの際にもこの版を使いました。

―この楽譜について詳しく教えてください

ポーランド政府のイニシアティヴにより、ヤン・エキエル氏が数十年かけて、ショパンのオリジナル・スコアを研究しながら編纂した版です。ショパン国際コンクールでもナショナル・エディションの使用が推奨されています。
私にとっては、ナショナル・エディションを通してショパンの「原典」を知るということは――バッハ演奏において原典版が重視されるのと同じく――、とても重要です。もちろん、他のエディションに当たることが無意味であるということではありません。逆に、そうした楽譜を通じて異なる様々なアイデアに触れ、多くのことを学ぶこともできます。しかし一方で、“翻訳”というプロセスを介さずに作曲家自身のアイデアをきちんと知ることも重要だと思うのです。そこから演奏家が感じ・理解して自分の解釈に昇華させることが、必要だと思います。

旧来のショパンの楽譜とナショナル・エディションは、フレージングやダイナミクス(強弱)、アーティキュレーションの点で多くの違いがみられます。特にピアノ協奏曲の場合は、オーケストラ・パートにもそうした違いが散見されるために、従来の楽譜での演奏とは異なる印象を与えるんです。私は個人的に、このナショナル・エディションによるピアノ協奏曲のオーケストラ・パートがとても好きです。従来のものよりもサウンドが透明で、演奏も軽やかになるからです。ピアノ協奏曲はどちらもショパンの若かりし頃の作品ですので、オーケストラ・パートが後期ロマン派の音楽のように演奏されるよりも、合っているのではないかと思います。さらにオーケストラ・パートがバロック・オーケストラによって演奏されると、そうしたナショナル・エディションの特徴がいっそうくっきりと浮かび上がってきます――サウンドやピッチがもともと異なる、ということも大きいとは思いますが。とにかくフレッシュに聴こえるんです。



―ブリュッヘンとショパンを演奏したことで、ナショナル・エディションへの理解が深まったということですか?

ええ、まさにその通りです。バロック時代の慣習によっている18世紀オーケストラとの共演を通して、ショパンがフレージングやダイナミクス(強弱)に対してどのような意図をもっていたのか、よりクリアに考えられるようになりました。こうした経験を通して、自分のショパンの音楽に対するアプローチを深めていけたら嬉しいです。

―4月の公演も楽しみですね。

日本でヒストリカル・ピアノを弾くのは初めてです。新しいことに挑戦することが大好きですので、わくわくしています。日本の聴衆の皆さんに久しぶりにお目にかかれるのを楽しみにしています。


●ユリアンナ・アヴデーエワ 2013年 日本ツアー

■2013年 3月28日(木) 19:00 福岡/福岡国際会議場メインホール [詳細] 【A】
【問】ユリアンナ・アヴデーエワ 福岡公演事務局 092-752-2003

■2013年 3月31日(日) 14:00 大阪/ザ・シンフォニーホール [詳細] 【A】
※ザ・シンフォニーホール開館30周年記念
【問】ABCチケットセンター 06-6453-6000

■2013年 4月2日(火) 19:00 横浜/横浜みなとみらいホール [詳細] 【A】
【問】神奈川芸術協会 045-453-5080

■2013年 4月5日(金) 19:00 東京/すみだトリフォニーホール [詳細] 【B】
※ブリュッヘン・プロジェクト
【問】カジモト・イープラス 0570-06-9960
   トリフォニーホールチケットセンター 03-5608-1212

■2013年4月6日(土) 19:00 富山/富山県高岡文化ホール 【A' 】
【問】富山県高岡文化ホール 予約専用フリーダイヤル 0120-629-630


【プログラムA】
バッハ : フランス風序曲 BWV831
ラヴェル : 夜のガスパール
   ***
ショパン : 夜想曲第4番 op.15-1
ショパン : 夜想曲第5番 op.15-2
ショパン : バラード第1番 op.23
ショパン : 3つのマズルカ op.50
ショパン : スケルツォ第2番 op.31

【プログラムA' 】
ハイドン : 変奏曲 ヘ短調
ハイドン : ピアノ・ソナタ 変ホ長調 Hob XVI 49
ラヴェル : 夜のガスパール
   ***
ショパン : 夜想曲第4番 op.15-1
ショパン : 夜想曲第5番 op.15-2
ショパン : バラード第1番 op.23
ショパン : 3つのマズルカ op.50
ショパン : スケルツォ第2番 op.31

【プログラムB】
~ブリュッヘン・プロジェクト~
指揮: フランス・ブリュッヘン 18世紀オーケストラ

モーツァルト : 交響曲第40番
   ***
ショパン : ピアノ協奏曲第1番 ホ短調 op.11(ピアノ:アヴデーエワ)※
ショパン : ピアノ協奏曲第2番 ヘ短調 op.21(ピアノ:アヴデーエワ)※

※1837年パリ製のエラール(ヒストリカル・ピアノ)を使用予定
※「ナショナル・エディション」を使用

ユリアンナ・アヴデーエワ プロフィール
18世紀オーケストラ プロフィール

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