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ピーター・ゼルキン (ピアノ)
ピアノ
ピーター・ゼルキン
Peter Serkin, Piano
© Kathy Chapman
はかりしれない知性と情熱、
恐るべき集中力で聴き手を深遠なる世界へと導くピアニスト



●プロフィール

 情熱的でしかも誠実な芸術家として知られる米国のピアニスト、ピーター・ゼルキンは、現在活躍しているアーティストの中でも非常に深い思想を持ち、個性豊かな一人である。デビュー当初から一貫して5世紀におよぶ広範囲なレパートリーを取り上げ、作品の本質を伝えてきた。その演奏活動を通して、全世界の尊敬を勝ち得ている。

 彼が受け継いだ豊かな音楽的遺産は数世代前まで遡る。祖父はヴァイオリニストで作曲家だったアドルフ・ブッシュ、父はピアニストのルドルフ・ゼルキンである。1958年11歳でカーティス音楽院に入学、リー・ルヴィージ、ミエチスラフ・ホルショフスキー、父ゼルキンらに師事した。その後は、エルンスト・オスター、マルセル・モイーズ、カール・ウルリッヒ・シュナーベルのもとで研鑽を積んだ。世界中の一流オーケストラと共演を重ね、室内楽でもアレクサンダー・シュナイダー、パメラ・フランク、ヨーヨー・マ、ブダペスト弦楽四重奏団、ガルネリ弦楽四重奏団、オライオン弦楽四重奏団、自らも創立メンバーの一人となっているグループ“タッシ”などと活発に活動を続けている。
  20世紀、21世紀の重要な作曲家たちの熱心な支持者であるゼルキンは、シェーンベルク、ヴェーベルン、ベルク、ストラヴィンスキー、ヴォルペ、メシアン、武満徹、ヘンツェ、ベリオ、ナッセン、リーバーソンらの作品を世界中の聴衆に紹介している。重要な作品の世界初演も多く、とりわけ、武満徹、ピーター・リーバーソン、オリバー・ナッセン、アレクサンダー・ゲールらが、彼のために作品を書いている。

 2004/05年のシーズン、ピーター・ゼルキンはチャールズ・ヴォリネンのピアノ協奏曲第4番をジェームズ・レヴァイン指揮のボストン交響楽団と世界初演し、続いてカーネギーホールでニューヨーク初演した。さらにリーバーソンのピアノ協奏曲第2番『赤いガルーダ』をジェームズ・コンロン指揮のニューヨーク・フィルとニューヨーク初演している。2005/06年シーズンにはセント・ルークス管とカーネギーホールでヴォリネンによるピアノと管弦楽のための作品を世界初演したほか、カーネギーホールおよびギルモア音楽祭でエリオット・カーターのピアノ曲を初演している。いずれも、ゼルキンの希望によりカーネギーホールとギルモア音楽祭が作曲者に委嘱した作品である。そのシーズンにはさらにサンフランシスコ、デトロイト、セントルイス、トロントの各交響楽団と共演したほか、シカゴのオーケストラ・ホール、アスペン音楽祭、カザルス音楽祭、タングルウッド音楽祭、カラモア音楽祭などでリサイタルを行っている。

 レコーディングはバッハからベリオまで広範囲な作品に及び、彼の卓越した音楽的視点を反映している。2000年にコッホ・レコードからリリースした『ジ・オーシャン・ザット・ハズ・ノー・ウェスト・アンド・ノー・イースト(大洋に東西はなく)』には、ヴェーベルン、ウォルペ、メシアン、武満、ナッセン、リーバーソン、ウォリネンらの作品が収められている。同年にはBMGからベートーヴェンのソナタ3曲がリリースされている。最近の録音では、パメラ・フランクとの『ブラームス:ヴァイオリン・ソナタ集』、オライオン四重奏団との『ドヴォルザーク:ピアノ五重奏曲』、ガルネリ四重奏団との『ヘンツェとブラームス:『五重奏曲』、アンドラーシュ・シフとブルーノ・カニーノと共演した『バッハ:2台、3台のチェンバロのための協奏曲集』、オリヴァー・ナッセン指揮ロンドン・シンフォニエッタとの『武満徹:夢の引用』がある。最新録音は、アルカーナからリリースされた『シェーンベルク:ピアノ作品全集』である。
  1973年にシュナイダー指揮イギリス室内管とRCAに録音したモーツァルトのピアノ協奏曲6曲(第14〜19番)の録音は、グラミー賞にノミネートされ、名誉あるドイツ・レコード賞を獲得、シュナイダー指揮イギリス室内管とRCAに録音したこのアルバムはステレオ・レビュー誌の「年間最優秀録音盤」と過去20年間の最優秀録音の一つにも選ばれた。この他にも、『メシアン:幼子イエスにそそぐ20の眼差し』、『メシアン:世の終わりのための四重奏曲』(いずれもBMG)、『ストラヴィンスキー、ウォルペ、リーバーソンのピアノ独奏曲集』(ニュー・ワールド・レコード)がグラミー賞にノミネートされた。
  2001年、ボストンのニューイングランド音楽院から名誉博士の称号を贈られた。現在ゼルキンは、妻レジーナと5人の子供たちとともにマサチューセッツ州に住んでいる。



●コンサート評から


現代最高の音楽家の一人

10代の頃から大胆で自己主張の強い演奏で注目されたピーター・ゼルキンだが、柔軟さと円熟味が加わった現在、世界で最も思慮深く、個性的な音楽家と言われている。
幅広いレパートリーを持ち、素晴らしいバッハ弾きであると同時に、現代音楽の優れた解釈者であり、武満徹を含む数多くの作曲家が彼に作品を捧げている。
今回のプログラムでは、その武満作品と、武満徹がこよなく愛したバッハの作品に焦点をあてたピーター・ゼルキンならではのプログラミング。バッハは「ゴルトベルク変奏曲」を今までに3度も録音するほど、ピーター・ゼルキンにとってはこだわりのある作曲家である。バッハ/武満の深遠なる宇宙がどのように描き出されるか、大変期待される。

(ニューヨーク・マガジン誌)

繊細な情感と力にみちたピアノ

N響定期演奏会第1496回、後半に置かれたブラームスは一瞬たりとも気が抜けない緊張に貫かれた演奏だった。ピーターのピアノはこれまで来日していくつかのリサイタルをきいているが、これほど感銘を受けたのははじめてだ。張りつめた感情から生まれる繊細な情感と力が、大きく音を揺り動かしていく。それは父ゼルキンの剛直な精神性よりも、もっと繊細で生々しいロマンティシズムであり、それは師であるホルショフスキーに近いものだろう。

(三橋圭介:週間オン・ステージ新聞 2003年10月31日)

ブラームスの奥深い魅力を再認識

ピーター・ゼルキンとN響のブラームスのピアノ協奏曲第1番には、そのマジカル・モーメントがあった。重苦しい絶望感から、祈りを通じて次第に心が開放され、やがて明るい光の元へ。そんなブラームスの心の軌跡を深読み出来るほどの奥行きをたたえた演奏であり、それをソリストとオケが共有していたのが嬉しい。ピーターはソロ・リサイタルでも素晴らしい「ディアベリ変奏曲」と「雨の樹素描」を聞かせてくれたし、現代曲とクラシックの間にアーチをかけることの出来る現役で唯一のピアニストなのかもしれない。

(片桐卓也:モーストリークラシック 2003年12月号)


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